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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第六章 牙を剥く者達
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罪と罰3

忘れていたわけではない

 いくら強がったところで、立っているのが精一杯なユヅル。ここから戦況を覆す可能性は皆無に等しい。それでも、これが幻術であり、罠を張り巡らせている可能性も否定できない。圧倒的に有利な状況でありながら、心理的に不利な立場に立たされてしまった彼女は、決断することにためらいを感じてしまっている。

「それが、弱さだ」

 そんな彼女の心情を見抜いたのか、彼は言葉を紡ぐ。


「人間ってやつは、一人じゃ立てない生き物だ。人っていう漢字が、支え合って出来ているって言葉を何万人が、なん十回も口を揃えていうように」

「私が、弱いだと。完全なる私が」

「ああ、弱い。こんなズタボロになった俺を殺せないことがその証明だ。いい加減に気づけ、完全って言葉に踊らされてるだけの、哀れな道化でしかない、ただの人間でしかない自分に」

「もういい、貴様の戯言に付き合うのはうんざりだ」

 その言葉と同時に、無数の斬撃が彼を襲う。立っているのがやっとの状態の彼に、その攻撃を避ける事など、不可能。攻撃の余波によって巻き起こる砂埃。それが晴れれば、彼女の勝利が確定する。そう、彼女自身、自分に言い聞かせていた。だが、


「おそくなってしまい、申し訳ございません、ご主人様」

「この件に関する謝罪は、後ほどさせていただきます、マスター」

 彼女の攻撃は、突如として現れた二人のメイド、アカネとヌイによって阻まれていた。

「それはいいが、これはいったいどういうことだ?」

 半分になってしまっている視界、それでも捉えることのできた人物。それらを見回して、彼はため息をつく。


「水臭いよ、ユヅル」

「ほんまに、苦労性どすなぁ、ユヅルはん」

「一人でかっこつけすぎでしょ、ゆ~ちゃん」

「大丈夫ですか、先輩?」

「ここからは、拙者たちが引き受けるでござるよ」

 口々に、彼に並び立つケイオス、フジノ、クレハ、レベッカ、センザの五人。それは、この場所にいるはずのない者たち。


「俺は、お前ら二人には、来いといったが、こいつら連れて来いなんて一言も言ってないぞ」

「はい、伺っておりません」

「私たちの独断です」

 自分の命令に従うことなく、遠ざけたかった者たちを連れてきた不肖のメイドに対してため息をつき、

「本当に、優秀なメイドだこと」

 小さく毒づく。


「ふっ、小虫が群れたところで、死ぬ順番が早まるだけだというのに。どうして貴様らは、そうやって互いの弱さを支えあおうとするのか。理解に苦しむよ」

 その状況を冷静さを取り戻し、傍観していた教皇は冷笑と共に言葉を口にする。彼女の言うとおり、彼女の持つ聖遺物を攻略することができなければ、選択肢はなく、死ぬ以外に道は残されていない。


「そんなだから、お前はずっと独りなんだよ。あの人に言われなかったか、お前には、自分の為に損得勘定抜きで、命を賭けてくれるやつがいないって」

 左目だけで、絶望的な状況にありながら、ユヅルは軽口を叩く。

「なんとでも言うがいい。貴様の、貴様とあの哀れな女が完成させた神滅兵装ティタノマキアも、私には届いていない。これがどういうことか、理解できているのか?」

「理解してないのは、あんたの方だよ」

 彼女の挑発で、飛び出そうとする仲間を手で制し、ユヅルは笑みを浮かべる。ただ、その笑みは先ほどの狂気に彩られたものではなく、楽しげなもの。口では邪険に扱っているものの、彼自身、自分の為に駆けつけてくれたことが、嬉しくてしょうがないのだ。


「俺がいつ、神滅兵装の力を開放したって言った?」

 それは、不可解な言葉。確かに彼は、言霊を口にし、神滅兵装を展開させている。だが、使っている力、開放している力は、ヤストキと戦った時、完成される前の時と大差ない。

「そうだな、仕方ない。ここからは、全力で行くとしよう。どこかのお節介なヤツらを待たせるのも、このあと控えてるイベントもあることだし」

 首を軽くならし、かろうじて動く左手を拳の形に、


『此の牙は我が為に、此の翼は他が為に、此の言葉は亡き同胞の為に』

 その言葉を、言霊を聞いた瞬間、教皇の表情が凍りつく。

「二段階、開放だと」

『過去を己の罪とし、未来を己の罰と為す。故に我は、未完。ただ、未完であるが故に、神をも滅ぼす剣と成らん』

 世界を白光が焼き付くし、目が慣れてきた頃には、一切のダメージを受けていないユヅルがタバコの煙を燻らせていた、いつもの、ふてぶてしいまでにつまらなそうな顔で。


「二段階開放っていうのは、間違いだ。さっきまでのは、俺の魂の力で模造しただけの神滅兵装。だから、今のが、完全開放だ」

 それだけ口にすると、彼は教皇に背を向け、


「これは、ただの姉弟喧嘩。規模はでかいが、それだけのことだ。だからお前らは手を出すな」

「ユヅル、そんなこと言ったって」

「黙って見てろとは言わない。だが、おとなしく見てろ」

「それ、言ってること同じだよね?」

「いいから、手、出すな。お前らはただ、観戦してればいいんだよ。どうせ、俺が勝つに決まってるんだから、な?」

 ユヅルに対して食い下がるケイオスだったが、彼の最後の言葉を聞いて、二の句が継げなくなってしまう。


「お前らは、ただ信じてればいいんだよ。疑うことなく、自分たちと同じ時を生きて、一緒に傷ついて、笑って、馬鹿やった奴が、完全なんて、完璧な存在になんて負けるはずがないって」

 そして、彼は仲間たちに背中を向け、教皇へと向き直り、


「後悔しろ、懺悔しろ、まぁ、今更何をしようが、許すつもりなんてない。だからこそ、しっかりと目に焼き付けてから死ね。今から、この瞬間から、未完成ってやつが、どんだけ凄いことで、完全ってやつがどれほどくだらないことか、教えてやるから」



主人公が若干ヒーローっぽく見える

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