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Life:22

大変おそくなり、申し訳ありませんでした。

 リーブラの店に来た。

 赤い髪の女主人は気だるげな雰囲気でカウンターに陣取っている。

 アイカ達はしらないが、店内はアインヴィレッジの店とほぼ変わらない創りになっている。


「こんばんは~」


「…いらっしゃ~い」


 リーブラは起きてはいるものの、受け答えからしてどこかしら眠そうだ。

 TLOに店を出していた頃は、ある意味閉じた世界だったのでこんなに忙しくは無かった。

 BAに来てみれば、大量のPCが詰めかけた為、とてもではないが昼寝など出来なくなってしまっている。

 オンラインゲームにありがちな24時間営業などは不可能なため、NPC製の既製品販売と修理受付はNPC対応にし、受注生産に関しては紹介制になった。

 例外は統合前にランキング入りした上位PCで、それ以外では特注の装備品は入手できないのが現状だ。

 5000人以上と言われるBA参加者のうち、上位ランカーとTLO組合わせて百数十人だけが、モンスター素材からなる特注装備を身につける事が出来ている。

 アイカもそのうちの一人だった。


「あら、どうしたの?かわいい娘つれて」


「後輩です。クラスメイトでライバルの妹でもあります。今日INしたんで、適当な装備見繕ってもらおうかと思って」


 一方、カオリはというと、慣れないインターフェイスに四苦八苦していた。

 やり方が判らないなりに、どうにかメール入力機能に辿り着いて仮想キーボードで入力している。

 実はサポートAIに直通回線通話を伝えれば相手の応答を待って会話することも出来るし、一言メッセージを口頭で伝える事も出来るのだが、全くの知識ゼロでログインしてしまったカオリはそれとは知らず面倒な手段をとっていた。


「『お見舞いに来たよ。今、武器防具のお店にいます。どこに行けばいいかな?』送信っと」


 兄がログインしていれば…というか、ログインはしっぱなしか。寝ていなければすぐにでも返事があるだろう。

 そんな背後でもリーブラとアイカの会話はすすんでいた。


「アイカちゃんの知り合いなら受注OKよ。盛った性能のでなくてもいいなら、いくつか在庫もあるから。戦闘スタイルにもよるけど…アイカちゃんの後輩にしては綺麗なお手手ねぇ」


「あ、空手じゃないです。学校の後輩でして。どっちかっていうと合気とか柔術系かな、この子は」


「あ、ちょうど良いわ~。それ系の装備の受注で試作したのがいくつかあるから、それを合わせちゃいましょ。…ところでアイカちゃん、時間いいの?」


「…時間?」


「今日、試合じゃなかった?」


 アイカの『時間』という台詞に反応して、視界の隅に現在時刻が表示される。

 並んで試合開始時刻も。

 あと10分もない。


「ヤバッ!忘れてた」


 慌ててカオリに向き直る。会話に置いてきぼり気味だったカオリだが、最後のあたりの内容だけはわかった。


「いいよ、行って来て。そのうちケイちゃんも来ると思うし、適当に待ってるから」


「そうね、かかるようなら、ここでお茶でもしてるから、秒殺してらっしゃい」


 リーブラも請け負う。


「ゴメンね、じゃ、行ってくるね」


 そう言い置いて駆けだしていく。

 残されたリーブラとカオリ


「…じゃ、フィッティングしちゃいましょうか。ちょっと身体パラメーター見るわね。…ふむふむ、このサイズなら…あれが…ふむ」


 腕を延ばさせたり、手を見たり、身体パラメーターの数値では判り辛いところをチェックする。

 アイテムインベントリからいくつかの装備を出しては丁度良さそうなものをカオリの希望を聞きながらセレクトしていく。

 カオリは視界の隅でメッセージの着信を知らせる点滅がしているのに気付くとそれに意識を向けた。

 フィッティング中だったので空中をタッチする様な動作は出来なかったが、それに意識が向き、『見たい』と思っただけでその内容は表示された。元々VRMMOなのであるから、思考によるトリガーで大抵の動作が可能なのだが、カオリはまだそれに慣れても理解もしていなかった。


『すぐ行く』


 簡潔なメッセージは無口な兄らしいものだった。

 入院前と変わらぬ雰囲気をそこに感じ、カオリは少し安心した。


『カロンカロン』


カオリ、なんでBA側来てるの?病院NETで来ればいいのに」


 店の入口ドアにつけられたベルが少しくぐもった音色をたてて、同時にそんな声が飛び込んできた。

 入口に背を向けてスツールに腰掛け、脚絆のフィッティング中のカオリはその声を背中で聞き流しながら答えた。


「しょうがないじゃん、アイちゃんに乗せられちゃったんだもん」


「乗せられたって?…ちょっと考えればわかるだろ、そもそも脳筋のアイちゃんに乗せられる自分の迂闊さをなぁ…」


「ケイちゃんだって脳筋じゃん!」


 気の置けない兄妹らしい言葉の応酬だったが、双方とも、お互いの再会による安堵が端々に滲んでいた。

 なにしろ五香家の三兄弟はすこぶる仲が良いことで有名だった。

 体育大学在学中な上に総合格闘家としても多忙な日々を送る長兄のアキラを筆頭に仲良く育った彼らは、ろくに反抗期らしきものも経ず、いうなればそれら負の部分を武術で発散してここまで来た。

 某積み木崩し的に親に暴力を振るうどころか親と殴り合う環境が日常の上の兄二人。

 年のやや離れた長兄と双子の様な次兄にかわいがられる妹。

 仲が悪くなる要因がどこにも無い上、家風か血筋かわからないが竹を割った様な性格の家族はとことん負の感情とは縁がなかった。


 いつもと変わらぬ兄の様子に、カオリは安堵した。

 ある一面においては、油断していたといえるかもしれない。

 それ故、カオリは不意打ちを受けた。

 何も物理的な攻撃を受けたという話ではない。

 ただ、思いもかけぬ、予想すらせぬ衝撃を身構える事なく受ける事は不意打ちと言う他無いだろう。


 脚絆のフィッティングを終え振り向いた先━。

 兄…あきらかに兄がいたであろう声の位置に、その気配のままに小熊が。

 一匹の小熊が二本足で立っていたのだった。

近いうちに用語の統一をしたいと考えています。

勢いで書いているせいか、話によってバラバラなので^^;

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