Life:07
いざ、冒険へ!
しかし、そうは問屋が卸さなかった。
「あー、そこのお嬢ちゃん、どこへ行くんだい?門の外は危ないよ」
日本の、通学路で小中学生に掛けられたならば即通報な声かけも、いかにも兵士ですといった男性からされれば問題は無い。
まして、門の脇に立つ姿は門番といった所か。
職種は警備兵といったところか。所謂治安維持、お巡りさんのポジションだ。
「冒険です!」
短く、元気よく答えて脇を通り抜けようとする。
「まったまった!ダメだって。門の外はあぶないんだぞ~。こわ~いモンスターが出るんだぞ」
子供に言い聞かせる口調だ。というか、そのつもりなのだろう。
「大丈夫!」
ワクワクがマッハなケイは遠足が楽しみな小学生以上にウズウズと駆けだそうとするが、三度止められる。
「大丈夫じゃないよ、入院着に室内履きじゃないか。そんな装備で大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない」
「そんな訳あるかい!そんなに言うなら、俺を倒して行け~」
ノリのいい兵士だ。年の頃は20代半ば、空手かなにかをやってるような体格だ。背も180CM程で、普通の少女では倒すのは不可能に近いだろう。全身革鎧でロングソードを腰に差し、槍を片手に持っている。
まぁ、何事にも不可能は無い。いや、どう考えても無理でしょって事もあるかもしれないが、大抵の事には抜け道がある。
例えば、兵士に相対して普通の少女が倒せるかといえば、手は無くは無い。
油断させて、急所を一撃出来れば良い。
例えば何か痛がったり、気をそらしたり、手段を選らばなければ服を脱いでもいい。
その隙に急所を撃つ。
急所といって浮かぶのは男性的急所かもしれないが、大抵、正中線上のどこかしらぶっ叩けばそこは急所だ。
ケイなら目玉位は抉りにいくが、余程勝ち目の薄い相手でない限りはそこまではやらないし、普通の少女は目玉を抉らない。
だから、ケイは握手をした。
「うん、よろし」
ぐるんっ
「く!?」
その瞬間、兵士は1回転した。
握手に差しだした右手を中心に側宙で。
気が付けば、同じ体勢で立っていたが、体はその瞬間を覚えていた。
にっこり
ケイに笑いかけられて、兵士は全身が粟立った。
兵士も素人ではなかった。ケイがその気なら、脳天から地面に叩きつける事が出来たのを分かってしまった。
そして、彼は職務に忠実な男でもあった。
「うむ、俺の負けだ。だが、ここを通るにはやってもらわないといけない事がある」
警備兵としてNPC契約している彼には、特定の職能が付与されている。
そのうちの1つに一定の手続きの行使と、その手続きの可否を見通す『眼』が与えられている。
それがチュートリアルの行使だ。
「これより、村を出るにあたってのチュートリアルを開始する。これを終える事無く村を出る事は出来ない。なお、この制限はシステム上の権能であり、回避する事はできない」
決められた通りの文言をもってチュートリアルを開始する。
いくつかの注意点、基本的な知識をレクチャーするのだ。
・門から外は非安全領域である。殴られれば、高所から落ちれば、溺れれば、等々、相応の損害を受ける。
・PC同士は損害を与えあう事は出来ない。地形、モンスターへの誘導はその限りではない。
・装備は壊れる。身体は損傷する。どちらも修復は可能である。
・初期装備には再生属性があり、破損しても即座に自己修復するが、他の店売り、PCメイド品は極低確率での付与を除いては自己修復しない。
・身体の損傷は、特定のアイテム又は安全領域内において修復される。安全領域とは現在は村と療養所のみである。
・PCには帰還スキル『リターン』が付与される。思考によって行使され、再使用に1時間の再使用時間を要する。行使後5秒間の無敵時間の後に転移され、無敵時間中ならキャンセル出来る。キャンセルによっても再使用時間を要し、その場合はそれは30分となる。
・PCには『初心者回復セット』が配布される。これには『初心者ポーション10個』と『初心者バンテージ5個』が入っている。
・『初心者ポーション』は即座に最大HPの20%と、それに伴った身体の損傷を回復する。飲んで、かけて、思考して、いずれかの方法で使用できる。再使用時間は0秒である。なお、毒、呪い、病い等のバッドステータスは回復しないが、身体損傷の修復に伴った出血は回復する。
・『初心者バンテージ』は効果時間30秒をかけて最大HPの50%と、それに伴った身体の損傷を回復する。思考によって使用は出来ず、身体に巻く行為によって使用となる。再使用時間は180秒である。なお、毒、呪い、病い等のバッドステータスは回復しないが、身体損傷の修復に伴った出血は回復する。
・なお、この内容は何時でもサポートAIを介して参照出来る。
「以上である。…気をつけて行けよ、嬢ちゃん」
彼の仕事はそこまでだった。後は通常の警ら勤務に戻るだけだったが、少女の幸運を祈る位はできた。
まぁ、死んでも大丈夫な場所だからな、死ぬほど痛いが。
そう思いながら、彼は軽く手を振り職務に戻り、少女は門の外へと踏み出した。
おかしいなぁ、予定ではもう外に出てとっくにモンスターと戦ってるはずだったんだけどなぁ^^;