第4話 覚悟とそれから
「ここに集めたのは、覚悟を確かめるためだ」
覚悟?一体どいういことだ?
「俺ら教師はお前ら一年生が二週間かけて学校に慣れ始め、その上化物に対抗する術も付けたのに、その化物の事や自分達がなんなのかを大雑把なことしか教えない理由がわかるか?」
周りがざわめきだす。
「ハッキリ言おう。お前らに簡単に死んでもらっちゃ困るんだよ。」
その場が一瞬凍りついた。中には何を言っているのかわからないという人もいる。かくいう俺もそうだ。
生徒が騒ぎ始めるのを遮るように、石垣先生が話を続けた。
「今、地球上でこの学校と同じ施設がいくつあると思うか?それはな、7つしかない。魔力を持つ者も少ない、覚悟がある奴ももっと少ない。ないない尽くしだ。しかし化物はどうだ?あいつらはほぼ無限に湧き続けてるじゃねえか。つまり、何が言いたいかっていうと、人員が少ねえんだよ。」
そう言った時、他の教師達四人が高さ3m横6mくらいの長方形の箱をカートで持ってきた。それと同時に白衣を来た数十人が現れた。嫌な予感がする。
「だから覚悟を決めろ。化物と戦うか、逃げるか。ちなみに逃げたやつは研究員や労働に使わせてもらう。・・・俺が無茶な事を言っているのは重々承知だ。だが、こっちにも余裕がないんだ。気遣う時間もない。だから、もう一度言うぞ?覚悟を決めろ。」
次の瞬間、箱の中から勢いよく何かが出てきた。
それは・・・
ネズミだった。
しかしただのネズミではない。体長2.5mちょっとあり、耳が体の半分はある。爪は鋭く、尻尾は5mも長い。ネズミ特有の出っ歯はもはや巨大な杭と例えても違和感がないほど大きい。首輪を鎖で箱に繋げているあたり、あの箱もただの箱じゃないんだろうな。しかも石垣先生の言葉に従順だ。従えさせることができるのか?
そんな巨大ネズミが二本の足で立ち、俺たちを睥睨している。立った時は体長5mはある。
全生徒が固まって動けない中、俺は何故か落ち着いていた。
それはきっと、チルドという契約者が俺のそばにいるからだろう。
そうやって見ていると、石垣先生が話始めた。
「こいつがお前達と戦う敵だ。これを見て、逃げたければ逃げればいい。しかし、もしこいつと戦う覚悟があるなら、お前達の、そして家族の安定した生活は絶対に保証される。借金やローンがあるなら全て帳消しにされ、買いたい物も買える。ただし、お前達は死と隣合わせだ。」
生徒達は何も言わない、いや、言えない。
突然そんなことを言われても頭に入ってこないのは当然だろう。だが、その意味を理解した時、複雑な表情をした人が大半だ。中には平然としている人や、あのネズミを見て好戦的な顔をしている人もていて、多種多様な反応示していた。
そして、緊張感がピークに達して逃げ出す人が一人、また一人と列から抜けていく。
最初は164人いたのが、最終的に残った数は74人で半分以下だ。
もちろん俺や助けさん、春雨さんもいる。俺にはどうしてもやらなければ、いや、会わなければならない人が二人いるためにこの学校にきたのだ。魔力検査の時はどうなるだろうかとヒヤヒヤしたものだ。
「・・・以外と残ったな。ああ、それと【ホルダー】をまだ使えていない奴は守られるか自分の足でにげろよ。訓練だからな。では、戦闘を開始する!」
・・・・・
「「「はぁぁぁぁあ!?」」」
石垣先生の鬼畜な言葉を最後に戦闘は開始された。
〜*〜*〜*〜*〜*〜
クソッ!いきなりすぎるだろ!!
俺は今、鎖が解けて解放された巨大ネズミに何故か物凄い勢いで追いかけ回されている。
多分だが、本能的に願舞を先に倒さないと後々不味い事になるとわかっているのだろう。
『オイオイガンちゃんヨゥ!逃げ回っていても何も変わんねーゾ!今は僕ちんの力でガンちゃんを身体強化してるけど、それだけで解決できないことだってあると思うヨ?』
チルドが俺の内ポケットから出て肩によじ登りながらそんなことを行ってきた。どうやら人化しているようだ。
「うっせーよ!そんな事ぐらいわかってるわ!能力の使い方がいまいちわかんねぇだけだ!」
『そんじゃあ教えてあげようじゃないのサ!まず、ちみが一番強くて自分のみじかにある武器、または動物を想像してね。注告するけど、一度形を作ったら元に戻らないからネ』
武器!?武器、武器・・・
俺が考えている時に、2話で紹介したけどそのまま放置になっていた天童さんが突撃した!
