■第5話 ちゃんと生きている人間
そのひと言に、タクとヒロオミは一瞬固まり、そしてゆっくり互いに目を
向け合う。 今聴こえたそれが聞き間違いではないか、無言で目線だけで
確かめ合うように。
そして、ふたりはゆっくりゆっくりもう一度少女に視線を向けた。
すると、
『反応~ぉ、薄っっ!!!
なんだ? 浅野いにお、知らねーのかよ。
”デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション”ってゆー・・・
・・・まぁ、いいや。 知らねーんなら。』
そう言って再びカーテンを閉め切り部屋へ戻ろうとして、その少女は背中を
向けかけたその動きを止め、慌てて振り返った。
『・・・、って。 違うわ!ボケぇっっ
なに、ヒトんち勝手に忍び込んでんだ、お前らぁああ。
ポリス呼ぶぞ、コルァアア!!』
矢継ぎ早に浴びせられるそれに、タクとヒロオミはぽかんとただ少女を見つ
めるしか出来ない。
思いっきり開いた口は、奥歯の銀色の被せ物までキラリ見えそうな程で。
少女は、あまりに静止し続ける勝手に庭に忍び込んだ学生服のアホ面ふたりに
これでもかという程のしかめ面を向ける。 しかし鋭く目を眇め睨みを利かせ
てもいまだ埴輪のような顔のままの無反応なふたりに痺れを切らし、苛つきが
爆発し厚手のカーテンを手の平でよけ窓を更に少しだけ開けて、身を乗り出し
て言った。
『だるまさんが転んだ やってんのかぁあああああ、ボケェ!!!』
その時。
タクとヒロオミに、その少女の姿がハッキリ見えた。
薄暗がりでぼんやりしていたそれがやっとクリアになり現実のものだと分かる。
彼女が ”幽霊 ”ではない、ちゃんと生きている人間だという事が。
天使のような透明感あるホワイトアッシュのロングヘアはふんわりとカールが
揺らめきそれがヘアサロンで人工的に作られたものではない事が一目で分かる。
髪の毛と同色の眉とまつ毛はやさしく、やわらかく。 陶器のようなツヤツヤの
肌は白くて透き通っていて、触れたらまるで壊れてしまいそうで。
そして一番印象的な大きく煌めく瞳は碧がかったそれ。 北ヨーロッパに多いと
言われるその美しい澄んだ深い碧色は、”吸い込まれそう ”という表現を体感
できる程の見目麗しいそれだった。