隠密
作品タイトル:隠密
作者:南極水鳥
俺とあいつは生まれてからずっと苦楽を共にしてきた。
闇に生きる俺たちは他の仲間と行動を共にすることはほとんどない。せいぜい情報交換をするときに集まる程度だ。だから俺にとってあいつは唯一の友であり、パートナーでもあり、……憧れの存在でもあった。しかし気が付いたらそばにいた俺のことはただの仲間としか思っていないようだった。
そんな俺たちは生きるために毎日忠実に仕事をこなしていた。物陰に隠れて情報を集めるのが基本の仕事、しかしある時は敵の食糧庫を襲い補給を断ったり、味方に物資を届ける補給任務をする時もある。なかなかに大変な仕事だがあいつと一緒にいられるならどんな仕事でも受けてやろうと思えた。
ちなみにこれらの仕事はほとんどの場合夜に行われる。俺たちの黒い服装がカモフラージュの役割を果たしてくれるからだ。
しかし、やむを得ず昼間に動かなければならないこともある。昼間となると俺たちの黒い外見は目立ってしょうがない。この時はいつも以上に周囲に気を配り、二人で見張りながら動くのだが、それでも見つかってしまう時がある。
やつらに見つかったら逃げるしかない。たまに無謀な新人がやつらに向かって飛びかかっていくことがあるが、その末路は恐ろしい。やつらは左手から発する有毒ガスで俺たちの動きを鈍らせ、右手の大きな打撃武器で俺たちに致命傷を与えるのだ。あの凶悪な組み合わせの餌食になった仲間を見るのはいつになっても慣れることはないだろう。
万が一いつも一緒にいるあいつがやつらにやられてしまったらと考える度に、俺は手の震えが止まらなくなってしまう。しかしそんな時はいつもあいつがそばに来て手を握り、励ましてくれる。そしてまた働くことができるんだ……。
そして、あの日がやってきた。
その日の仕事は敵の基地の中に入り込み、やつらが保管している新兵器の実情を探ることだった。任務は俺たち二人のほかにも何組かのエージェントが参加する大がかりなものになり、敵の警備も厳重になると思われた。
今回俺とあいつは他の組よりも遅めに侵入することになった。当初はあいつが先遣隊に名乗りを上げようとしていたのだが、そこはさすがに俺が説得して止めた。あいつを死なせたくなかったからな。
先遣隊が侵入に成功してから数十分後、連絡が途絶えた。どうやらやつらに発見されてしまったらしい。こうなったらもう見捨てるしか選択肢がなかった。待機している俺たちの間に諦めと絶望の雰囲気が漂った。
しかしそんな中あいつだけは「助けに行こう」と言った。あいつは仲間思いだったからな、こうなったらだれにも止められない。俺はあいつを死なせたくなかった。だから俺も一緒に助けに行くことにした。
俺たちは侵入すると、やつらの所有するある建物の入り口に味方の書置きを発見した。『ここには……』、それだけが書かれていた。この中に仲間がいるかもしれない、そう判断した俺たちは中へと侵入した。しかし、数歩進むと足が動かなくなってしまった。一緒に来たあいつも同じ様子だった。その時俺たちは気づいた、これがやつらの新兵器だったのだと。あれは仲間が必死で残した警告だったのだ、と。
おそらくもう助からない、そう判断した俺たちは他の仲間たちに向けて今知った敵の新兵器の情報を送ることにした。
やつらの新兵器の名は……
ゴキブリホイホイ
(終)