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ひたすら薬を作り続ける毎日は冬季休み前日まで続いた。


ミーシャもルート先輩も疲労困憊といった様子だった。

本日の夜に領地へ戻ることになる。

それまでに準備をしなければならなかったが、ミーシャはまだろくにできていなかった。



「先輩、準備終わってます?」


「まだだ。服はどうしたらいい?」


「王都より暖かいので分厚いコートとかはいらないと思います」


「一応礼装も持っていった方がいいか?」


「あー、一応式典みたいなのがあるので、あった方が無難ではあります」


「分かった」


「夕飯は帰省してから食べさせてもらいましょうか。今から準備をしてたら、時間に間に合いませんし」


「そうだな。仕事が長引いたからなぁ」


「ですねぇ。疲れました」


「全くだ 」



2人で溜め息をはいた。

2人は家に着くと、大慌てで準備をして、転移陣起動の時間まで待った。

起動時間30分前にマーシャル達が帰って来た。2人ともミーシャ達とは違い、既に準備していたのか、すぐに荷物片手に転移陣のある部屋にやってきた。


全員が揃うと、部屋においてある遠隔通信機で全員が揃った旨を伝える。

神官長から起動時間を告げられた。

予定より少し早まり、15分後に起動することになった。



「ルート先輩、手を繋がなくて大丈夫ですか?」


「大丈夫だ。問題ない」


「それは良かったです」


「三半規管、丈夫なんですね」


「そうみたいだ」


「転移陣起動10分前」


「腹減ったなぁ」


「ご飯まだ残ってるかな」


「俺達用に作ってくれてるんじゃねーの?」


「あー、そうかも」


「転移陣起動5分前」


「私、がっつり肉食べたい気分だわ」


「牛丼食いたい」


「いいね、牛丼」


「ナティ、作っててくんないかな」


「牛丼に関しては、ナティが一番うまいからね」


「ナターシャ嬢は、確か、魔術師を目指している方だったか?」


「そうです。まだ中学校に通ってますけど、卒業したら王都の高等学校に通うんで、会う機会増えますよ」


「色んな意味で母親似な子なんです」


「そうなのか」


「転移陣起動1分前」


「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1」


「起動」



瞬間、強い光が周囲を覆った。






ーーーーーー


強い光がおさまると、そこは聖地神殿の中だった。マーサと神官長のムティファが出迎えてくれた。



「おかえりー」


「おかえりなさいませ」


「ただいまー」


「ただいま」


「お腹すいたー」



口々にいいながら、2人とハグを交わす。ミーシャらが挨拶を済ませるとルート先輩がマーサらの前に立って、立礼した。



「お久しぶりでございます。またお世話になります。よろしくお願い致します」


「ひさしぶりだねぇ、ルート君。うちは騒がしいけど、まぁ、ゆっくりしていってよ」



マーサが笑顔でルート先輩の肩を叩いた。



「はい」


ルート先輩もどこか緊張の残る顔で、ぎこちなく笑い返した。


ぐぅきゅゅうるるぅぅぅぅ・・・・・・


間抜けな音が室内に響き渡った。

ミーシャは素直に手をあげた。



「ごめん。私」


「皆、晩御飯まだなの?」


「うん」


「忙しくて時間ギリギリだったから」


「あらまぁ。夕飯、一応多目に作っといて正解ね。何はともあれ、まずはご飯ね。さ、移動しましょ」



そう言って母屋に向かって歩き始めたマーサに続いて、ミーシャ達も空きっ腹を抱えたまま歩き出した。


ミーシャの実家は大きく分けて3つの建物で成り立っている。


1つは領館。ミーシャらの部屋はここにあり、客人が来たときに泊まる部屋もこちらにある。


もう1つは母屋。ここは聖域内にあり、最奥と呼ばれる聖域の要の場所を中心に建てられた建物がある。マーサは基本的にはここを中心に活動しており、母屋と土竜の森の結界内部には許可された者しか入ることができないことになっている。


