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ルート先輩が王都の自宅に越してきてから、早くも3ヶ月が経とうとしていた。


同居生活は今のところ上手くいっており、休みの日や空いた時間に薬の調合や薬事魔術をみてもらえるので、ミーシャはメキメキと腕が上がった。そのお陰で、十一の月から職場でも薬の調合をさせてもらえるようになった。

冬場は薬の需要が増えるため、大忙しである。持っている魔力が多い分、沢山の薬を調合できるミーシャは重宝されることになった。

頼りにされるのは嬉しいのだが、兎に角忙しく、毎日ヘロヘロになって帰宅する日々が続いている。


もうじき冬季休みに入ろうかという頃である。王都は雪は降らずとも、毎日底冷えする寒さが続いていた。

ミーシャはマフラー等で厳重に防寒して、ルート先輩と並んで帰路についていた。



「今日も忙しかったですねぇ」


「冬季休み入るまではずっと忙しいぞ」


「マジですか。去年は私いませんでしたけど、一昨年もこんなに忙しかったですっけ?」


「毎年冬場はこうだ。一昨年はまだお前は調合させてなかったからな」


「あー、そうでした」



疲れて丸まる背中をポンと叩かれた。



「シャキッとしろ。そのうち慣れる」


「はぁい」



ミーシャは背中を伸ばした。



「そういえば、先輩。冬季休み、どうしますか?私達実家に帰りますけど」


「あぁ。俺は家にいるよ」


「帰省されたりとかは?」


「俺は元々孤児で身寄りがない。育った孤児院もなくなったしな」


「……すいません」


「別に謝らなくていいぞ。特に何も気にしてないからな」


「そうですか……なら、一緒に実家に帰りませんか?休み中、家に1人は寂しいです」


「流石にそれは迷惑だろう。遠慮しておくよ。ありがとな」


「そうですか。ちなみに母は先輩が身寄りがないこと知ってるんですか?」


「多分な。大事な娘達と一緒に生活させる人間の身辺調査をしないわけないだろう?」


「そういうもんですか」


「あぁ」


「なら多分ですけど、母の頭の中には帰省する頭数にルート先輩も入ってると思いますよ」


「はっ!?」


「そういう人なんで」


「いやいやいや、流石に迷惑だろう。ただでさえお世話になってるのに」


「別にうちの家族は誰も気にしないですよ。お客さん来るの好きですし」


「いや、だからと言って……」


「念のため、家に帰ってから遠隔通信機で確認してみますか?」


「……そうしてくれ」


「はい」



そうこうしているうちに家に着いた。

マーシャル達はまだ帰っていないらしく、家の中はシンッと静まり返り、寒々とした空気に満ちていた。

ミーシャは魔導ストーブのスイッチを入れると、早速、遠隔通信機で実家に通信を入れた。然程待たずにマーサが応答した。



『はぁい。ミーシャ。元気?』


「元気よ、母様。そっちの皆は元気?」


『元気よぉ。この寒いのに毎日外で走り回ってるわよ』


「普段通りってことね」


『そういうこと。それで、どうしたの?今日は』


「冬季休みの帰省のことなんだけど」


『うん』


「ルート先輩、頭数に入ってる?」


『入ってるわよ』


「あ、やっぱり入ってるんだ」


『だって、あの子帰省する先とかないし、恋人も今いないようだからね。体質の改善のためにも家に来てもらおうと思ってるわよ』


「了解。伝えとく」


『うん。冬季休みに入ったら、すぐ帰ってくるんでしょ?』


「うん」


『色々準備をしてまってるわ』


「お願いね」


『じゃあ、寒いから気をつけるのよ?何かあったら、また連絡してね』


「はい。そっちも気をつけてね」


『あとがと。じゃあね』


「はーい」



通信機が切れた。

ミーシャは晩御飯の支度を始めようとしているルート先輩を振り返った。



「頭数に入ってました」


「マジでか!?」


「マジです。最初からそのつもりだったっぽいです」


「えー……いいのか、本当に」


「体質改善のためでもあるそうですよ」


「……あぁ、それがあったな」


「はい。諦めて一緒に帰ってください」


「……でも、年明けって家族で過ごすものだろう?俺がいて本当にいいのか?」


「細かいことは気にしなくていいんじゃないですか?うちはお祭り騒ぎが好きな人が多いので、元から家族だけで過ごしてませんし」


「そうなのか?」


「はい。祖父や母の飲み友達が酒持参で来たり、父を筆頭に領軍の剣術バカ達で新春稽古と称して、新年明けて早々連日稽古してますし」


「……随分賑やかそうだな」


「賑やかですねぇ、毎年。だから、ルート先輩が1人増えたところで、ぶっちゃけあんまり変わりません」


「そうか……それならご厄介になるよ」


「はい。年越しの時期にしか作らない料理もありますから、楽しみにしててください」


「あぁ」


「じゃあ、晩御飯でも作りましょうか」


「そうだな」


「今夜はキャベツとベーコンのシチューでいいですか?」


「あぁ。あと、芋のサラダを作る」


「あ、いいですねぇ。芋多目でお願いします。私シチュー作りますね」


「分かった」



それぞれ作業を分担して、夕食を作った。夕食を作り終える頃には、寒々しかった家の中も、だいぶ温まっていた。



「ただいまー」


「ただいま」


「おかえりー」



マーシャル達が帰って来た。



「今日の晩飯何?」


「シチューと芋のサラダよ。もうすぐできるわ」


「やった。腹減りすぎて倒れそう」


「忙しかったみたいだな」


「そうなんですよ、ルートさん。もう今日は1日中走り回ってました」


「この時期は人も増えるし、その分問題が起きやすくて」


「だろうな」



ルート先輩が労るように2人にハチミツとマーマレードをお湯で溶かしたものを差し出した。2人とも一言礼を言って受け取った。



「あー、生き返る」


「美味しー」



ルート先輩はもう作り終わっていたので、土竜印のエプロン(領地で大人気絶賛発売中)を脱いで椅子の背中にかけた。



「シチューできましたー」


「はーい」


「運ぶよ」


「おねがーい」



四人で手分けして、夕食をダイニングに運ぶ。テーブルの上は美味しそうな夕食でいっぱいになった。



「じゃあ、食べましょうか」


「「「いただきます」」」



4人でがっつり食べ始めた。温かいシチューが体の中から温めてくれるだけではなく、何気ない会話をしながら誰かと一緒に食べる食卓そのものが、ミーシャを温かく満たしてくれた。






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