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Life:XX

「GYOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」


 異形が吠えた。

 泥を擦り付けた様な黒い体毛を怒らせたそれは、人狼と呼ばれる化け物の一種だ。

 体高は2mを超え、針金様のこわい体毛が全身を覆っている。

 だがしかし、独り猛っているわけではなく、その矛先も存在した。

 人狼の前方約5m。

 その獰猛さからみれば刹那の間合いに、小さな姿があった。

 

 本当に小さかった。

 野にあるありかたで言えば、狼に対する兎か子猫といった対比で、身長も150cmに足りない華奢な少女だ。

 だが、華奢ではあるが可憐と言うには剣呑な手甲と脚絆がその四肢を覆っている。

 瞳に宿る輝きは猛禽のそれだ。

 ゆったりとした面持ちでいながら、その構えは低い。

 とても低い。

 中腰よりもさらに下、座りこまんばかりに落された重心は、容易には崩せないだろう。

 が。

 それにしても低すぎる。

 その体勢を維持するには、並大抵の筋力ではままならない。

 いかなる鍛錬の賜物か。


「URRRUUOOOOOOOONNN!!!」


 人狼がはしった。

 対する少女は低く構えたままだ。

 人狼がその爪をひるがえす。

 少女の頭を狙うが、自らの膝より低いそれを狙うのはいささかやり辛い。

 そのやり辛さが現れたか、あっさりと空を薙ぐ。

 少女の、やや前傾させた上半身がそのままするりとスライドする。

 まるで腰から上がウエイトレスの盆に乗っているかの様に。

 その恐るべき歩法は基礎の基礎。

 息をするがごとくその身に染み着けたものだ。

 一方、かわされた人狼は、苛立ちを隠せない。

 強者たる、最強たる自負が己を苛む。

 当然だろう。この攻防はすでに幾度となく繰り返されているのだから。

 出来うるならば、視線でこの少女を焼き尽くしてやりたいがそれは叶わない。

 苛立たしげに吠え猛るだけだ。

 対する少女はと言えば、なんとも涼しげな様子。人狼の苛立ちなど、どこ吹く風だ。

 その様がさらに人狼を苛立たせる。

 一刻もはやくこの爪を叩きつける。

 それしか頭に無くなった人狼が、最上段から大振りな一撃を撃ち下ろす。

 フィルムの焼き直しのごとく、繰り返される攻防。しかし、今回は少々違っていた。

 人狼が少女に触れられないのは変わらないが、少女は人狼に触れていた。

 振り下ろされた腕。その手首をほんの僅かに引き下ろす。

 踏み出した脚。その出足をそっと抑える。

 人狼の懐に踏み込んだ少女がやったのは、たったそれだけの事。

 その生涯においても、もっともはやい一撃のまま、人狼は真っ逆さまに墜ちてゆく。

 その行く先には岩。

 繰り返された攻防の間に誘導されたのだろう、全ては少女の掌の上であったのだ。

 人狼の頭蓋は、己の加速された200kgの体重を支えるには余りにも脆かった。

 

 倒れ伏す人狼がザァっと吹き消される様に消える。

 刹那、ポリゴンの輝きが陽の光を弾いた。

 そう、ここは現実うつつではない、ゲームの中なのだ。

『Truth Life Online』

 医療用に開発された故、通称『サナトリウム』と呼ばれる仮想世界。

 そこに少女―五香ゴコウ ホタルはいた。

週1更新を目指して書いていますが、書き貯めはありません。

がんばります^^;

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