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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第六章 牙を剥く者達
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乙女の決意3

内部での争いはいつだってあることです

「いい加減、待ち侘びたよ」

「こちらとしては、お引取り願いたかったんですけどね」

 屋上のドアを壊して、飛び込んできたレベッカを待っていたのは、黒縁メガネをかけた車椅子の男性。彼は、読んでいた本にしおりを挟んでたたむと、消え入りそうな笑みを浮かべる。


「自己紹介、しておこうか。僕は、如月ソウイチ。君たちが星の皇と呼ぶ、彼に仕えている十二の使途の一人だ」

「レベッカ・サウザード。異端審問局所属の執行官、席次は、十二です」

 緊張感を高めつつ、意識だけは相手からはずすことなくレベッカは、自己紹介に応じる。そして、奇妙な感覚を覚えながら、慣れ親しんだ獲物、デザートイーグルの二丁拳銃をソウイチに対して向ける。


「無粋な真似はよしてくれないかな、僕は、戦いに来たわけじゃないんだ」

 そんな彼女に対して、目の前の人物は車椅子を両手で動かし近づいてくる。ユヅルであれば、問答無用で相手の命を奪っていると想定される状況。だが、レベッカは引き金に指をかけたまま、引く事を由としない。


「それは、どういう意味ですか?」

「言葉通りの意味だよ。僕に敵対の意思はないし、僕自身、戦闘能力はゼロに限りなく近い」

「なら、この領域は?」

「一緒に来た女性への義理立て。後は、少しでも戦う意思を見せておかないと、君達に接触する前に、僕が始末されてしまいそうだからね」

 引き金を引きさえすれば、すぐにでも命を奪う事ができる。圧倒的なまでの有利な状況。そんな状況下で、彼女は、ソウイチを殺す事ができない。そう、理由は単純すぎるもの。彼からは、殺意も敵意も欠片すら感じ取れないから。


「この領域に関して言うなら、そこまで心配する必要はないよ。設定時間は二十分で、二日ほど、軽い倦怠感を覚える程度の弱いものだから」

 その言葉を真実と取れるほどの確証はどこにもない。それでも、まだ彼女は引き金を引く事ができずにいる。


「まだ、信用が得られないというなら、その銃で僕を撃てばいい。先ほど言ったとおり、僕の戦闘能力はほぼ皆無。指先一つで、僕の命は奪える」

 両手を広げ、自らを的とすることをよしとするソウイチ。その姿を見て、レベッカはついに銃口を彼から逸らす。


「なんで、そういうことを口にするんですか?」

「そういうこととは?」

「自分を殺してもいいなんてことを」

 銃口ではなく、言葉で、彼の心を射抜くレベッカ。そんな彼女に答えるように、


「僕はね、疑問を持ちながら、戦列に加わったんだ」

「疑問、ですか」

「そう、星の皇は、人類を滅ぼすつもりでいる。なら、忠義を貫いたとしても、結局死ぬのではないかってことさ」


 そう、それは確かな事実。

 彼女の聞いた話を総合するなら、星の皇は人類を滅ぼす。そのことを目的としているはず。ならば、配下となったものたちも、例外ではない。


「僕はね、死ぬのなら、自分の意思で死にたい。滅ぼされるなんて、嫌だ。自分の意思で、選ぶ事のできないものなんて、この足だけで十分だ」

「そうですか」

 彼女は、短く口にして、獲物をしまいこみ、


「判断は、先輩に任せます。ただ、あの人の前で、決して、死にたいなんてことは、口にしないでください」

「どうして?」

「あの人は、死にたくないって人の、生きたいって願う人の、多くの命を奪ってきました。その言葉は、先輩の、生き方を侮辱する意味以外、ありえません」

「わかったよ」

 そう口にしたとほぼ同時、彼が展開していた領域が解除され、


「なんだぁ、やっぱ、裏切んのか、お前」

 その場にそぐわない野暮ったい、けだるげな声が響く。

「ストレングス」

 その声を聞いたソウイチは、つぶやくように、闖入者の名を口に知る。


 適当としか言いようのない茶色の髪に、耳にはいくつものピアス。服装も、いかにも遊んでますと断言するように軽薄。しかし、サングラス越しでもわかるぐらい、明らかな殺気を放ち、

「最初っから、お前は信用してないんだよ、俺」

「人を無視して、会話しないでもらえますか?」

 その殺気に反応したレベッカの抜き打ちで、サングラスが砕け散る。そこで初めて、彼の瞳を目の当たりにする彼女は、その瞬間言葉を失う。そう、そこには、魔天数字ナンバーオブビーストの刻まれた金色の瞳が二つ。


「自己紹介しておいてやるよ、同じ結末を辿るにしても、自分を殺した相手の名前ぐらい、知っておきたいだろ。俺の名は、ストレングス。星の皇に使える十二の使途の一人にして、位階は第六位ゼクス。さぁ、はじめようぜ、お望みの殺し合いを」

「名乗られたなら、名乗り返すのが礼儀、なんでしょうね」

 レベッカは知らず知らずの内に、自分の口の端が上がっていく感覚を覚え、そして、はっきりと自覚する。


―そうか、私、嬉しいんだ―

 ソウイチとは、敵対する意思がなく、戦うという行為には発展しなかった。だが、目の前の男、ストレングスは違う。殺し合いを望んでいる。明確に敵だと、名乗りを上げている。それが、彼女にとっては嬉しかった。ユヅルの、彼の相棒として、敵と戦える事が。


「私は、レベッカ。あなたたち、十二の使途に、いえ、星の皇に喧嘩を吹っかけた、ユヅル・ハイドマンの相棒です」

「なら、いくぞ。心配するな、そいつはお前を殺してから、処理する」

「お気遣い痛み入ります。でも、それは、無理な計画です。前提が間違っていますから」

 言葉とほぼ同時、二人の鼓動は加速する。




相棒としての初めての戦い

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