表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春隣  作者: 桜木結実
17/23

第十七話 からまる鎖(2)

「足の早い娘さんですなぁ」

「追いかけなくてよろしいのですか?」

「いえ、追いかけます。すみませんが、ここでちょっと待っていてください」

「わたくし共は別の方に道を聞きますよ。いやいや、若いとはいいですなあ」

「じゃあ、俺はこれで。時間をとらせてしまい、申し訳ありませんでした」

「いいえ、とんでもございません。頑張ってくださいね」

 夫婦の励ましに、直也は苦笑いを返す。

 急いで道をくだると、雪菜が坂の下で立っていた。隣には泰史がいる。

――なんで、あいつが。

 雪菜は泰史の袖を掴みながら、一生懸命に何かを話していた。雪菜は意識していないが、あれは甘えている時によくやる仕草だ。

 いきなり泰史がかがんで、雪菜の口もとに耳を近付けた。きっと、雪菜の言葉が聞き取れなかったのだろう。すぐに姿勢を戻した。だが、雪菜は泰史の袖を離そうとはしない。なおも話し続けている。

「雪菜!」

 思った以上に、大声が出てしまった。

 雪菜がびっくりした顔をして、直也を見る。

「雪菜、話をちゃんと聞けよ」

「命令しないでよ。直也に振り回されるのはもう、うんざり!」

「雪菜!」

 こんな雪菜を見たことがない。

 こんなにも全身で拒否されたのは、初めてだった。

「あたし、菊花のところに行かなきゃ。直也は海神に行くんでしょ。じゃあ、気を付けてね。さようなら。ほら、行くわよ黒川さん」

 そう言って、雪菜は泰史の袖を引っ張った。

「え? 俺もですか?」

「当たり前じゃない。惣領の妹姫を一人で歩かせる気?」

「さっき、一人で坂をくだってきたじゃないですか」

「なんで意地悪ばっかり言うの……!」

「はいはい、分かりましたよ。すみません、水越さん。失礼します」

 雪菜は直也に背を向けて、早足で歩いていく。

 その後ろ姿を見ながら、以前、和馬に言われたことを思い出した。

――おまえ、お姫さんの好意に寄りかかり過ぎじゃないのか。

 泣き出しそうだった雪菜の顔。

「やっぱり、そうなのかなぁ……」

 直也は独り言を言いながら、ため息をついた。


「変な意地を張らないほうが、いいと思いますよ」

 泰史が、しょうがないな、といった顔をしている。

「意地を張っているんじゃないもん。怒っているんだもん!」

「まあ、ちょうどいいか。これ、あげますよ」

 泰史が手渡したのは、「ゆかり神社」と書かれたお守りだった。

「恋愛成就の神社ですよ。これをいつも身につけていると、想う相手と結ばれるそうです」

「……黒川さん、これに願掛けしていたの? 相手は、どこの誰?」

「違いますよ。これは、雪菜さまのために手に入れたんです。水越さんの気持ちが分からないって、この前言っていましたからね」

「わざわざ手に入れてくれたの? ありがとう、黒川さん!」

「いいですか。これはいつも身につけていて下さい」

「うん。わかった」

「そうしないと効かないそうですから」

「うん。じゃあ、そうする」

 雪菜はお守りを胸元にいれた。

「これでいい?」

「いいですけど……。男の前ではそういうことをしない方が、身のためですよ」

「そういうものなの? じゃあ、気をつけるよ」

「ほら、部屋の前に着きましたよ。俺はこれでお役御免ですね」

「あたしから逃げたいように見える……」

「気のせいです」

「そっかなあ」

「かんべんしてくださいよ。俺、すぐに渡部さんと外回りに行かなきゃいけないんですから、ごねないでください」

「直也も黒川さんも、冷たい……」

「その分、惣領殿が大甘じゃないですか。これで収支が合いますね」

「雪菜さま、どうなさったんですか。黒川さんとご一緒ですか? 黒川さん、上がってお茶でもいかがです?」

 青白い顔をした菊花が、雪菜の部屋から顔を出した。

「こんにちは、藤枝さん。ゆっくりしている時間がないので、すみませんが失礼します」

「そうなんですか? 残念だわ」

 泰史は菊花に軽く頭を下げると、足早に去っていった。

「なんだか、皆に冷たくされている気がする」

「なにをおっしゃっているんですか。気のせいですよ」

 雪菜が部屋に入ると、菊花はお茶の用意をしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