Life:02
ちょっと短いです。
「アバターを作成します。各種情報を読み取っています」
つい先日聞いたアナウンスが再び流れる。
ただ、そこから先は以前とは違った。
「遺伝子治療プログラムを検知しました。仮想アバターを設定します」
仮想アバターとは、どんなものなのだろうか。
蛍が疑問を覚えると、それを感知したのか、アナウンスが答える。
「仮想アバターとは、遺伝子治療により現実の肉体が確定していない患者に対応する処置です。遺伝子情報から得られるアバターのみで構成されます。患者従来の環境要素は挿入されません。故にその体格、年齢、性別、遺伝要素の平均値をとったアバターになります」
なるほど、目の前には細身の少女のアバターが構成されている。
適度な運動を経た健やかな少女の肢体だ。
「仮想アバターは肉体構成が完了するまでの仮のものです。それが終われば、即座にアバターは上書きされます。事前アナウンスがあるので留意して下さい。肉体構成は、従来の肉体の骨密度、筋量をベースにVR内での要求要素に可能な限り答えた肉体がタンク内に構成されます。要求要素の挿入期間は1週間です」
つまりは今後1週間の行動如何で治療後のフィジカルが決まるということか。
蛍はそう理解した。
要求要素に可能な限り、というのは、無い筋肉は付けられないという事だ。
前述にあったように、肉体構成に必要な細胞は自前の物に限る。
どこかの盾を持ったヒーローみたいに、病弱な男を無敵の超人には出来ないのだ。
そこまで想いを廻らせた蛍の前に、いくらかの文字列が表示された。
LV 1※
筋力値 50(50)
敏捷値 50(50)
耐久値 50(50)
器用値 50(50)
知力値 50※
生命力 50※
精神力 50※
※の項目は、今後一般公開されるMO及びMMOのゲーム要素に対応する暫定的なものです。治療に直接は関係しません。
「数値は相対的なものではなく、その肉体に於いての絶対値でMAXは100です。仮想アバターの数値はその肉体の平均値です。変動はしません。括弧内の数値は構成後の肉体の数値を表したものです。MAXは肉体構成しだいとなります。この数値は行動により変動します」
つまり、そこそこ運動してきた少女が得られるMAXの数値が100。今後1週間の行動によるフィジカルの値が括弧内に表示されるわけか。
「適度な運動を推奨します。運動をしなくても平均値のフィジカルは確保されますが、神経系の発達は平均以下となるデータが出ています。治療後に得られるフィジカルの値を超えると、括弧内の数値はMAXになります」
ふと気付くと、目の前にあった仮想アバターが消えている。代わりに先ほどまでは無かった身体の感覚があった。
「治療後の肉体は脳の混乱を避けるため仮想アバターとは差異の無い容姿、体格構成になる予定です。遺伝子情報の範囲内で仮想アバターを変更できますが、変更なさいますか?」
つまりは、背を伸ばしたり縮めたり、あるいは痩せさせたりといった所か。
蛍にとって、その仮想アバターはしっくりしすぎる程であったため、変更の要は感じなかったが、唯一髪の長さだけは変更した。アバターの髪は蛍の髪の長さに準拠してか、いわゆるカジュアルショートだったが、それをロングヘアに変えたのだ。ちなみに言うと、髪は爪等の様に角化した細胞なので、よほどの増加で無い限り自己細胞使用の括りがあっても影響はない。ただし、長さを変えられるだけでカットは出来ない仕様らしく、貞子の様な髪型になったが。
VR内に理容室があるとの事なので、問題はなかろう。
「最後に、VR内での通称を決められます。従来は原則として本名のみの登録でしたが、今後のゲーム要素導入を鑑みて通称の使用が出来るようになりました。使用しない選択も出来ますが、任意に変更が可能ですので使用する選択をなされるよう推奨します。後ほど設定する事もできます。注意点としましては、トラブル、不正防止のため、基本的に変更出来ない事です。特定の手続きを経れば変更出来ますが、審査と時間がかかります」
ゲーム要素導入で一般の有象無象が流入してくることを考えると、決めておいた方がよかろう。
「では『ケイ』で」
最強を目指した男の名だ。共に連れて行こう。
「VR内での要素構成が完了しました。疑問な点がございましたら、いつでも我々、サポートAIにご用命下さい。…それでは、いってらっしゃいませ」
そして視界が明るい光に染められた。
意識の明転とでもいうべき世界の転換。
気がつくと蛍は仮想世界にいた。
この章含め、前の章にも名前にルビ入れました。
蛍は入院中に手続きされて蛍に改名される手筈になっています。
また、VR内では今後の章ではカタカナのケイに統一します。