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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第六章 牙を剥く者達
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突きつける刃3

本当に恐ろしいのは、

 それは、この世の地獄を体現するような光景。

 あるものは血まみれで倒れ、またあるものは、苦悶のうめき声を上げながらその表情を歪ませている。その場所の中心にあるコンピューターを操作しているユヅルは、つまらなそうに室内へに足を踏み入れてきた人物に対して視線を向ける。


「ライプラース、きちんと手に入れてきたんだろうな?」

「無論」

 そう口にして、一冊の本を彼に対して手渡し、姿を消そうとするライプラースだったが、


「こういったところは、変わらないのだな、我が主」

「どういうところだよ?」

「あえて、止めを刺そうとしないところだ」

「それのどこか、問題でもあるのなら、聞いておこうか?」

「いや、問題など、どこにもない」

 口を開くことをそれ以上せずに姿を消す。


 彼は、決して口にしなかったが、殺せる状況において、相手を殺さずにあえて生かしたままにしておくことは、悪趣味にほかならない。それも、相手が逃げることも、動くこともできないようにしてからなのだから。


「さて、こんなところかな」

 そう言って、タバコに火を付け、煙を深々と吸い込んだ彼は、スイッチを押し、

「テステス、聞こえてるかぁ?」

 異端審問局に設置されているスピーカーへと、自分の言葉が届いていることを確認。


「自己紹介しておく、俺は、ユヅル。元々は、この場所に席をおいていたものだ」

 淡々と、事実だけを告げる彼の声は機械的で、

「今から二十秒後、この場所は攻撃を受ける。他ならぬ、俺の手によって。逃げたい奴は逃げろ。別に追いかけて殺したりはしない」

 タバコの煙を吐き出して、

「ただ、付け加えて言うなら、攻撃が開始されてもこの場所に残っている奴らは、俺の仲間以外、全員、殺す」

 死刑宣告を口にする。


 それは、異端審問局に対する宣戦布告であり、それを実行する実力を彼は有している事実。

「生きたいなら、逃げることをおすすめしておく。死にたいなら、どうぞご自由に」

 その言葉を言い切り、スイッチをオフにした彼は、容赦なく、作り出した刀でコンピューターを破壊し、使用できない、修復できない状態にして、刀をようやく消す。


 彼がこの放送を使った理由は大きく二つ。

 一つ目は、先ほどの放送を使って宣戦布告をし、不必要な犠牲を出さないように、自分が本気であることを知らせること。そして、もう一つは、

「うんうん、優秀だよな、やっぱり」

 戦う意思を持つ人間を自分に対して集めること。


 放送を使ったという時点で、彼の現在位置は、放送を聞いていたものなら、誰でも特定することができる。故に、彼が室内から外に出た時には、彼の退路を、進路を塞ぐように、異端審問局の人間が、それぞれ武装して待ち構えていた。

 だが、そのものたちでさえ、室内の光景を瞳に写した時、後悔で顔を曇らせてしまう。しかし、目の前の人物、ユヅルは、そんなことお構いなく、一番近くにいた人物の頭を、手にした拳銃で打ち抜く。

 呆気にとられていた者たちを、正気に戻すには十分すぎる威力を発揮した銃声は、それでも止むことはない。


「お前らは、一人残らず、優秀だよ、俺と違って」

 独白と共に、弾倉が空になった銃を懐へと戻した彼は、冷たい表情で周囲の人間を見据える。

「俺は、お前らと違って、凡人だ」

 最年少で第七階梯エンタクへと至り、最高戦力である、異端殲滅執行官に席を置く人物。そんな人物が、そんな言葉を口にすれば、皮肉としか取られない。だが、彼は、まったくもって、違う考えを抱いていて、


「俺に、凡人の俺に、戦い方を教えてくれた人がいる。知識を与えてくれた人がいる。居場所を作ってくれた人がいる」

 彼は、無防備な状態で言葉を紡いでいる。それなのに、その場にいる人間は、彼の雰囲気に飲まれてしまい、行動を起こすことができていない。

「でも、そんな人たちも、もういない。お前たちによって、殺された」

 その言葉は、大きくもなければ、決して猛々しいものでもない。それでも、その場にいた全員は、心臓を鷲掴みにされたように、息を荒くし、動くこともできない。気を抜けば、膝をおり、二度と立ち上がることはできない、圧倒的な、完膚なきまでの敗北を受け入れることになってしまう。そう、直感で理解していた。


「忠告は、一度きりだ」

 その言葉と同時、先ほどまで彼を取り囲んでいたはずの者たちは、全員が全員、血まみれとなり、床へと体を預けている。原因は、周囲から突然出現した無数の刀。それが、釘で打ち付けるように彼らの体を、はりつけの状態にしている。しかも、その全てが、致命傷を避け、動きを奪い、手当ができなければ、ゆっくりと出血で死に至るように。


「俺は、これから、自分で居場所をつくらないといけない。その場所に、お前らは、いらない」

 殺すことも、侮蔑することも、怒りをぶつけることもせず、彼は血に濡れた道を歩いていく。しかし、その行為こそが、処刑よりも、尋問よりも、拷問よりも、おぞましく、醜く恐ろしい行為だということを、その場にいた人間のうち、何人が理解できたことだろう。


「俺は、お前たちの命は、背負わない。勝手に、己の愚行を呪って、死ね」

恐怖とは、感じるものではなく、受けるもの

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