~怪しい影~
俺は124層の転移門前にいた。自分でも流石に早すぎたかなと思った。時刻は7時47分だ。
プレイヤーも時折転移門で転移したり転移してきたりしていて、確認しただけでも20人前後いるかいないかだ。しかし、この124層の街はたまに来るけど、プレイヤーが少ないな…それもその筈この124層にはPKギルドの一つ《神龍》と《混沌龍》が凌ぎを削っているため殆どのプレイヤーは宿にいるか、アイテムショップや武器屋にいて買い物をしている。特に朝は《神龍》に所属しているプレイヤーが彷徨いている。
今の時間帯は、《神龍》のプレイヤーが確認しただけでも5、6人程彷徨いている。
《神龍》のプレイヤーは左肩にギルド名の通り龍のマークが付けられている。20分程待ったが、中々ユウカはやって来ない。朝飯を食って来なかったので、小腹が空いてしまった…辺りを見回すと、ちょうど開店したのかホットドッグの香ばしい香りが漂ってきたので、一つ買いに行った。ケチャップやマスタードをかけて一口食べる。8時半を回って《神龍》のプレイヤーはギルドに戻っていった。 俺は、ホットドッグを食べながらユウカを待っている。
それにしても遅いな。ユウカは何をしてるんだ。俺はそんなことを考えながらホットドッグの最後の一口を食べる。すると、転移門が突如光り輝き誰かが転移してきた…
「退いて~!」
その声には聞き覚えがあった。
後を振り向くと、転移門から転移してきたプレイヤーが俺に上から覆い被さるような格好になってしまった。
「痛てて。」
「あ、ごめんヤマト君大丈夫?」
「ユウカ、遅かったじゃないか。それと上から退いてくれる?」
「あ、ごめんごめん。」
ユウカはそう言って、俺の背中から退いたのを確認すると俺は立ち上がった。
「で、何で遅かったんだ?」
「それは、その、家から出ようとしたら…」
ユウカが何かを言おうとすると、後で再び転移門が青白い光りを放ち人が出てきた。それは、昨日クロウの店でユウカの後にいた男だった。
確か名前をクラウディーと言っていたかな…
「ユウカ様お待ち下さい!副団長の貴方が勝手な行動をされては困ります。さあ今すぐギルドに戻りましょう!」
クラウディーはそう言って近づいてきて、俺の後で上目遣いで助けてと頼んでいるので仕方なく
「悪いな、お前たちのところの副団長様は今日は俺の貸し切り何でね。下がってもらえるかな。」
俺はクラウディーにそう言った。
「お前の様な奴にユウカ様の護衛が務まるわけがない。」
「正直言ってあんたよりは務まるよ。」
クラウディーは少し怒り気味に
「ならば、どちらが護衛として相応しいかデュアルで決着を着けましょうぞ!」
クラウディーはそう言って、メニューウィンドウを開いてデュアルを申し込んで来た。俺はルールを3つの中から選んだ。
1.完全決着デュアル
2.初撃決着デュアル
3.3割HPバー決着デュアル
完全決着デュアルはHPバーが0になるまで続けるが殆どの人が1は選ばない。俺は2の一撃決着デュアルを承諾した。3は特別な時にしか使わない。ちょうど2人の真ん中にデュアル開始までの時間が表示された。これは、装備等を整える時間だ。俺は、入念に装備を確認した。確認し終えると、残り時間10秒になっていた。
俺は、背中から片手剣を抜き、右足を引き右手で構えた剣を右足に沿って構える。クラウディーは脇から身の丈程ある両手剣を構えた。デュアル開始の合図がなるとクラウディーが両手剣を上から降り下ろして出す両手剣垂直上段斬りスキル《アンレイル》を俺は読んでいた。俺は、右足を退き右手で構えている片手剣を右下に構え、片手剣突進スキル《フラクト》の構えだ。
クラウディーは、俺が予測した通り両手剣垂直上段斬りスキル《アンレイル》を繰り出して来てると同時に俺も、片手剣突進スキル《フラクト》を発動する。
クラウディーの剣は装飾が付いていて、値段は相当な額だろうが、その分脆い箇所がある。俺はその部分を狙って片手剣突進スキルをぶつける。剣と剣がぶつかり金属の響く音が周囲に広がる。
俺はそのまま、両手剣に当てた場所を押し続けた。すると、クラウディーの両手剣が真ん中から真っ二つに折れた。
「デュアル終了だな。まだ、続けるか?この辺で降参してくれると有り難いんだが…」
剣が折れても、別の武器があればデュアルを続ける事は可能だ。しかし、完全に武器を破壊されたクラウディーはこちらを見たまま動かない。
そこでユウカが、前に出てクラウディーに、