次の瞬間、天童さんの下半部が赤く光ったと思ったら、炎の玉ができていた。
巨大ネズミは自分からではなく相手から最初の直接攻撃してくるとは思ってもいなかったようで、かわす余裕もなく火の玉は肩に直撃し、爆発した。
「キュガアアアアアアアアアアアア!?」
巨大ネズミの絶叫が校庭に響き渡った。
それに追撃を仕掛けるように俺のクラスの奴らが下半部を一斉に輝かせたと同時に水や風、土や雷属性の魔法を見事なまでの連携で巨大ネズミを追い詰めていく。
「ヒャッハー!殺せ殺せぇ!」
「その耳引きちぎってやるよ!」
「ネズミって美味しいのかな?」
あ、あいつらマジで狂ってやがる!ていうかよくこの学校に入れたな!俺が教師の立場なら絶対に受け入れねぇよ!しかもうちのクラスの九割がアレって、厄介者の集まりじゃねーか!なんであんなに連携できてるの?なんであいつら笑ってるの?怖えーよ!この後どう接していいかわかんねーよ!
他のクラスの奴らはただ呆然と立ったまま動かない。
『おいガンちゃん!早くしないと見せ場がなくなっちまうヨ!さっさとしなヨ!』
「うっさいわ!なんなんだよあのパンツ集団、頼もしいすぎるだろ!初めての実戦で敵をフルボッコって、あのネズミ出落ちで可哀想に見えてきたぞ!」
若干涙目になっているのは気のせいではないだろう。
ああ、クソッ、武器、武器、武器・・・・・
そうだ!
小学生の頃、近所の公園で80歳くらいの爺さんがエアガンをハイテンションでぶっ放しているのを見て、貸してもらって一緒に遊んだっけ。そのまま借りパクしちゃって今では自分の物になっている・・・たしか、H&K USPていう名前だったな。
俺はそれを想像し、創造した。
「っ!?」
次の瞬間、左肩に乗っていたチルドが一瞬光ったと思えば、俺の手に想像したとうりの物が出てきた。出てきたんだが・・・
俺の腕と銃が、いつの間にか体から出てきた俺の血管と繋がっている。
時折、ドクンッドクンッという音をたてて禍々しい霧が出ている。
これが俺の神器・・・はっきり言って気持ち悪い。
「キモッ!!」
そのままのことを言ってみた。
『キモいとかひどい!言っとくけど、この銃が君と僕ちんの心を具現化したような物なんだから、僕ちんを大切に扱ってくれヨ?』
・・・は?これが俺の心?何言ってんだこいつ。
まぁいいや、さっさとあの巨大ネズミをたおすか。なんか体に力が溢れ出てくるような感覚があるし、大丈夫だろう。
巨大ネズミの方を見ると、なんか怒り狂ってる。しかも標的が天童さんになってるし、いったい何しでかしたんだろうあの人。
「チルド!能力の使い方を教えてくれ!」
『おk!簡単だヨ!自分が想像した物や現象を思い浮かべながらトリガーを引けばいいだけだZE☆あ、あと僕ちんクラスになると魔力は無限だから、そこんとこよろしクゥ!』
チルドの発言にイラっとしていいのか喜んでいいのかがわからない。多分怒られないように計算した言葉なのだろう。この先俺が怒る度に同じような事をしてくるんだろうなぁと思いながら、射程距離に近づいた。
他の人に誤射はしないとわかっていても、念のためにだ。
巨大ネズミに向かって走っていると、天童さんが俺に気付いたようで、猛スピードでこっちに向かってきた。
はぁ、助けてやるか。上手くいくかわからないけど。
そんなことを思っていたのだが、天童さんの一言でやめた。
追い抜く直前に早口で、
「五十嵐くんよろしく頼む!」
ニッコリスマイルで走り去っていった。
・・・・・
元々元々助けようとは思っていたんだよ?でもさ、あれはないだろ。よし、やっぱりやめよう。安定の残念美人だなぁあの人は。
俺は銃口を天童さんに合わせて、トリガーを引いた。
パンッ!
