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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第一章 日本到着
9/106

部活動に参加しよう2

好き=得意、嫌い=苦手


これは常に当てはまる方程式とは限らない。

 とりあえず、文化部の部室塔に着いたユヅルは、入り口で、ヒサノの状態を確認。彼女は、放心しているのか、うっとりしているのか、どちらにしてもここでおろすわけには行かないと判断。そのままの状態で、彼は手芸部の部室を目指す。

 手芸部、そう、簡易的な看板がある部屋を見つけたユヅルは、両手がふさがっているので、いつものようにドアを足で蹴り飛ばす。当然、ドアは外れ、中にいた部員たちが驚いて、出入り口に視線が集中する。

「ああ、なんていえばいいんだ、こういうとき。悪い、ヒサノ、説明してくれ」

 ヒサノを下ろし、ゆっくりと彼女を立たせようとするユヅルだが、彼女は腰が抜けてしまっていたので、体制を崩してしまう。そんな彼女を放って置くわけにも行かず、もう一度彼女をユヅルは抱き上げ、今度は椅子の上にゆっくりとおろす。

「おい、しっかりしろ。悪い酔いしたか?」

「だっ大丈夫です。はい」

 顔をユヅルに覗き込まれ、二人の顔は吐息がかかるぐらいの距離にある。こういった彼の、鈍すぎる態度が、彼女の鼓動のスピードを飛躍的に上げてしまっているのだが、本人は無意識でやっているため、まったく気づかない。

「えっとですね、彼は、その、部活見学に来たゆ~君です」

「いや、春日野、呼び方はともかくとして、その紹介の仕方はどうかと思うぞ」

 ヒサノがどうにかこうにか、口に出せたのはその言葉だけ。それに対して、部員の一人が野次っぽく言うが、

「部活見学、なるほど、噂の転校生くんだね」

 そんな中で一人の女子生徒が、ユヅルを値踏みするように見ながら、軽く手をたたいた。ちなみに、ユヅルが女子と判断できたのは服装と、胸の大きな二つの風船のおかげだ、

「ああ、自己紹介がまだだったね、あたしは、手芸部部長、二年の釧路岬。気軽にみ~たんって呼んでくれるとうれしい」

―随分と奇抜な自己紹介をしてくれる―

 口には出さないものの、ユヅルは彼女の外見から見て、率直に変人という判断を下す。髪は茶色のショートカット、それに加えて猫耳カチューシャ。これだけでも、町で見かけたら声をかけたくない。そして、そんな彼女の服装といえば、下は制服のスカート、だが、上はなぜか男同士が上半身裸で絡んでいるイラストが描かれているTシャツ。

「俺は、」

「ゆ~君でしょ。大丈夫、覚えたから」

―いや、呼び名じゃなくて、正式な名前を覚えろよ―

 心の中で突っ込みを入れつつも、それ以上追求しようとはしない。この手の手合いは、受け流すことに専念しながら、会話をしなくては会話が成立しない。むしろ、自分の世界に相手を引っ張り込んでいく。

「そんで、釧路先輩」

「み~たん」

「いや、釧路先輩」

「み~たんです。そんな可愛くない呼び方は認めません」

―勘弁してくれ―

 助けを求めようと、ユヅルはヒサノへ視線を送るが、残念ながら、彼女は首を振っている。どうやら、彼女もお手上げらしい。

「み~たん先輩、見学に来たんで、作品とか、部活の作業しているところとか、見せてほしいんですが」

「ちょいと待つがよろしい」

 岬は満足げに口にすると、ロッカーをごそごそと漁り始める。

「話し方に統一性の無い人だな。おまけに、こうと決めたら譲らない」

「恥ずかしながら、おっしゃるとおりです」

 小声でユヅルが口にすると、恥ずかしそうに顔を赤らめながらヒサノが代わりに謝罪してきた。どうやら、ヒサノも彼女に振り回されている犠牲者の一人らしい。

「これが、我が手芸部、主に私の作品だぁ。とくとご覧あれ」

 机に広げられたものを見て、ユヅルはどう答えればいいのか、困ってしまう。おおよそ見当はつくのだが、確信は持てない。

「これは?」

「見ればわかるだろう、犬だ」

「じゃあ、これは?」

「ゆ~君はダメダメさんだな。猫に決まっているだろう」

 自信満々に岬は答えるが、ユヅルには、色が違うだけで同じもののようにしか見えない。他の部員はどうなのだろうと思い、周囲に視線を配るが、皆、苦笑いを浮かべている。

「どうだ、すばらしいだろう。そんなわけで、これにクラスと名前を書きたまえ」

 彼女が机の上に置いたのは、入部願いの紙。ここで、促されるままに書いてしまえば、詐欺に引っかかるカモでしかない。

「その前に、針含めた裁縫道具一式、貸してください」

 ユヅルの言葉に、快く裁縫道具を渡す岬。部員たちは、これから何が起こるのか、固唾を呑んで成り行きを見守っている。

 だが、次の瞬間、部室にいた全員が言葉を失ってしまう。なぜかって、それは、ユヅルが器用に、針と糸を使いこなし、ぬいぐるみを二体ほど、十分もしないうちに完成させていたからだ。その動きは、一朝一夕でものにできるものではなく、とてもじゃないが、体に染み付いていなければ、できるものではない。

「み~たん先輩、これが犬と猫です」

 そう、彼が作った二体のぬいぐるみは、十人が十人認める犬と猫。しかもそのできはかなりのもの。あまりの手際のよさに、部員全員、状況が飲み込めていない。だが、そんな部員をよそに、入部届けに名前を英語で記入したユヅルは、ぬいぐるみを椅子に座ったままのヒサノに対して放り投げる。

「それは、お前にやる。ああ、そうだ、活動日とかは、明日にでも教えてくれ」

 そう言って、ユヅルは部室から出て行ってしまう。

「すっ素晴らしい。ハラショ~」

 奇声を上げながら喜ぶ岬に、ユヅルお手製のぬいぐるみを抱きしめ、完全に乙女モードに入ってしまったヒサノ。

 部員たちは、この状況、どう収拾をつけたらいいものか、腕組みをしてうなっていた。

部活は決まりましたが、まだ続きます。


次はどちらのターン?

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