第1話 ルルリリイエ ****
異界の中にある、皇国ガリディア。9つに分かれ、互いを責め合う戦いの国である。
皇女ルルエと公女リリエが、その過ちを正して、新たな国を創ろうと立ち上がる。行政官ソシがそのためのアイデアを述べる。
行政長官ソシが布のブリッジを開いた。
机の上にあった9つの国が、ひとつの大きな国となっていた。
「すてき!」
「ほう、もうルルリリイエ皇国になったのか!」
皇女ルルエが喜んだ。
公女リリエが笑って手を打っている。
暗かった二人の国女の顔が明るく輝いた。
周囲で見守る従事影たちも、輝きをました。
「ちょっと、いたずらをいたしました」
行政長官ソシが笑いながら、皇女に頭を下げた。
椅子を用意するように、ソシが手を上げた。
テーブルの横に立つ皇女ルルエ、やさしげに腰掛けた。
隣に立つ公女リリエは、武人らしく堂々と座る。
ソシは、テーブルに前に立ち、語り続ける。
「ルルエ様。ソシがお察しいたしますに、兄上様、父上様と戦わなくてはいけないのは、大変におつらいことでしょう。涙も枯れて、心が乾いておりましょう。しかし、誤っているのは、父上であり、母上であり、皇子様方々です」
ソシがテーブルを叩くと、皇王家の人形が現れた。
それぞれの従者である行政官の人形が現れた。
そして、皇国で最近おこった戦いの絵が見えてくる。
「天災があり、国が披露しても、なお直さなかった政の数々、家族さえも信じないで個を押し通す古い知識、誤った導き。たとえ親や兄弟であっても誤りは誤り、それを誤りとして正すことなく、力を振るうだけなら、なにが皇王の国でしょうか、なにが親子でしょうか」
ソシが、ルルリリイエの新たな地図を壁に掲げる。
「ルルエ様、鳥人と和して、異界の王と和して、新たな国をつくる、どうかこの案をもって、親兄弟の誤りを正し、争いに幕を引き、皇国に暖かな日々を戻してください」
武人にして公女のリリエが、ルルエに向き直ると声を発した。
「ルルエ。私もこのソシのつくった親兄弟との争いに幕を引くという言葉には真実があると思う。また、そうでなければこの国はふたたび豊かになりえない。ふたたび豊かな時を迎えて、影と共に暮らすのに十分な街をつくっていければ良いのではないか? そう思うに至った」
国母となる皇女ルルエが、頭を下げながら微笑み、語り出した。
「リリエ。ソシ。ありがとうございます。皇王の父、そして皇子の兄たち。彼らが誤り、この国の影たちが悲鳴を上げているのは、悲しいけど事実。それでも大人が誤りを認めず、その政の数々を正さず、子らを危めているのも事実。わたしの中の悲しみを察してくれて、感謝いたします。また、その解決に一線の路を教えてくれて感謝します」
「ルルエ。貴女の清き想い、我らの小さき力で、ルルリリイエを国にしていこう」
ルルエが微笑み、頷いた。
リリエが、ルルエの手に手を重ねると、命を発する。
「さあ、ソシ。足りないものを言え。それを用意しよう」
ソシが恭しく頭を下げて、テーブルを指先で示す。
数体の真っ白な人形が現れた。
ソシが、白い人形を持ち上げた。
「新たな兵が必要です。しかもあることに優れた兵」
「優れた兵? それなら今もおりましょう?」
「ルルエ。優れた兵はおります。しかし、集団で殺し、壊することに優れた兵です。集団ではなく、個人、または数人で、できるだけ殺さない、できるだけ壊さないことに優れた兵。その兵とは……」
「兵とは」
「戦いの前に、戦った後を考え、造っておける兵でなければなりません」
「なんでしょう、その、後を造れるとは」
行政長官ソシが、テーブルを回り、指先で小さな輪を描いた。
黒い小さな人形が一〇体二〇体と表れた。
人形が浮き上がり、互いにぶつかり、消えていく。
テーブルのあちらこちらで、黒い人形たちが表れ、ぶつかって消える。
「兵は、必要なら父や兄でも殺し、家族や仲間を離反させ、家や橋、道路を壊します。しかし、殺し、壊した後はどうしますか? そのままでは消えるのみ。哀しい、苦しい、暮らしができない。それでは戦いに勝っても、毎日が死です。今の兵は、戦いの兵。戦いの兵は、戦いが始まれば破壊のみの集団です。皇王皇子の影の数と武器の力で勝れば、勝つことも容易です。しかし、それでは、ルルエの父、皇王や兄弟の皇子の戦いと変わらない。殺し、殺され、消耗するだけの戦いになります」
「兵が殺し、壊した後を……」
ソシが白い人形を、黒い人形たちの間においた。
皇王家の人形が消える。
中心にいる黒い人形が消え、互いにぶつかり消える人形がなくなった。
「先に考えられる兵です。家や道、橋を壊す前に、父母兄弟姉妹を殺す前に、壊さなくても済む様にできる兵です。影たちの暮らしを消耗させず、皇王や兄弟の皇子を殺める、または誤りを除くことができる兵です。影たちをイキイキとさせながら、争いを収める兵です」
「それは、どんな兵でしょうか?」
ソシがテーブルに人差し指を載せると、10数の白い人形が浮き出した。
そして集まってきた。
ソシが、それぞれの人形の頭を指先でなでる。
白い人形が影の様に変わっていく。
少女、少年、商人、旅人……。
「集団で戦う影たちではなく、数人、あるいは一人。それも普段は影と共にいて見立つことない、旅人や冒険者、商人、僧侶のような姿で、宝物を見つけて道具として使うことができる。必要なときに活き活きと国のための戦いを行う兵です。影として活きる兵。影活兵。仮の名ですが、影として活きる兵です」
皇女ルルエの頬に赤みが増す。
「影活兵、その兵はおりますか?」
「ルルエ様、ご用意しております」
「いつ、会えますか?」
「いま。ご案内できます」
ルルエが咆哮する。
「リリエ、立ち上がろう」
「ルルエ、リリエ、こちらに」
行政官ソシが先立って、部屋の扉を開けた。
やっと、序盤が終わりました。
少女たちの旅を始めましょう。