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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第七章 つかの間の安息
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第二十九話 歓迎会です1

バトルは当分、お休みにしたいです

 ときは四月。

 異端審問局のクーデーターも無事解決し?、いつもの平穏な日常に戻ったユヅルは、机の上に上半身を投げ出し、

「春眠、暁を覚えず。いい言葉だ」

 完全に春の陽気に加速された睡魔に誘惑されるがまま、惰眠を貪ろうとしていた。


 本来であれば、入学式に新入生歓迎会の準備で、生徒会に強引に所属させられた彼に、こんな場所にいる余裕はないはずなのだが、前回のことで情報屋こと、生徒会長の品川ヘキルに対して大きな貸しを作ったので、生徒会から見事に撤退。現在の状況を勝ち取ったのである。


「ユヅル君、ちょっと相談があるんですけど?」

「後にしてくれ、今、春の陽気と戯れるのに忙しい」

 進級と同時に同じクラスになったアキタカの提案を、雑に払いのけ、彼は本気でこの場所で寝ようかと考え始める。


「先輩はいますか?」

「ただいまお前の先輩は、睡魔とダンスすることに忙しい。用件がある方は携帯に連絡をお願いします」

 慌てた様子で教室へと足を踏み入れてきたレベッカに対しても、彼の対応は変わらない。というか、先ほどよりも対応が雑になってきている。


「ユヅルさん、おじいちゃんからお話があるって呼び出されてるんですけど」

「気が向いたら向います。ムニャムニャ」

 彼の机にまで近づいてきたカナミに対しても、同じような対応。むしろ、怠惰な雰囲気が加速してきている。


「まったく、担任にも困ったものだよね」

「ほんとよ、美少女を全員同じクラスに押し込めるなんて、何考えてるのかしら」

「あの、クレハさん、雨竜さんが言ってるのは、そういうことじゃないと思いますよ?」

 そんな彼の周囲には、カズキ、クレハ、ヒサノの三人も集まってくる。まぁ、実際、クレハの言葉通り、全員同じクラスになったわけだが。


「このクラスに美少女ランキングトップファイブが全員集合。素晴らしいの一言に尽きる、まさに担任に、いや、神に感謝するべきだな、シンゴ」

「単純に、扱いづらい生徒をひとまとめにした感があるんだけどね」

 そう口にしながら、彼の席へと近づいてきたのはリュウイチとシンゴの二人。ある意味、ユヅルの知り合いが全員このクラスにまとめられたことになる。もっとも、そんなことを気にするほど、彼は仕事の件もあって学校に馴染んではいないが。


「おまえら、俺になんか恨みでもあるのか?」

 髪を乱暴に右手でかきながら、ユヅルは上半身を起こし、大きく背伸びをする。ちなみに、腰付近まであった、獣の鬣を連想させるほどの金髪は、今では黒く染められ、短くなっている。異端審問局の件に関して責任を感じてそうしたことは皆には黙っている。


「そうそう、新入生歓迎会でステージ借りれるから、ライブやろうと思うんすけど、ユヅル君」

「俺に提案するなよ、部長はお前だろ。決めるのはお前だ」

 ようやく起きた彼に対して、アキタカは先ほど言いたかったことを口にするものの、彼の対応はあくまで冷ややか。


「先輩、ここの計算なんですけど」

「関数電卓使って自分でやれ」

 続けて書類片手に彼に相談しに来たレベッカ。そんな彼女には、机から取り出した関数電卓を放り投げて一蹴する。


「おじいちゃんからのお話なんですけど」

「メンドイからパス」

「いや、そういうわけにもいかないんですけど」

「なんで?」

「いえ、その、なんでって私に言われても困るんですけど」

 会話の流れから見事に追い詰められ、回答に詰まってしまうカナミ。そんな彼女から視線を窓の外へと向け、大きく背伸びをするユヅル。


「それにしても、そこまで眠たそうなユヅルは珍しいね」

「まぁ、ちょっと、いろいろな問題があってな」

「いろいろな問題、ねぇ」

 はぐらかそうとするユヅルに対し、含みのある口調で答えるカズキ。そこから、彼女は何を導き出したのか、言葉を紡ごうとした瞬間、


「兄様、見つけた」

 とても嬉しそうに笑顔を浮かべた小柄な少女が、いきなり教室に入ってきて彼に抱きついて、首に手を回していた。

「美少女、キタ━(゜∀゜)━!」

「とりあえず、黙れ」

 少女に抱きつかれ、あまつさえ、太ももに座られてしまった彼だったが、いきなり奇声をあげたリュウイチの頭上に、チョップというツッコミは忘れない。


「レンちゃん、いきなりどうしたの?」

「姉さまもいた、嬉しい」

 少女に近寄り声をかけるヒサノに対し、少女ハイドレンジア・フォルダン。否、現在、春日野レンは嬉しそうにユヅルに座ったまま、彼女へと両手を伸ばす。


「えっと、知り合い?」

 少し距離を置きながら聞いてきたシンゴに対し、ユヅルはひとつ小さくため息をつきながら、

「こいつの名前は春日野レン。俺が日本に来る前に世話になってた人たちの娘で、ちょっとした事情があって、ヒサノの両親に事情を説明して、養子として引き取ってもらった」

 流石に、両親共に殺されて、命からがら日本にいる彼を頼ってきたとは、あまり口にできない事実。そのことを踏まえた上で、重要な部分を濁しながら説明する。


「でも、ユヅルのこと、兄様って」

「察してくれ」

 疲れてきたので、いい加減、膝の上に乗っている少女をどけたい彼だったが、そうすれば、彼女が涙を流し、周りから非難の目を浴びることは確実。


「はぁ、俺に安息をくれ」



久しぶりの学校

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