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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第六章 牙を剥く者達
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乙女の決意4

相棒、それは捕らえ方しだいでいろいろな意味に

「ははっ、いいねぇ。流石は、『魔弾の射手』。殺し合いってゆうのは、やっぱりこうでなきゃいけねぇよな」

 軽口を叩きながらも、ストレングスはレベッカの放つ全ての魔弾を回避。その動作は、非常に憎らしいほど余裕があり、ステップを踏むダンサーを連想させる。


「余裕ですね、本当に憎らしいほど」

 彼女の射撃の腕は、神がかっている。その腕前は、異端審問局に所属する全てのものが敬意を払うほど。それでも、目の前の男には命中しない。しかし、レベッカもバカではない。立ち位置を何度も変えながら、相手の能力、戦術パターンを解析していく。


「避けてばかりじゃ、勝負に、殺し合いになんてなりませんよ」

「そう言ってくれるなよ、こっちは興奮を抑えるのに必死なんだ。いや、実にいい。殺すのが惜しいくらいに。どうだ、お前、こっち側に来る気はないか?」

「お断りです」

 言葉と共に放った魔弾が、初めてストレングスへと命中。その爆発音、威力共に申し分ない。だが、こともあろうに、彼はその弾丸を掴み取っていた。それも左手だけで。


「まさかとは思っていましたけど」

「おぉ、俺の能力にようやく気づいたか?」

「さっきのは、間違いなく圧縮開放を利用した防御。あなたは」

「そう、ご明察。お前と同じ能力の使い手だよ」

 隠すことなく、むしろ誇るようにストレングスは胸を張り、


「さぁ、タネもわかったことだし。俺も、ようやく戦えるってわけだ」

 不遜な言葉を口にして、

『我が矢は天を貫き、月を穿つ。されど、心を射抜く事は敵わず』

 その力を見せ付けるように開放した。

 両手には二丁拳銃。獲物が出現した以外、外見的な変化は殆ど見られないが、


「おまえも、奥の手があるなら、早いうちに使わないと、死ぬぜ?」

 片方の銃口が火を噴いた瞬間、彼女の背後で爆発が起こる。その威力は、空中であったからいいものの、着弾したのが床、もしくは人体であったなら、跡形もなく消し飛ばすほどのもの。


戦天詞エンジェルアームズ、やはり、あなたたちも使えるんですね」

 彼女たちに力を貸しているシロウが神であるなら、星の皇もまた、同じ神。同格であるなら、配下の者たちが、同じ武装を所持していても不思議は、ない。

「どうした、俺は気が短いんだ。あんまりテンション下げるなら、そっちのやつから先に、片付けるぞ?」

「軽い男ですね」

 挑発に対する答えは、冷笑。その答えに不満げなストレングスだが、


「自分の言葉すら守る事ができないなんて」

「はっ、だったら、とっととこっちのやる気を引き上げてくれよ」

「言われなくても、そうしてあげます」

 彼女自身、どうして自分の口から激情ではなく、ここまで冷たい言葉が出てくるのか、不思議で仕方なかった。最近、否、ユヅルに会う前は、すぐ自分の感情に振り回されていたというのに。


『私の手は弓、私の体は弓弦、私の心こそが矢。そして、射抜くものは、体ではなく魂なり』

 その言葉は戦天詞を起動させる為に必要な祈りの言葉。

 だが、その言葉を聴いたストレングスは驚きを隠す事ができず、


「おいおい嘘だろ、マジかよ」

「事実を事実として受け入れる器がなければ、己の死期を早める。先輩の言葉です」

 彼女の左手には、腕と一体化するように、主を守る鎧のように、大きく展開された弓が。それは、紛れもなく、戦天詞を起動させた事の証。


「だって、お前は、魂吸収者ソウルアブソーバーじゃないだろ」

「ええ、違います」

「なら、どうやって」

「何事にも、例外や裏技は存在するんですよ」

 彼の狼狽も、仕方のないこと。


 戦天詞。

 この武装は、己の魂に呼びかけ、魂の力を使って展開される。威力も、形も、使用者の思い描いた形で。ただ、この武装、魂の力を使用して動く為、魂吸収者という能力を持たないものが使用しても、展開する事さえできない。それを、レベッカは可能としているのだから、驚く事も無理はない。


