*エピローグは小悪魔的に
──それから三日ほどが過ぎ、幸子はまたいつもの生活を取り戻した。あれは夢だったのかと思えるくらいにあっけなく日常は戻ってくる。
送ってくれた車の中で交わした言葉は、今でも幸子を幸せにさせる。
日本語を覚えたのは傭兵仲間に日本人がいてその人から教えて貰った事とか、一人暮らしをしてから必要最低限しか食べなくなって師匠から怒られた事など。
他にも傭兵について色々と聞かされて、とても新鮮な気持ちだった。
本当は連絡先を聞きたかったけれど、幸子は躊躇って止めた。
もっと色んな話をしたかった。でも、彼の笑顔は静かに「関わるな」と言っているようにも思えて──幸子はそのまま黙り込んでしまった。
彼にとっては、ただ巻き込まれた人間を助けたに過ぎない。
優しいけど、それはとても無機質に自分に向けられているものだと幸子にはなんとなく解っていた。
きっと、彼は誰にでも優しい。それが当たり前なのかもしれないけど、あたしに特別な笑顔は見せてくれない。
心の奥でそれを感じ、幸子は良い思い出として記憶しようと決めた。
「あれ?」
幸子はいい加減に洗濯しようと泥だらけの服を手に取った。見るとあの日の記憶が呼び覚まされて今まで洗う気になれなかったのだ。
そのポケットに何か紙切れが入っているのに気がつく。
それは小さく折りたたまれたメモの切れ端のようだった。
「なんだろう?」
紙切れをゆっくりと開く──
『やっぱ元彼が忘れられなかったんだねぇ』
……そう、日本語も書けるのね、しかも上手いわ。なんて言うとでも思ってるの!?
「なんなのよあいつ! いつの間に入れたの!? 今度会ったら絶対にぶん殴るわ!」
ええそうよ、必ず平手をお見舞いしてやるんだから!
幸子は泣きながら高らかに笑った。
END
*最後までお付き合いいただきありがとうございます。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
2014/03/06 河野 る宇





