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最凶の天使  作者: 河野 る宇
◆登山にて
2/14

*天使だけど

 麗しい青年は名前をダグラスと名乗った。

「なに、襲われると思った? ごめんそういうつもりまったく無かったよ」

 この人、会って早々に平気で失礼なことズケズケと言ってくれやがるわね。別に襲って欲しい訳じゃないけど、そこまで否定されてもなんか切ないものがあるじゃないの。

 運がいいと思った幸子は、とたんに不運だと考え直した。

 それでも、整った横顔に思わず見とれてしまう。つくづくだと自分に呆れるばかりだ。

 もういいわ、もしかしたらと思ったあたしがバカだったのよ。

「じゃあこれで」

 と、立ち上がろうとした幸子の手首をダグラスと名乗った青年は掴んで制止した。

「だから、悪いけど無理」

「は?」

 なに言ってんの。

「見つかったら拷問されるよ」

「へっ!?」

 なにをにこやかに言ってんのよ。無駄に爽やかなのよあなた、拷問てなによこのご時世に。

 不信感バシバシに幸子は青年を見下ろした。

「本当だよ」

 見上げる瞳に胸がキュンとなる。

「な、なんでそうなるのよ」

 何も聞かずに従いそうになりながらも意を決して尋ねた。

「ちょっとした事件に巻き込まれちゃってね」

 ちょっとした事件に拷問ですか?

「たぶん君は俺の知り合いだって思われたと思う」

 知り合いというだけで拷問を受けるってか?

「もしかしたら恋人とか思われたらもう大変」

「えっ!?」

 こ、恋人!? やばいちょっと照れちゃったじゃないの。

「どんな事件なの?」

 つい笑顔で聞き返してしまった。

「秘密」

「はぁ!?」

 ここまできて話さないつもり!?

「知らない方がいいよ。捕まったときに嘘言えないでしょ」

「ちょっとなによそれ。捕まったときって」

「捕まったら助け出すよ」

 安心してね──って安心出来る訳ないでしょ!

 幸子は段々、この爽やかな笑顔に腹が立ってきた。

 そうして辺りは薄暗くなり始め、厚着していない幸子は自分を抱きしめるように小さく震えた。

「ゆきちゃん」

 いきなり呼びタメかこいつ。

「せめて羽織るものくらい入れてきたらどうよ」

「悪かったわね。こんな時間まで山にいるつもりはなかったのよ」

 皮肉を込めて言い放つ。

「緊急のときとか考えないんだ」

 ぼそりと皮肉で返されてカチンときた。

「誰のせいだと思って──!」

 声を荒げて応えたとき、青年がストールを差し出した。

「あ、ありがと」

「薄いけど保温性は抜群だから」

 言ってリュックのファスナーを閉じる。

 幸子は渡されたストールを肩に羽織った。確かにとても薄いけど、なんだか寒さが和らいでいく。

 虫の声も少しずつだが響き始める。

 暗闇になりつつある山の中でダグラスという青年の髪は輝きを失わず、本当の天使のようにそこいた。

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