第二十五話 突きつける刃1
本来の目的です
「まったく、情けないったらありゃしないよ」
「ケイオスはん、その言葉、何回目だか数えはったらどうどすか?」
牢に閉じ込められ、傷の手当すらされていないケイオスとフジノ。教皇の性格からしてみれば、すぐにでも処刑の日時は決定する事だろう。
「でも、レンだけは逃がせてよかったよ」
「ほんに、そのことだけは同感どす」
二人にとって、二人だけでなくセンザにとっても妹のように思っている彼女を、逃がせた事は非常に大きい。もしも、彼女を逃がす事もできずに捕まっていたと思うと、心残りとして残ってしまう。
「そろいも揃って、お前らはバカだな、本当に。残される側の気持ちってやつを理解しちゃいない。どうせ逃がすなら、一緒に逃げてこいよ」
そんな二人を嘲るような言葉が響き、
「嘘っ、だろ。どうして、君がここに」
「ほんまに、どうしてどすか?」
二人は自分の目が信じられず、そのまま言葉を口にする。
「どうして? それを、レンを自分たちの命賭けて逃がしたお前らが、俺に聞くのかよ」
そう、二人の前に現れたのは、二人のメイドを伴い、タバコの煙と共にシニカルな言葉を吐き出しているユヅル。
「ご主人様、まだご無理はされないほうが」
「マスター、病み上がりで無理をしてはいけません」
そんな彼は、二人のメイドに口々に言われ、片手の指で軽く頬をかく。
「へいへい。そんじゃ、手短に。ケイオス、フジノ。お前らをここから出してやるから、お前らはすぐにレンの元に行け。案内はソウイチがしてくれる」
二人の牢の鍵を開け、つまらなそうに彼は口にする。
「いや、ちょっと待って、現状が理解できないんだけど」
「理解する必要何ざない。後でまとめて話してやる」
異議を唱えるケイオスの言葉を、取り付く島もない感じで一蹴し、
「ヌイ、この怪我人二人を案内してやれ」
「かしこまりました、マスター」
「だから、事情ぐらいは説明してくれって」
尚も食い下がろうとするケイオスの意識を刈り取り、ユヅルは彼の体をメイドへと託す。
「フジノ、お前もなんか聞きたいのか?」
「今は、やめときますさかい。帰ってきたら、覚悟しときおす」
「無事に帰ったら、な」
それ以上会話をすることなく、フジノはヌイについて歩いていく。
「さて、アカネ。どうしてお前らが手を貸してくれるのか、俺は説明も受けてないし、理由も聞いちゃいない。だが、今はおいておくことにする」
そう、アカネもヌイも、星の皇につかえる十二の使途に名を連ねるもの。ソウイチのことすら、完全に信用していない彼が、彼女たち二人に対して心を許すはずなどない。ただ、彼の体をここまで回復させてくれたのも、彼女たち二人である。
「敵対するなら、終わった後にしてくれ。それまでは、力を借りる」
「勿体無きお言葉です、ご主人様。既に、私の心も体も、捧げる所存です。故に、不要となりましたら、処分していただいてかまいません」
―どこから、その忠誠心が来るんだよ―
ユヅルは、彼女たち二人に出会ったことはない。ソウイチに確認を取ったところ、初対面だと断言されている。それなのに、目の前のメイドは献身的に彼に尽くそうとしている。そこが、彼の不信感を煽っているのだが、現状、戦力は多ければ多いほどいい。それが、無傷であるのならなおさら。
「マスター、私も同じ考えです」
いつの間に戻ってきたのか、ユヅルがタバコを一本吸い終えるよりも先に、ヌイは戻ってきていた。
「そうかよ。でもまぁ、すぐに信じるのは無理だ」
「ごもっともです」
「賢明な判断かと」
彼の考えに同調するように、二人のメイドが口を開いたので、
「だから、先にここに着てるレベッカとクレハの二人のフォローに回ってくれ」
「ご主人様ではなく、ですか?」
「マスターではない方、ですか?」
そして、そろいも揃って、不満を口にする。
「今言った二人には、ここで死なれちゃ困るんだよ。それに、俺の信頼を得るって言うなら、他の人間の信頼も得るべきだろう?」
「「了解しました」」
その言葉と同時に二人は一瞬で姿を消す。
故に、その場所に残るのはユヅル一人。それを確認した彼は、
「スコール、ライプラース、でて来い」
己の魂と共にある、悪魔の名を口にする。
「なんかよう、我が主?」
「用があるから、呼んだに決まってるだろうが」
不満を口にして、やる気のないスコールに若干苛立ちながら、
「ライプラース、お前はアレ、探して来い」
「私をつかいっぱしりにするつもりか?」
「パシリじゃない。アレは、厳重に保管されているはずだ。その封印は、おそらく智謀をつかさどるお前にしか解除はできないだろう。適材適所ってやつだ」
「なるほど、ならば引き受けよう」
そう口にして、ライプラースは姿を消す。
「そんで、私は何をすればいいわけ?」
「何をすればいい? おまえ、本当にそんな事を俺に聞くわけ?」
「あたしを呼び出すなんて、初めてでしょ?」
「はぁ」
確かに、イレイザーやライプラースと違い、彼女をユヅルが呼び出したことは一度もない。だがそれは、先ほど彼自身言ったように適材適所。彼女の力を十二分に発揮できるような状況がなかったとも言える。
「お前がつかさどってるのは、いったいなんだ?」
「いまさらそんな事きく? あたしは戦乱、破壊や蹂躙することが、存在理由」
「なら、わかるだろ」
「ことばにしてくれないとわかんなぁい」
「そうかよ」
彼は、火のついたタバコを頬り投げ、冷たい声で言い放つ。
「この場所、異端審問局を破壊しつくせ。それが、お前を呼んだ理由だ。この場所は、こんな場所は、世界にはいらない」
やっぱり参戦してしまう主人公