最後の1つは、比較的最近になって建てられた離れである。

ここは、瘴気との戦いのあと、仕事と家事を禁じられ、暇になったマーサが趣味で建てた木の家である。

マーサの故郷の伝統的な木造家屋らしく、家族からは結構評判がいい。


母屋のダイニングに着くと、家族皆がいた。皆と挨拶のハグとキスを交わす。

ルート先輩は父や祖父らに挨拶して、握手を交わしていた。


そうしていると、すぐに温められた料理が運ばれてきた。食欲をそそるいい香りに、今度はミーシャだけでなく、全員の腹の虫が鳴いた。


一拍おいたのち、母屋は笑いで包まれた。皆に座るよう促され、大人しく座り、いただきますと言うや否や、4人とも、がっついて食べ始めた。

猪肉の粕汁がなんとも美味である。


一通り食べ終わり、お茶を飲んでいると、マーサがミーシャとルート先輩の名を呼んだ。



「何?母様」


「実は2人にお願いがあってさぁ」


「お願い?」


「実は薬事研究所の手が足りなくてさ。明後日まででいいから、手伝ってくれないかしら?勿論バイト代は出すわよ。冬季休み中だから色つけて」



マーサは少し困った顔をして、こてんと首を傾げた。



「ダメかしら?」


「俺は構いません」


「私もいいわよ」


「本当!助かるわぁ。ありがとう、2人とも」



マーサがほっとしたような笑顔になった。



「明日から2日間、お願いね。行き帰りは馬車か馬用意するから」


「ルート先輩、馬乗れます?」


「乗ったことはないな」


「じゃあ、馬車で」


「用意しとくわ。お昼は研究所で食べられるから」


「分かりました」


「了解」



その日は時間も少々遅かったので、夕食を食べ終えたら、解散になった。ミーシャは疲れている上に満腹で重たい体を引きずって、領館の自室に戻った。

ベットに潜り込むと直ぐ様眠りに落ち、朝まで夢も見ずに熟睡した。





ーーーーーー


翌朝早朝。

ミーシャはすっきりと目が覚めた。

朝稽古の時間まで僅かに時間がある。ミーシャは昨日入りそびれた風呂に入ることにした。

荷物から手早く着替えをとり、一階の風呂に向かう。流石に朝稽古前は誰もおらず、大きな風呂は貸切状態だった。

体を洗い、のんびり温泉に浸かると、僅かに残っていた眠気もなくなった。

ミーシャは湯船からあがり、手早く髪を乾かして訓練着に着替えた。






ーーーーーー


朝稽古を終え、朝食を食べたら、マーサと共に早速馬車で薬事研究所へと移動した。

薬事研究所では所長自ら出迎えてくれた。

ミーシャは学生時代よく来ていたのである程度知っているが、2度目のルート先輩に対して簡単な場所や物の配置の説明がされたあとは、とにかく薬を作り続けることになった。

年明けの祝いで二日酔いの人間が増えるし、季節がら風邪を引く者も多いため、二日酔いの薬と風邪薬を所員と一緒になって、ひたすら作った。

薬事魔術はそれなりに魔力を消費するので、途中、回復のために補給をしつつ、薬事研究所の就業時間ギリギリまで薬を作り続けた。


帰りの馬車では、2人とも疲れてぐったりしていた。



「母様のことだから、こき使われると思ってましたが、本当に使い倒されましたね」


「だなぁ。昨日まで王宮で忙しく働いてた分、少々堪えるな」


「私、快諾したの後悔してます」


「あー・・・・・・はははっ」



ルート先輩が力なく笑った。



「腹へったぁ」


「お腹すきましたねぇ」


「明日も同じ感じだろうか」


「多分そうだと思います」


「年明けって何かするのか?」


「ちょっとした式典というか、神子の神事はあります。あとはひたすら皆で大騒ぎします」


「賑やかそうだな」


「賑やかですね、毎年」


「明後日は休みなら、その日のうちに体力回復させないとなぁ」


「そうですねぇ。まぁ、でも騒ぐのは年が明けて3日目までですから。それから冬季休み明けまではゆっくりしてますよ。比較的」


「比較的なのか」


「比較的ですね。どーんと催し物とかやって騒ぎはしませんが、母は酒好きな人達とひたすら飲んでますし、父は領軍の剣術バカ達と稽古してます」


「・・・・・・元気なご両親だな」


「両親に限らず、うちの家族はそれが取り柄ですから」



おどけて言うと、ルート先輩がクスクスと小さく笑った。


家に着くと、年明け前でなにかと忙しい母に代わり、長男のマーシャルを中心に子供達で夕食を作ってくれていた。


久々に食べるナターシャの牛丼をかきこみつつ、マーシャルに話しかけた。



「そういえば貴方達、今年はバイトしないの?」


「流石にしないよ。明後日は年越しイベントの設営とか手伝うけど、今年はゆっくりさせてもらうよ」


「昨日まで本当、忙しかったから」


「軍人さんは大変ねぇ」


「ミィ姉様とルートさんは明日まで臨時のバイトでしょ?」


「そうよ。明日も今日並みにこき使われてくるわ」


「冬季休み中は薬事研究所も閉まるはずじゃないの?」


「普通はそうだけど、なんか人手不足で予定量作れなくて休日返上状態なんだって」


「あらまぁ、それは大変ね」



ちらりと見ると、ルート先輩は黙々と美味しそうにキッシュを頬張っていた。

隣にはターニャとサーシャと陣取って、一緒に食べていた。

なんとも微笑ましい気持ちになる。


弟達が作ってくれた夕食を満腹になるまで食べると、明日も頑張ろうという気になった。






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