*小悪魔でした
幸子は意識を切り替えて話題を戻す。
「それでその預かりものってなによ」
「ん~?」
こいつまたすっとぼけるんじゃないでしょうねと幸子はダグラスに睨みを効かせた。
「簡単に言えば空気を振動させて衝撃波を生み出すマシンの設計図かな」
「は? 戦闘機とかの?」
「そう」
「ピンポイントに音を伝えるという研究は広く知られているところだろうけど、これは武器の方」
「SFみたいね」
「そうだね」
棒読みの返しに幸子はムッとする。
ひとを小馬鹿にしてるわねこいつ。
「傭兵ってそんなこともするの」
「フリーだから傭兵だけじゃ稼げないんだよ」
苦笑いで肩をすくめる。幸子は彼の言葉にきょとんとした。
「傭兵ってみんなフリーじゃないの?」
「大半はどっかの企業に所属してるよ。華やかな仕事でもないし」
「そうなの?」
幸子はテレビや映画などで見る兵士の姿を思い起こしていた。
「軍人とごっちゃにしてないだろうね」
彼女の考えを悟ったのか、呆れた物言いで見つめる。
「ち、ちがうわよ!」
つい声を荒げてしまい、青年に「シッ」と軽く怒られた。
なんで自分が怒られなければならないのかと、理不尽な扱いに頬を膨らませ彼の次の言葉を待つ。
「大体は軍と仲がよろしくないし、後方支援みたいな仕事がほとんどだね」
「へえ~」
「まあ、傭兵同士が戦ってるっていう現場もあるけど」
ぼそりと口にした言葉に幸子は「えっ」と声を小さく上げる。
「内戦だとそういう事があるよ」
幸子はそれにとてつもない違和感を覚えた。
「その国の人じゃない同士で戦ってるの?」
ダグラスは無言で頷く。
「あなたも?」
「いいや」
否定され幸子はなんとなくホッとした。
「俺は国が直接絡む依頼は受けないから稼ぎが少ないの」
「じゃあどういう仕事してるの」
「今みたいなデータの受け渡しとか、護衛とか、人質の救出とかかな。暗殺なんかも請け負うやつもいるよ」
幸子は知らない世界をかいま見ているようで感心しきりだった。
しかし青年はやや眉を寄せて彼女を見下ろすと、
「こんな話聞いてどうすんの」
「いいでしょ別に」
ことあるごとにムッとさせるわねこの人! 顔はいいけど絶対にモテないわ。
むしろイケメンだから余計に嫌われたりしてるんじゃないの?
幸子は心の中で怒りの念を送った。
「とにかく──」
ダグラスはそっと幸子の手を握り、彼女の目を見つめた。
「俺から離れたり、むやみに動いたりしちゃだめだよ」
「は、はいっ」
潤んだ赤茶色の瞳に見下ろされ、幸子は早鐘を打つ心臓を精神力で抑えながら小さく返事をした。
なんというか、成長した大人を感じさせつつも幼さを宿した可愛い笑みに口元が緩んで手が震えてしまう。
「でないと俺が面倒だから」
爽やかな笑みに幸子は「ぶっ殺す」と心の中で叫んだ。