■第2話 怪しげな噂流れる古い大きな家
仲良く学校を抜け出したふたりは、いつもの通学路から横道に反れ駅前
のラーメン屋への近道になる住宅街のはずれを、ふたり乗り自転車で
のんびり走っていた。
タクの分の重みも無駄に加算されて踏み込まなければならない自転車の
ペダルに倍のパワーを消費するヒロオミの腹の虫もさすがにギュルギュル
と暴れる。
『俺もハラ減ったわ・・・。』 ぽつり呟いたヒロオミの学校指定白色
カッターシャツの背中をタクが突然肘でゴリゴリと突き、合図を送る。
『ん?』 慌ててブレーキをかけて自転車を停めると、上半身をひねり
タクへ振り返ったヒロオミ。
すると、タクが顎でそれを指し、まじまじとまっすぐ見眇めている。
『ぃ、今・・・
あの窓に・・・ 人影、 見えた・・・。』
タクが指すそれは、昔から怪しげな噂流れる古い大きな家だった。
尚も青白んだ頬をピクピク引き攣らせ、口ごもりながら続ける。
『ぁ、あそこって・・・
廃・・・屋、 だったんじゃなかったっけ・・・?』
その言葉に、ヒロオミもそれへ目を向ける。
壁には鬱蒼とツタが生い茂り、まるで建物を覆い隠すように草花が
生えるそこは、こどもの頃タクとふたりで肝だめしにこっそり庭に
忍び込んだことがあった場所だった。
『そーいやこどもん頃、忍び込んだよなぁ~・・・?』
幼い思い出を懐かしむように、どこか愉しそうに頬を緩める呑気な
ヒロオミに、 『そ、そんな事より、誰かいたんだってばっ!!』
タクは眉間にシワを寄せ肩に力を入れて過剰に怯えている。
思い切り仰け反ったタクの背中がヒロオミの大きなそれとピッタリ
くっ付き、少ししっとりしたその温度を若干不快に感じる。
人一倍ビビりなくせに好奇心は旺盛で、こどもの頃この家に忍び込
もうと言い出したのもタクの方だった。 あれはまだ小学校に上がる
前だったのではないだろうか。 朧げな記憶の中で、ぼんやりとその
時の景色を思い出そうとするヒロオミ。
すると、タクがぽつり呟いた。
『僕、あん時さ・・・ こどもん時・・・
白いワンピースの幽霊・・・
・・・見たんだよね、 実は・・・。』
その真剣すぎる声色に、ヒロオミは振り返って半笑いでタクに視線を
向ける。 『幽霊って・・・ あの、都市伝説の??』
『ぅん・・・
・・・見た、気が・・・ するんだ・・・。』
10年以上前の幼く拙い思い出を、今になってあまりに生真面目な顔と
シリアスなトーンで告白されて、その場で一笑に付してやろうと思った
ヒロオミもさすがに言葉を呑んだ。
(幽霊、って・・・。)
しかし一旦茶化すのは止めたけれど、まだやはりどうしても気が治まら
なかったその口から思わず弾むようにひと言、突いて出た。
『・・・じゃぁ、確かめに行っか。』