「クラウディー。本日を以て私の護衛の任を解きます。直ぐに本部に戻り、然るべき罰を受けてください。」
そう聞いたクラウディーは、一瞬顔をしかめたがアイテムストレージから、転移結晶を取り出して転移する前に、
「お前みたいな奴にユウカ様の護衛が務まるものか!」
そう言ってきたので
「務まるさ。あんたよりは充分務まるさ。」
俺が、そう言うとクラウディーは転移結晶を握り潰して、転移した。
その後俺とユウカは約束通り124層の迷宮区に向かう。道中幾度かモンスターとエンカウントしたが、流石は《雷鳴騎士団》副団長であり、《疾風》の異名を持つユウカだ。迷宮区へ近くなった頃俺は、後方からプレイヤーの集団が近づいて来るのを感じた。
「ユウカ、誰か来る。隠れないと。」
「えっ、でも隠れてもこの格好じゃ直ぐに見つかっちゃう。」
「仕方ない。ユウカ、こっちだ。」
俺は、ユウカを手招きして直ぐ側の木の影に身を隠すと、上着のコートを広げてユウカに入るよう促す。ユウカは、少し戸惑ったが隣に寄ってきて上着の中に入る。その場で俺とユウカは、誰が近づいて来るのかを見ている。
目の前を通り過ぎたのは、重い鎧兜で身を固めた装備と槍を装備した者、片手剣を装備した者、両手剣を装備した者を含めて30人程のプレイヤーが迷宮区に向かっている。
全身を鎧兜で固めている奴らは一つしかいない。《アルテミス解放軍》と名乗っている奴らだ。アルテミス解放軍は通称解放軍と呼ばれる部隊が、通り過ぎて行くのを確認すると、ユウカはそっと俺から離れる。俺は、名残惜しかったが木の影から表道に出る。
俺とユウカは表道に出た後迷宮区に向かって走る。解放軍にバレないように、俺は索敵スキルを使いつつ迷宮区に向かう。途中モンスターとエンカウントしたが、ソードスキルを使うまでもなく倒していった。
迷宮区に着いた俺とユウカは、しっかりとマッピングをしていく。迷宮区に入ってから、二時間半が経過して、ボス部屋の前に俺とユウカはいた。
「ここか……」
「うん。そうみたいだね…」
「何だか、少し寒気が……」
「何だか、私も…」
「とにかく、扉を開けるけどボスモンスターはボス部屋から、出て来ないと思うけど一応転移アイテム用意しといてくれよ…」
「うん。」
ユウカは、そう言って転移結晶を握る。
「じゃあ、開けるぞ。」
俺は、そう言って扉を奥に押す。
ゴゴゴゴという音がして、ゆっくり開いていくと部屋の中にある松明に火がついていく…俺とユウカは、恐る恐る中を覗く…正面を見るとそこには、全長80m前後はあるモンスターだった。その風貌は、頭には角、顔は牛のよう、腕は筋肉で隆々としている、指は全てを切り裂くような爪を持ち合わせている…言うならば、悪魔と言った方が早い。
俺とユウカは、ボスモンスターを見た瞬間2人で叫びながら、来た道を戻っていき安全圏まで引き返していた。
「あ~ビックリした。」
「それよりも、お昼ご飯にしよう。」
ユウカは、そう言ってアイテムストレージからバスケットを取り出してバスケットの中から、サンドイッチを二つ取り出して、一つを俺に手渡す。
「て、手作りですか?」
「そうだよ。朝早く起きて、作ってきたんだよ。」
「いただきます。」
俺は、そう言って一口食べる。一口食べて、絶妙な味付けに驚いた。
「旨い!これで、店を出したら儲かるな…いや、駄目だ俺の分が無くなったら困る。」
「もう、そんなこと言わなくても作ってあげるよ。」
俺とユウカは、食べ終えて寛いでいた。
「あの、ボスモンスターをどうするかな?」
「そうだね…武器は左手の大剣のみだけど、特殊攻撃とかもありそうだしね。前衛には、盾装備の人を10人配置して、チェンジで入れ替わりながら攻撃していくしかないよね。」
「そうだな…。」
「ところで、君は何で盾を装備しないの。片手剣を装備するなら、あった方が良いんじゃないの?私は、細剣を使ってるから速度を落とさないように装備しないけれど、何か隠してるよね?」
「うっ、いや……それは、その……」
ヤマトの索敵スキルに反応があった。
「ユウカ誰かが来る!」
俺はそう言って、ユウカと誰かが近付いてくる方に視線を向ける………
第二章~怪しい影~読んでいただきありがとうございました。さて、次の投稿に関してですが明日までには、投稿致します。次の投稿を持ち一時休載します。第三章は少し過去に戻ります。第二章の続きは第四章になります。これからも、応援宜しく御願い致します。m(__)m