Life:15
短いけれど新章開始。
バトルアリーナ編です。
鋼の拳が唸りを上げた。
比喩でも誇張でもない。
鈍い光を返す手甲に鎧われた腕が交差し、火花を散らす。
相手は軽量を生かした軽妙な立ち回りで、その装備も要所のみをカバーする軽装だ。
軽やかなフットワークはボクシング由来らしい。パッと見痩身、その実絞り込んでいる身体付き。身長170cmに体重は60kg無いだろう。フェザー級といった所か。
対する自分━桐生愛華は空手の構えだ。
ここ、『BA』内では「アイカ」と名乗っている。
遺伝子走査で現実とほぼ同じ姿形になるTLOだ。アイカもその例にもれず現実そのままの姿だ。
身長175cm体重58kgは、女性格闘家としては破格の体格だが悪目立ちしすぎる。
アイカは既に、BA内では注目されるPCとなっていた。
BA開始から10日ほどしかたっていないのに、だ。
鋭くジャブが飛んでくる。
本来は牽制に使われる打撃が、手甲のせいで必殺の威力を帯びている。
それも当たればの話だが。
ほぼ手打ちのそれを、アイカは全て叩き落とす。速度だけで威力の乗らない攻撃など、捌くのは雑作もない。
怖いのは体重が乗った、身体の芯を狙ってくる一撃だ。
体重が乗れば、今の様に叩き落とすことは出来ないだろう。こちらもそれに合わせて身体ごと使わねば逸らす事さえ難しいはずだ。
それを狙ってか、時折ストレートが織り交ぜられているが、アイカはそれを許さなかった。身体の芯に打ち込まれる一撃を、体軸をずらしてかわす。数ある空手の流派でも、アイカが修める五香流空手はその術に長けていた。
ナンバという身体操作がある。
現代の格闘技の様に、突き蹴りが腰部で反転しない身体の使い方だが、空手にも同様の技術がある。
ボクシング的なパンチが身体のしなりを生かしたキレ、スナップを利かせた打ち方なのに対して、空手の突きは身体ごと叩き込むものだ。
鞭とハンマーの差と言えば解りやすいだろうか。
焦れた様に牽制のジャブからつなげた右ストレートを左半身で踏み込みながら捌く。その捌きに使った左拳をそのまま中段突きで叩き込む。
カウンター気味に入った正拳で、相手の胸鎧がボッコリと陥没した。
ストレートを放ち突っ込んで来た相手を迎え撃つ形で打たれたその衝撃は、優に1tを超えただろう。
なおかつ金属製の手甲によるものだ。塀に使われるコンクリートブロック所か同じ厚みのコンクリート塊でも砕けるだろう。
その瞬間、相手の身体は後方へ20cmほどズレた。
少しでもバランスが崩れていれば吹き飛ぶ事が出来ただろうが、身体と拳が向かい撃つ形での激突だ、その衝撃の殆んどはそこに発揮されたのだろう。
肺が傷ついたのか、咳き込むように喀血する。
膝をついた相手は、もう立てなかった。
システムが介入し、バトルフィールドを生成していた不可視のドームが解除される。
静けさを取り戻したコロシアムはさながら古代ローマを思わせる。
どこか、映画か何かで見た様な光景だなとアイカは思った。
出来れば年内にもう一回更新したいです。




