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Life:11

「勝ってるじゃん、倒してるじゃん!大事なことだから、おねえさん、2回言っちゃいましたよ!」


 リーブラは思わず突っ込んだ。

 対するケイは、む~っとした顔をしている。

 そもそも、なんで鎧も武器も持たない少女が北の森、通称『霧森』なんぞに出かけたのか。

 南と東はともかく、北は未攻略エリアだ。

 6フルパーティーでも難儀するところなのに、ソロ突貫なんて自殺行為以外の何ものでもない。

 特にあのブレードベアは、まだソロ討伐がされていない難敵だ。

 攻撃魔法の実装なくして討伐は不可能ではないかという意見さえ掲示板では語られていた。

 それをソロ討伐。


「いや、…あの様で勝ったなんて言えないデスヨ」


「ほほぅ、…一応言っておくけど、あのブレードベアは6人パーティーで槍と遠距離武器を主体に、まずは落とし穴に落としてから狩るような相手なのよ」


 たしなめるように言うが、あまり納得されてないようだ。


「…修行だし。普通はどうとか関係ないし」


 ぶつくさと拗ねるケイ。不機嫌そうな空気を漂わせてはいるが、どこかしら滲む小動物感。そもそも本音は、不満の矛先はどこなのか。


「本音を言いなさい!」


 つい責めるような口調で促してしまう。


「…次は圧勝」


「うは」


 何のことはない、綺麗に、格好よく、圧倒的に勝てなかったのがくやしかったのだ。一撃必倒の奥義まで使ってのこのありさまだ。と、ケイは思っている。

 もちろん周りから見れば噴飯ものであるが、本人は大真面目だ。


 やばい、このたりないわ~。色々とたりてない。リーブラはそう思った。

 ならば、そのたりないものを幾らかでも埋めてやるのも年長者の務めかな。

 そんな事を思った。


 とりあえずは武器防具屋的に。



「わかりました。おねぇさんわかりましたよ。あなたにピッタリの装備を作ってあげます」


 おぉ、と擬音が付きそうな勢いでケイは顔を上げた。

 正直、刃を連ねたような攻撃を素手でいなす技量は無いが、現実リアルの基準で言えば防具があっても問題はない。刃物を通さない防刃繊維は既にポピュラーなものだし、防弾繊維も、旧来然としたケブラーよりも性能のいいものが出回っている。技量を上げるには修練あるのみだが、その都度怪我をするようでは逆にマイナスだ。


「それより、冒険者ギルド行ってきた方がいいよ」


「冒険者ギルド?」


 単語としては知っているが、どんなところかケイにはイマイチぴんとこない。


「ただモンスター倒して幸せって脳筋ばかりじゃなくてね、エサがあると張り切るのよ、人は」


「脳筋でスイマセン」


 落ち込むケイだが、所謂入院患者の暇つぶしに気合いが入りすぎているだけの話だ。


「とにかく、モンスターを討伐すると報奨金が出るの。討伐クエストが出されていればその分プラスされることもあるし」


 報奨金!つまりはリアルマネーだ。

 衣食住が保障された中でも、贅沢品やゲーム内アイテム等にはお金がかかるようになっている。

 もちろん現実リアルからの持ち込みや持ち出しも出来るが、限定された世界での流通は大した動きはない。


「ちょっとおね~さん、気合い入れちゃうよ~。出来たら連絡するからフレンド登録しとこうね。あ、格闘主体だって事は武器機能盛り込んだ防具でいいよね。ステータスプラスはほしい?いらない?そっか、修行だっけね」


 スイッチの入ったリーブラと受け答えしながらフレンド登録を済ます。

 少々不安ではあったが、任せて用事をすませる事にした。


 サポートAIの案内で冒険者ギルドへ向かう。

 ケイはまだ習得してはいないが、TLOには各種スキルがある。

 基本、リアル指向で現実リアルで出来ないことはあまり出来ないのがTLOである。

 アバターの基本能力は現実リアルから乖離しないし、攻撃魔法も無い。

 ただ、救済策的なものか、回復魔法はある。

 検索系のサポートスキルもある。例えば索敵とか、アイテム鑑定とかだ。

 限定的に製作系スキルもあるが、リアルマネーが絡む可能性がある為か、大もうけ出来るほどの性能のものは製作出来ないように制限されている。今後、限定解除されるかもしれないが、多大な労力の末の事だろうとの予測がされている。

 村の中央部にそれはあった。

 サポートスキルを取得すればオートマッピングも出来るし、グ○グルマップみたいに地図検索もできる様になるらしいが、今のところはサポートAIで十分事足りている。


「こんにちは~」


 入り口正面が受付らしく、カウンターがある。壁面の一角は掲示板になっていて、依頼を書いたものだろうか、張り紙が何枚も貼ってあるのが見て取れた。


「いらっしゃい、冒険者ギルドは初めてかな?」


 カウンターの向こうから、受付嬢らしき女性が声をかけてきた。20代半ば位だろうか、やわらかな雰囲気の美女で、アンダーリムの眼鏡をかけている。栗色の髪はゆるいウェーブがかけられ、印象の後押しがされている。


「はい、よろしくお願いします」


「じゃぁ、ちょっと説明しようかな。ここは冒険者ギルド。冒険者のサポートをする場所よ。冒険者というのはこのゲームサーバーにアクセスした全てのアカウントに適用されるわ。そのあたりはシステムサポートによって簡略化されているの。パブリック化が来ればグランドクエストっていう一大ストーリークエストが始まる予定だけど、それ以外のサブクエストや繰り返し系のショートクエスト斡旋はここでしているわ。サポートスキルの取得もここよ」


「討伐系は事後報告でもいいの?」


「基本は事前に受けてもらうけど、依頼が受けられずに残っていればそれをまわせるようになってるの」


 倒し辛いモンスターなら、事後でも依頼が残っていそうだ。


「これの討伐クエストは残っていますか?」


 バトルログを提示して確認してもらう。

 幸いというか、倒す人間がいなかったのか、ブレードベアとブレードウルフ86匹のうち60匹分、それにフィールドウルフ5匹の事後討伐が承認された。ブレードベアとブレードウルフはパーティー討伐が主なのでそれに沿った報奨金設定になっているらしく、全部で100万円を超える金額になった。

 現実リアルの口座も使えるが、念のため入院前に開いた口座に10万円ほど入金しておいた。お年玉や小遣いを貯めたモノの一部を振り込んできたのだ。その口座に入金してもらう。TLO内ではそこをメイン口座にすることにした。

 防具も今日中には出来ないだろうからと、ケイは療養所の自室に戻ることにした。

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