幕間 ある日の出来事
ある人を見習って、ショートショート的な日常を三篇ほど
#1 お昼寝
春日野家の縁側。
ユヅルは一人、その場で寝息を立てていた。
「寝てるでござるな」
「寝てますね」
そんな彼の様子に少なからず驚きを隠せないセンザとレベッカ。だが、
「レンも、寝る」
後ろから現れたハイドレンジアが、顔を赤らめながら彼に近づいていき、腕枕の体勢で抱きつくように体を預け始める。
「なっ」
恐るべし、ちびっ子の本能。そんな事を考えているレベッカを尻目に、
「あ~、お昼寝ね。私も寝よっと」
再び、後ろから現れたクレハが二人を追い越し、ハイドレンジアの反対側で、彼の腕枕状態で縁側に寝そべる。
「なら、私も」
「そこで、何してるんですか、二人とも?」
勢いに乗り、一緒にお昼寝しようとしていた彼女に声をかけてきたのは、そう、ヒサノ。
「いえ、あの、その」
「拙者、実はようがあったのでござる。これにて」
「うわ、ずるいですよ」
言い合いを始める二人を、首をかしげながら見つめた彼女は、視線の先に眠っている三人の姿を見て、
「まったく、あの人たちは」
その言葉を聴いて、二人は惨状をイメージせずにはいられなかったが、当の本人の行動は、タオルケットを三人にかけてあげるという、優しい行動。
「母親、でござるな」
「ママですね」
#2 腕前
「チェック」
「う~ん、また僕の負けか」
チェス盤を挟んで、コーヒーを飲んでいるケイオスは困ったように、右手の指で頬をかく。
「あ、ダーリン、発見」
「まったく、こんなところで油を売っているとは」
そんな二人に声をかけてきたのは、イジーとクローデルの二人。二人とも、任務終了した後なのか、それともこれから任務に赴くのか、正装している。
「チェスかぁ、ダーリンとの戦績、五分五分なのよね」
「ほう、なら、勝ち越しているのは私だけか」
「へぇ、局長代理って、チェス強いんですね」
三人で歓談し始めると、タバコの煙を吐き出してユヅルが立ち上がり、その場を去ろうとしたのだが、その腕をクローデルによって掴まれてしまう。
「ふふっ、一勝負しようじゃないか」
「黙れ、有害図書」
彼女に対しては、何処までも毒を吐く彼は、完全に付き合うつもりはないらしい。
「なら、四人で勝負して、一番強い人の命令を聞くって言うのは、どうかな?」
「すばらしいですね、グリューナクさん」
そんな彼に対して、逃げられないよう、周囲を巻き込んで状況を作り上げてしまうあたり、ケイオスも中々えげつない。
「ね、ユヅル」
「後悔するなよ」
#3 結果
四位への罰
「私の、私のコレクションがぁ~~~~」
「やれ、ケイオス」
「すみません、局長代理。これも、負けたあなたが悪いんです」
四位のクローデルに対して出された命令、それは、コレクションの廃棄。それも、ケイオスの能力によって修復不可能なまでに完全に破壊してからの。
三位への罰
「うう、ダーリンの意地悪」
「負け犬の遠吠えだ、やれ、ケイオス」
「ごめんね、とりあえず、謝っとくよ」
三位のイジーに対する命令。それは、秘蔵のユヅルコレクションと称して開設された、ウェブサイトの閉鎖。それも、完全に復元できないようにパソコンをクラックすると言うおまけつき。
二位への罰
「とっとと行け」
「そうだぞ、グリューナク執行官」
「男らしくないですよ?」
「うう、どうして僕への罰だけ、こんなにみんなノリノリなんだよ」
二位のケイオスへとユヅルが下した命令。それは、ケイオス自身が、自分からセンザをデートに誘うという事。そして、そのことについては完全に彼女に知らせていない。
そして、
「うう、どうしてあの時僕はあんな事をいったんだろう」
「うう、どうして私はあの時、クイーンをあの場所に動かしてしまったの?」
「うう、どうして、こんな事に」
翌日になって落ち込んでいる三人に対して、唯一の勝者は、
「お前ら、随分と落ち込んでるが、何か、忘れてないか?」
タバコの煙を吐き出して、三人の反応を待つ。
「「「何かって、何?」」」
「罰ゲームは、一回の敗北につき、一回。なら、俺は、後何回、お前らに命令を下せるんだろうな?」
その言葉に、三人は凍りつく。
「賭けなんか、やるもんじゃないよな」
後、それぞれに対して五回以上、罰ゲームを行使できる権利を持っているユヅルは、タバコのフィルターと一緒に言葉を吐き捨てた。
短いほうが難しいとは、これ如何に