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ルート先輩をおんぶしたまま、家に着いた。時折首筋にあたるルート先輩の寝息がくすぐったくて、ミーシャはニヤニヤしながら帰った。もっとも、どれだけニヤニヤしていても端から見れば無表情なので、こういうときは自分の残念な表情筋がありがたい。


鍵を開けて家の中に入り、灯りをつけると、背中からもにゅもにゅと不明瞭な声と共に、ルート先輩が動いた。



「すいません。起こしちゃいましたか?」


「……ここどこ」


「家です」


「……先輩達は?」


「二軒目に行かれましたよ」


「寝ちまってたか……」


「起こすのが可哀想なくらい、よく寝てらっしゃったので、背負って帰って来ちゃいました」


「……悪いな。とりあえず下ろしてくれ」


「はい」



その場でルート先輩を下ろす。

酔いがまわっていて若干ふらついたが、普通に立てた。



「お前もう寝るか?」


「一応、その予定ですけど」


「ん~」


「飲み足りませんか?」


「ちょっと寝たら抜けたみたいだ。飲み足りねぇ」


「じゃあ、家の酒開けちゃいましょうか。お付き合いしますよ」


「おー」



顔が赤いルート先輩をソファに座らせて、ミーシャは貯蔵庫に置いてある貰い物の酒瓶を何本か取り出した。

ついでに台所に寄ってグラスとチーズと皿を取った。


ソファに戻ると、暑いのか、ルート先輩は服を着崩していた。

普段きっちりしている分、無防備な様子にそこはかとなく色気があるような気がしないでもない。一見地味だが、よくよく見れば顔立ちは整っており、酒精に頬を赤らめている様子にクラリとくる人もいるのではないだろうか。

普段との違いに、ミーシャもちょこっとだけドキリとした。



「先輩。どうぞ」


「おー。ありがと」



ルート先輩がゆるりと笑って酒の注がれたグラスを受け取った。そしてそれをチビチビ飲み出す。

ミーシャも手酌で自分の分を注いだ。

果実の華やかな香りと甘味が口の中に広がる。



「これ旨いな」


「こないだ将軍に頂いたんです」


「へぇ。流石将軍様。いい酒知ってるなぁ」


「酒飲みでらっしゃいますからねぇ」


「サンガレアに行ったときも思ったが、お前酒強いな」


「そうですね。弱くはないです」



ルート先輩がクツクツと笑った。



「お前が男じゃなくて良かったよ」


「何でですか?」


「うっかり惚れたら困る」



ミーシャは含んでいた酒を吹き出した。その反応にルート先輩はけらけら笑いだした。



「……えーと、なんでまたそんなことを」


「お前、真面目で一生懸命だし、強くて逞しいけどお茶目で、おおらかでいつもニコニコしてるだろ?中身だけなら割と好みだからな」


「えーと……ありがとうございます?」


「本当女で良かったよ。神子様の子供に惚れるとか不毛すぎる」


「どういう意味ですか?」


「俺は平民な上に元々は孤児だ。釣り合うはずないだろ?」


「うち、そういうのは気にしないと思いますよ?両親からは自分が選んだ相手なら何者でも文句言わないって言われてますし」


「ははっ。お二人はな。でも世間が許さんだろうよ」


「そんなもんですか」


「そんなもんだよ」


「先輩、恋人作らないんですか?」


「んー、性欲がなぁ……ここ数年ぱったり無いんだわ」


「あ、そうなんですか。やっぱり体質の影響ですか?」


「そうらしい。男同士だとどうしてもソッチありきなところがあるからなぁ。今恋人を作っても長続きしないだろうよ」



そう言ってルート先輩はグラスに残っていた酒を一息で飲み干した。ミーシャは酒瓶を手にとって、彼のグラスに注いでやる。ついでに自分の分も注いだ。



「早く体質が良くなって素敵な恋人作れたらいいですね」


「だなぁ」


「今好きな人いないんですか?」


「んー、ずっと好きな相手はいる」


「おっ!マジですか」


「お前の母親」


「……はっ!?」


「俺のいた孤児院さぁ、裏町のすぐ近くでな。糞みてぇに酷いところでさ。幼児趣味のド変態の相手させられたりとかしてたんだけどな。それをマーサ様が助けてくれたんだよ。ちゃんとまともな孤児院に皆移してくれて学校にも通わせてもらった。だから今の俺があるんだ」


「そうだったんですか……」


「助けに来てくれた時、めちゃくちゃ格好よくてさぁ。おまけに優しくてなぁ。俺の初恋。まさかまた会えるとは思わなかった」


「母様はルート先輩のこと覚えてました?」


「おぉ。立派になったって誉めてくれた」


「それは良かったですねぇ」


「うん」



ルート先輩が子供のようにあどけなくはにかんで笑った。

その顔を見て、ミーシャは何故か胸がドキンっと高鳴った。

それを誤魔化すように酒を口に含んだ。



「お前を一人前の薬師に育てることが俺のできる恩返しだろうなぁ」


「先輩」


「世辞抜きで筋がいいんだから、まぁ頑張れよ」


「はい」



ミーシャがにっこり笑って返事すると、ルート先輩が優しく微笑んだ。






ーーーーーー


もうじき朝日が昇る頃合いになるまで、2人でポツポツ話ながら酒を飲んだ。

ルート先輩は朝日を見ることなく眠ってしまった。

ミーシャはルート先輩を横抱きで抱えあげると、彼の部屋のベッドまで運んだ。窮屈じゃないように、ズボンのベルトだけ外して、布団をきっちりかけてやった。

眠るルート先輩のあどけない寝顔をなんとなく眺めた後、ミーシャはソファ周辺の片付けをしてから自室に戻った。


寝顔を見て、ドキドキした理由は今はまだ分からない。




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