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最凶の天使  作者: 河野 る宇
◆駐車場にて
13/14

*そしてやっぱり天使?

「あ、あの」

 おずおずと二人の前に立ち止まると、幸子はベリルに視線を合わせられずにいた。想像とは違い見目麗しい容姿に目眩すらしそうだ。

 傭兵ってこうじゃないよね? この二人が特別なんだよね!? 幸子は山に叫んで問いかけたい気分だった。

 しかし山は暗く迫り来るようにそびえているだけだ。

「大丈夫だった?」

「あ、うん。あとで精密検査は受けなさいって」

「それがいいね」

 柔らかな笑みで発したダグラスの隣にいたベリルは、幸子にスラリと伸びた手を向ける。

「それは役に立ったかね」

「え? あ、はい。凄くいいですこれ!」

 示されたストールに笑顔で答えた。

「それは良かった」

 よく通る声が幸子の耳をくすぐる。でも、どうしてこのストールの感想を訊いたのだろうか。

 不思議に思っているとダグラスがそれに答えた。

「それはまだ試作段階のものなんだ」

「あ、そうなの?」

「わびとして差し上げよう」

「えっ!? そんな悪いです!」

 これ凄く薄くて肌触りも良くて使い心地も最高だけど試作品て事は割と高いんじゃ!? 幸子は目を丸くして、くれると言ったベリルに手を振る。あまり遠慮しているようにも見えないが。

「いいよ、巻き込んじゃったしね」

 ゆきちゃん自身が狙われていたんだけど、巻き込まれたことに代わりはない訳だしね──気遣いながらもストールを貰う幸子を見下ろしダグラスは目を眇める。

 彼が幸子に説明した事にはいくらかの嘘が混じっている。

 非殺傷武器として元々は日本の企業が開発を手がけていた。それを殺傷武器として開発するために某国がデータを盗み出す計画で諜報員を派遣したのだ。

 長期間にわたる計画の末にデータを見事、盗み出す事には成功した。しかし国外に脱出する前に盗まれた事を知られ、データを隠して先に帰国したのである。

 何も知らない人間に持たせている事が最も安全な隠し方ではある。自分が持っているなどとは知らないのだから当然、詮索されたとしてもその表情から窺い知る事は出来ない。

 ありきたりかもしれないがもちろんこの二人はそれを良しとは考えていない。日本という国において、一般人をあえて危険に巻き込むなど許されない事だ。

 その諜報員についてもベリルにはよく知る人物ではある。彼は国のためにと動いているし、国の人間として働いているため強く言うことも出来ない。

 ある意味、ベリルにとっては苦手な相手かもしれない。相手にとってそれが悪や害であってもいとわないそれなりの信念を持ち、ひたすら自国の利益ために動いているのだから。

 それを否定する気も質す気もないのだが、付き合いづらい相手には変わりない。

 そして、隠されたデータのありかを他の犯罪組織が嗅ぎつけ幸子は自分の知らぬ間に危険な目に遭ったという訳だ。

 先にベリルがその情報を得たおかげで、ダグラスに要請をかけデータも奪われる事無く幸子も無事だった。

 だが、そんな事は知らなくてもいい、知る必要もないと二人はその事実を彼女に話すつもりはない。

「ホントにもらっちゃっていいのかな。これ高いんじゃないの?」

「まあ試作品だからねえ。日本円でどれくらい?」

 嬉しそうにストールを眺める幸子からベリルに視線を送る。

「さてね。開発段階での単価は四十万から五十万といった処か」

「はうっ!? そ、そんな高いの!?」

 だめよやっぱり悪い!

「じゃあさ、それもらえる?」

 ダグラスは右手に光る指輪を指差した。

「え?」

「高いものならいいけど」

「ううん、いいわ」

 一瞬その瞳に躊躇いの色が見えたが、幸子は意を決したように眉をきりりと吊り上げて指から銀色の指輪を外した。

 プラチナ製らしいやや重厚感のある厚めの造りになっている。中心にはめ込まれている小さな石はルビーだろうか。

「これで踏ん切りがつくし、むしろお願い」

 押しつけるように差し出した。

「そか、ありがと。ゆきちゃんとの記念にするよ」

「元彼からもらった指輪を?」

「ああ……。まあ俺には関係ないし」

 そう言って笑ったダグラスの笑顔が幸子にはとてもまぶしかった。

 やっぱり彼は天使かもしれない──

「お前は彼女を家まで送ると良い」

「うん。車の方はよろしく~」

 バイクに向かうベリルに軽く手を振った。

「なに?」

 問いかける幸子をベリルの車に促しながら、

「警察の人を悪者のいるとこまで案内ついでに俺の車も回収してもらうの」

「ああ、なるほど」

 バイクのあとに覆面パトカーが駐車場から出て行くのを見た幸子は納得した。

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