「なら、確かめてみればいいじゃないですか」

 その言葉と共に、彼女が弦を軽く弾いただけで、先ほど、ストレングスが起こした攻撃とほぼ同じレベルの攻撃が、彼の背後で爆発音を響かせる。


「おまえ、それ」

「ああ、やっぱり気づいちゃいます?」

偽神呪紋オルタースペル。正気かよ」

「あなたに正気を問われる覚えはないんですけどね」

 先に行動を起こしたのはレベッカ。そして、それに対応するように動くストレングス。目まぐるしく動く二人の動きは、華麗にして神速。その動作には一切の無駄が存在せず、見るものが見れば、ダンスをしている二人に見える事だろう。ただ、これは戦闘であり、殺し合い。


 二人が位置を変え続け、それでも動き続けるのは、互いが互いの腕を認め、弱点となりうる点も同じであるが故。二人の戦いは、位置取り、斜線上の遮蔽物、足場にかかわるものが、直接勝利へと繋がる道になる。拳銃では威力があるものの、飛距離が足りない。弓矢では、飛距離があるものの、威力が足りない。どちらも一長一短であり、射撃という戦闘を経験しつくしている二人からしてみれば、いかにして、相手の間合いをはずし、自分の間合いに入れるか。それこそが重要にして、勝利の鍵。


「なぁ、提案があるんだ。よく映画とかであるだろ、早撃ち(クイックドロウ)。そいつで勝負を決めないか?」

「いいでしょう」

 互いに、肩で息をしながらも、有利な状況を作り上げる事ができない二人は合意。

 しかし、互いの獲物が銃と弓である事を考えれば、不利と言う名の天秤は確実にレベッカのほうに傾く。


「では、不肖ながら、僕がコインを投げましょう」

 ソウイチの提案を受け、二人は背中合わせに立ち、己の神経を獲物のみに集中させる。そして、二人は互いに三歩ほど歩き、コインが地面に落下した小さな音を聞き、その命を一瞬に賭ける。


 決着は一瞬。


 片方はその場で崩れ落ち、もう片方は敗者へと歩み寄り、見下ろしている。

「ハッ、中々面白かったぜ、お前」

 そして、ストレングスは倒れたまま動かないレベッカから、銃口をソウイチへと向け、

「残念だったな、お前のもくろみは失敗だ」

 引き金を引こうとした瞬間、その場で膝を突く。次に襲ってくるのは、強烈過ぎる虚脱感と痛みの本流。どうにか振り返ってみれば、そこには、無傷で立ち上がっているレベッカの姿が。


「嘘、だろ」

「現実です。そうですね、強いて言うなら、あなたは命のやり取りがお粗末過ぎるんですよ」

 そう、ストレングスの攻撃を相殺し、相手の油断を誘う為、わざとレベッカは血糊まで使って敗北を演出していた。そして、彼は、勝利という慢心によって、生死を確認するという行為を怠った。一歩間違えば、勝利者はどちらにもなりうる状況だったのだ。


「先輩なら、確実に、相手が倒れただけで警戒を緩めず、倒れたままの相手に容赦なく止めを刺していた状況です。それも、自分が想定できる、反撃できる状態にならなくなるまで」

 レベッカは冷たい声で、弓弦を引き絞り、


「お前の先輩って、悪魔かよ」

「あの人を体現するなら、そんな言葉じゃ生易しいですよ。でも、私は、あの人の、先輩の相棒になる事を選んだんです。先輩が堕ちていくというなら、一緒に堕ちていきますよ」

 笑顔でストレングスの頭を吹き飛ばした。



レベッカ、ヤンデレ路線へ?

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