第五話 真実の破片(2)
和馬がいなくなり、部屋の中はまた、将一、英樹、敏郎、吉住の四人になる。
「渡部。さっきの広瀬の話を、どう思った?」
「特に不審な点は見当たりませんでしたが」
「話はな。俺が気になったのは、広瀬の話し方だ。やけに淡々としていなかったか?小早川はどうだ」
「そうですな。まるで感情を表に出さないように、自制していたかのように見えましたな。原口のやったことを考えれば、もう少し軽蔑や嫌悪が出た方が、確かに自然ですな」
「では、広瀬を張るか?」
英樹に言われ、将一は少し考える。
「いや。状況をみてから考えよう。目星をつけている奴らを押さえるほうが、先だな。ただ、釈然としなかっただけだ。おまえ達もご苦労だった。持ち場に戻ってくれ」
そう言って将一は、扇で肩を数回たたいた。そして頭の中にある、数十もの解決しなければならない用件に、優先順位をつけ始めた。
「広瀬さん、遅いね」
「そうだな」
和馬が将一に呼び出されたので、海神への出発が延びている。雪菜は直也と一緒に門の近くで座りながら、和馬を待っていた。
「広瀬さん……。何もしていないよね」
「……」
「直也?」
「今の段階では、なんとも言えない。ただ、もしも原口の死因に広瀬さんが関わっているとしたら、それには余程の理由があるからだと思う」
――直也、否定はしないんだ……。
直也のこんなところ、冷静で頼れると思うけど、ちょっと冷たいな、とも思ってしまう。
だって、普段あんなに仲がいいのに、どうして絶対にやっていない、って言い切らないんだろう。もしもあたしが何かに巻き込まれても、今みたいに冷静でいるのかな……。
「待たせたな、直也。悪い悪い」
和馬の声が近くで聞こえた。いつも通りの和馬が、名波を曳いてやってくる。
「あれ、お姫さん。直也のお見送りですか?」
「うん。広瀬さんも気を付けてね」
「どうも。いただいたアメ、ありがたくご馳走になりますよ」
和馬は笑いながら雪菜に手を振った。直也は馬に乗って、じゃあ、とだけ言う。
前から気になっていた直也のそっけなさが、やけに雪菜の不安をざわつかせる。
――そういえば、直也ってあたしのこと、どう思っているんだろう。嫌われているとは思わないけど、もしかして迷惑なのかな。だから、そっけないことが多いのかな……。
その考えが、雪菜から無邪気な笑顔を奪う。
――あたし、ちゃんと笑えているかな。変な顔、していないかな。
そう思いながら、雪菜は直也と和馬に手を振った。