それは一瞬だった。
天童さんの体には最初からそこにあったがごとくロープが巻きついていた。
「ッ!? こ、これはいったい・・・」
「天童さん、あんなネズミを押し付けるなんて酷いじゃないですか〜」
俺は満面の笑みで言ったが、目が笑っていない。天童さんもそれに気付いて冷や汗をダラダラと流している。
「あなたのことは、この巨大ネズミを倒してからにします」
「は、はぃぃ」
そう言ってから巨大ネズミの方に向き直った。ネズミはわざわざ待っていたようで、目が合うなり再び襲い掛かってきた。
こいつ、もしかして・・・
その時だった。俺が戦闘中にもかかわらず思考に入った一瞬の隙を突いて、巨大な両耳が大きく開いた。
それを見て、ヤバいと思い逃げようとしたが、一足遅かったようだ。
「キィィィィィィィィィィィィィィ!!!」
巨大ネズミの耳が振動し、機械音のような音が聞こえた瞬間、
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
まるで頭の中でゴルフボールが激しく跳ねているような痛みを感じ、思わず膝をついてしまう。
どうやらあの耳で超音波を一箇所に集める事ができるらしい。その証拠に、他の生徒達は「何やってんだあいつ?」みたいな顔をしている。こっちの苦労を知らないで傍観しやがって。
『全くしょうがないなぁガンちゃんハ』
そんな声と共にあの超音波が聞こえなくなった。
まさか麻痺したのか!?と思って耳を触ってみると、耳栓がいつの間にかあった。
『まぁ戦闘経験皆無のちみに任せたのは荷が重かったかナ?とりあえず体借りるネ』
は?どういう意味だ?ていうか頭の中から声が聞こえる。いや、それよりどうあのネズミをどう倒すかを考えなければ。
そう思い銃、いや、名前を付けた方がカッコイイかな?あーでもなー
俺がウンウンと考えていると、勝手に俺の腕が上がり、銃を巨大ネズミに向けた。
『チミチミ〜駄目だよー。つっ立ったまま考え込んでちゃ、無防備すぎるよ?まったク!しょうがない奴メ!」
イラッてくるが正論なので言い返せない。
『見本っていうのを見せてあげるヨ』
それは瞬きの間だった。俺が目を開けるとそこには・・・
某モン○ンの肉焼きセットに両手両足を縛られて巨大ネズミがグルグルと焼かれている姿があった。
そしてその頭部に銃を突きつける俺がいる。
と、その時
「やめろおおおおおおおお!!」
石垣先生が全速力でこっちに向かってやめるように叫んでいた。
『あ〜あ、これじゃあちみと僕ちんの銃の性能がわからないじゃん。まぁ能力はわかるけどさ、やっぱり撃って確かめたいジャン。残念だなぁ」
「残念じゃなあああい!危うくピコが死んでしまうところだったんだぞ!」
「え?ピコ?それって先生がつ『けたわけじゃない!俺の娘が気にいってて、死んだら俺は何をされるんだ・・・』は、はぁ」
怒鳴ったと思えば急にガタガタ震えだした。大丈夫かよこのオッサン。
そういえば周りが静かだなと思い、他の人の様子を見ると・・・目が点になっていた。
と、そこで俺の視界の端に春雨さんが体育座りしているのを見つけた。
「おーい、春雨さーん!」
俺は春雨さんの所まで駆け寄った。
「が、願舞くん?どうしたの?」
何をそんなに慌てているんだろう。まぁいいか
「もうネズミ倒したし、教室に戻ろう?」
「う、うん!そうだね!それにしても願舞くん凄かったね!あんなに大きなネズミに立ち向かって、ホント、すごいね」
? なんでそんなにショボンとしてんのかな?あ、やっぱりあの光景は刺激が強すぎたからかな
巨大ネズミ、ピコは今教師陣によってやっと救出されたところだ。
石垣先生がめっちゃ俺を睨んでる。いやいや、お前がピコを訓練に利用したのが悪いんだろ!?なんで俺がせめられなきゃいけないんだよ!おかしいだろ!
あれ?ていうかなんで春雨さんはピコと、いや、化物と戦うと決心したんだろう・・・まぁいいや
そうして訓練は終了した。周囲が呆然としている中、しかし、遥か遠方から願舞達を見て薄ら笑いをしながら傍観していた者に気づかぬまま。
次回は春雨さんの悶々です!あと戦闘描写が少なくてすいません!上手く書けるように努力します。