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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第一章 日本到着
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第五話 部活動に参加しよう1

ラブコメに突入。


筆者はベタな展開が大好きです。

「そんで結局、こうなると」

 ユヅルはため息をつきながら、机に突っ伏す。

 現在は放課後、大半の生徒は部活動へ行き、他の生徒も当番の委員会へと移動。故に、教室には、生徒の数が殆どいないことが普通なのだが、一年三組の教室だけは違っていた。なぜか、大半の生徒が教室に残ったまま。

 彼の目の前には、もはや当然といえるカナミ、そして昨日会ってしまったカズキ、加えてヒサノの三名がなぜか立っている。どうしてこんな事態になってしまったのか、彼には皆目見当がつかないのだが、クラスメートたちは、紛れもなく、この状況を楽しんでいる。

「それで、どうするんですか、ユヅルさん」

 決して逃がさない。捕食者の瞳をしたカナミに声をかけられ、ユヅルは面倒くさそうに上半身を起こし、机の中からプリントの束を取り出す。

「ちなみに私は、昨日も教えたとおり、料理部です」

「僕は、図書委員兼創作部に所属している」

「私は、手芸部です」

 カナミ、カズキ、ヒサノの順に聞いてもいないのに、答えてくれたので、とりあえず、ユヅルはプリントの束をめくる振りだけはしておく。

「そこに書いてあるとおり、本人のやる気さえあれば、複数の部活に入ったり、雨竜さんのように、委員会と兼任することもできます」

―まず、それはない―

 その言葉を、三人に聞かれないように、心の中だけで毒づくユヅル。

 プリントには、委員会、運動部、文化部の順に記載されているが、人に決められたルールを守ること、上下関係の厳しさ、この二つが嫌いな彼は、必然的に入ろうとすれば、文化部になってしまう。しかし、目の前にカナミという前例がある以上、文化部で大丈夫なのかという、非常に不安な材料がある。そんなわけで、彼はすんなりと答えを出せずにいる。

「やっぱり見てから決めるしかないか」

「それが一番いいかもしれませんね」

 なぜか、この場で進行役を担当しているカナミは、その言葉を待っていましたといわんばかりに嬉しそうな声を上げる。

「それでは早速、料理部に」

「神宮持さん、それはどういう理由だろうか?」

 急ぎユヅルの手を取り、教室を出ようとするカナミだが、その手を横からはたかれ、張本人であるカズキに怒りの視線を向ける。

「何をするんですか、雨竜さん?」

「僕こそ理由を聞いているのだけれど、それとも神宮寺は耳の不自由な人なのかな?」

「理由ならいっぱいあります。ユヅルさんのことを、保護者の方から頼まれていますし、一緒に住んでいるんですから、一緒に帰れたほうが何かと都合がいいです」

「あまり束縛すると嫌われてしまうよ。それに、連絡さえ取れれば、一緒に帰る必要なんてないと思うよ、子どもじゃあるまいし」

 なぜか、言い争いを始めてしまった二人を見たクラスメートたちは、歓声を上げている。正直、ユヅルとしては、視線だけで殺し合いを開始している二人を止めてほしいのだが、自分に火の粉がかかると面倒なので、それをしない。

「えっと、ヒサノだっけ?」

「はい、なんでしょう、えっと」

「ああ、別に好きに呼んでくれていい」

 人とあまりかかわる生活をしてこなかった彼は、人の名前を覚えることが少し苦手で、間違えないように、とりあえず確認を取ってみる。

「それでしたら、ゆー君で」

「手芸部って、何やる部活?」

「手芸部はですね。刺繍をしたり、服を作ったり、ぬいぐるみを作ったり、まぁ、自分の作りたいものを作る部活ですね」

「ふ~ん」

 二人ではなく、自分に話を振ってくれたのがよほど嬉しかったのか、ヒサノのテンションは結構高くなっている。そんな彼女と、言い争いをしている二人を見比べ、音を立てずに立ち上がったユヅル。そのままヒサノの手を引いて、教室を後にした。

「あの、どこに行くんですか?」

「どこって、手芸部だよ。順番ぐらいでもめてるからな、あの二人。そんなのに付き合ってたら、時間の無駄だ」

「じゃあ、案内します」

 手をつないだままなのを、あえて指摘しないのは、鈍感な割りに空気を読んだユヅルだから。ヒサノは、嬉しそうに、ユヅルの手を引っ張りながら、部活塔へと移動を開始した。


 天禅寺高校は、部活動が盛んであり、私立ということもあり、運動部、文化部のそれぞれに部活塔が設けられている。二人が向かうのは文化部の部室塔。一年生の教室が五階にあるので、若干距離ある。

 そんな中、ユヅルとヒサノ、二人の進路を塞ぐように一人の男子生徒が現れた。

「お前、ヒサノさんと手をつないでいるなんて、うらまやまし、っじゃなくって、どういう関係だっ」

 大声を上げる男子生徒。よく見てみれば、彼の額のハチマキには、ヒサノLOVEと太い黒とピンクのマジックでかかれており、はっぴに似たのまで着ている。

「お前の知り合いか?」

「いえ、まったく知りません」

 とりあえず、相手は彼女を知っているようなので、ユヅルはヒサノに聞いてみるが、どうやら彼女も知らないらしい。

「って、言ってるけど、あんた誰?」

「俺は、春日野ヒサノさん、非公式ファンクラブ『ほんとに、ほんとに、ヒサノさん』。通称HHH、会員ナンバー五十三」

「ファンクラブ? 何、それも部活動の一つだったりするのか?」

「いえ、本人で非公式って言ってますし、そういった活動に顧問の先生がつくとも思えません」

 相手に自己紹介を求めておきながら、相手の言葉を聴かないユヅル。とことんマイペースにして、わが道を行く人間である。

「って、聞けよ」

「ああ、悪い。そんで、用件は?」

「お前を粛清する」

 いきなり背中から木刀を取り出して構える男子生徒。ユヅルから見れば、構えは隙だらけで、力も入りすぎ。おまけに、相手に攻撃を宣言してから、襲い掛かるなど、反撃してくださいとお願いしているようなもの。つまり、返り討ちにするのは非常に簡単なのである。だが、ここで一つ問題がある。それは、何かしら暴力沙汰を起こしてしまえば、保護者を呼ばれてしまう。それだけは、彼としては避けたかった。常識人として執行官内で知られているエカテリーナ、形式上の保護者であるクローデル、局長にして、身元引受人になっているアレグリオ。この三名が来るなら、まだ、言い訳の使用がある。しかし、この三人は、多忙を極めており、来る確率は非常に低い。そうなると、他の執行官がくる。それは、できるだけ、彼としては避けたい。

「しかたねぇな。舌、噛むなよ」

「えっ?」

 ヒサノが気づいたときには既に遅い。彼は、手を離して行動を開始している。男子生徒は、ユヅルに対して襲い掛かってくるが、彼はそれに背を向け、両手でヒサノを抱き上げる。俗に言うお姫様だっこ。それだけなら、まだ、ヒサノの精神も耐えることができただろう。だが、ユヅルはあろうことか、開いている窓から、外に向かって跳躍した。

決してよい子はまねしちゃいけません。


続きます。

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