■第7話 タクの病気
『見たっ? なぁ、見た?? ヒロオミ~ぃ!!』
忍び込んだ古い家からの帰り道。 ふたりの顔は明らかに両極端のそれ。
暫し呆然として自転車を押して歩くヒロオミに、タクは興奮して高揚した
赤い顔で、まるで跳ねるように歩きながらまくし立てる。
『超おもっしれえ!!
なんだアレ?! すっげぇ、すっげぇよなぁ・・・。』
それはタクが欲しいおもちゃを見付けた時の顔だった。
幼い頃からいつも一緒にいるヒロオミには、タクの事などその声色ひとつ
で目を瞑っていてもなんだって分かる。
幼稚園の頃はある日突然モンシロチョウに夢中になり、虫かごを首から
提げては近所を駆けずり回った。
問答無用でヒロオミも道連れとなり、全く好きでもなんでもないそれを
捕まえようと、陽が暮れてもタクからの帰宅許可が下りず半べそをかいた
ものだ。 おまけに、虫かごいっぱいに獲ったびっしり詰まった蝶を見た
途端その興味は一瞬にして消え失せたらしく、そのくせ翌日虫かごの中の
動かなくなった大量の白い羽根を見た時には『ごめんねぇえええ!!』と
大声で叫んで泣きじゃくった。
『一緒にお墓つくろう。』とヒロオミは落ち込むタクの手を引き家の庭に
穴を掘ってふたりでモンシロチョウの墓を作った。 いまだにその時の
”もんしろちょうのおはか ”とこどもの字で書いたアイスキャンディ棒の
戒名がヒロオミ宅の庭の片隅にあったはずだ。
(つか、なんで俺ん家の庭に墓つくったんだろ・・・
タクん家だろ、フツーに考えたら・・・。)
小学校に上がっても中学に入学し思春期に突入しても、タクのその気質は
変わらなかった。 幼稚園児の時のまま、なにも変わっていなかった。
”面白い=好き ” 興味が湧くと、とにかくまっしぐらだった。
誰も手を付けられない、止めることが出来ない、小柄な暴走機関車だった。
タクがキラキラと目を輝かせて、あの史上最悪に口が悪いフランス人形の
事を話す横顔をヒロオミは何も言わず黙って横目で見ていた。
グゥゥウウウ・・・
ヒロオミの腹の虫が騒ぎ、そう言えばラーメン屋に行くために学校をサボ
って抜け出して来た事を思い出す。
あれだけ散々『ラーメンラーメン』言っていたタクの頭には先程の出来事
しかない様子で、大袈裟な身振り手振りで粗悪フランス人形の口ぶりを真似
してキャッキャと喜んでいる。
『なぁ・・・ ラーメンどーすんの?』 ボソっと呟いたヒロオミに、
タクはキョトンとした顔を向けた。
『・・・え? ラーメン??』
完全に、タクの悪い病気がはじまった。