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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第六章 牙を剥く者達
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第二十三話 乙女の決意1

主人公は、まだ逃げてます

「この感じ、奴らか」

 息を殺し、身を潜めていたユヅルは異変に気づき、毒づくものの、現状、彼が姿を現せば被害は拡大する方向にしか動かない。


「非常事態ってやつか、しょうがない」

 ただ、最悪の事態を回避する為に、動き出した彼が見たものは、倒れている男子生徒たちの姿。慌てて一人に駆け寄り確認してみるが、とりあえず息はしている。だが、生命力が削られていっていることは確かで。


―一人ずつ、来るって話だったはずだが―

 先ほど感じ取った気配の主は、校門付近から動いていない。だが、彼の感じ取った気配は、もう一つあり、そちらは屋上に存在している。


―校門のやつが仕掛けるにしては、早すぎる―

 たとえ、領域系の能力を有するものであろうと、その能力が効果を発揮する為には、最低限の時間と、緻密な演算能力が必要不可欠。校門側の人間が行ったにしては、手際がよすぎるし、なにより、戦闘中にそこまで演算に力を割ける人間に、彼は今まで出合ったことはない。


「ふぅ、なら、分担は決まったようなものだな」

 そう口にして、タバコを取り出しマッチで火をつけようとした瞬間、彼は背中に衝撃を感じ、

「お前、こんなところで何やってんだよ?」

「先輩、非常事態です」

「そんなの、おまえに言われるまでもなくわかってる」

 慌ててかけてきたであろうレベッカへ視線を向ける。


「そこで、お願いがあります」

「あん?」

 いきなりの彼女の言葉に、不機嫌さを隠すことなくユヅルは聞き返し、


「敵は、おそらく屋上にいるんですよね?」

「ああ、俺が感知できた範囲なら。間違いないはずだ」

「その敵、私に任せてくれませんか?」

 彼女の言葉を聴いて、彼は眉根を寄せる。


「何、くだらない冗談、口にしてやがる」

「冗談なんて、口にしてません」

 領域系の能力者は、大概、領域の維持に自身の力を注ぐ為、能力者の戦闘能力が高い必要はない。それ故に、自身を守るために、予備戦力、盾を用意している可能性が非常に高い。その為、戦力を集中して叩くことが、戦場では定石とされている。その事をレベッカも、重々承知しているはず。そう考えていた彼にして見れば、彼女の提案は愚考以外に取れない。


「相手がオーソドックスなタイプだったら、単独での戦闘は極力避けるべきだ。お前は、そんな事も学んでこなかったのか?」

「それは、知っています」

「なら、なんで一人でやろうとする。この能力が領域系だと、仮に断定した場合、領域内にいる俺たちにも、いつ影響がでてもおかしくないんだぞ?」

「それも承知の上です」

「じゃあ、なんでだ」

 いよいよ彼女の考えが理解できなくなって、彼は声を荒げてしまう。


「それでも、私一人でやらせてほしいんです」

「理由を聞かせろ。納得するかは、別として」

「先輩が、私の事を、相棒として認めてくれたからです」

 レベッカの瞳には、硬い決意が根付いている。だが、それでも、ユヅルは聞かずにはいられない。


「安っぽいプライドの為か?」

「違います。私のプライドは、先輩と戦ったときに折れています」

「なら――――」

「相棒と呼ばれるなら、私は守られる立場ではなく、対等な場所に立っていなくては、意味がないんです」

 自らの言葉に苦しめられるとは、まさにこの事だろう。彼は苦虫を潰したような表情を浮かべ、


「それは、ただの言葉だろ?」

「ただの言葉じゃありません。私にとっては、大切な言葉です」

 決して譲らないといった意思を明確に、彼女は言葉を続ける。


「先輩は背中を預けるといってくれました。先輩は、自分の力に及ばない人間に、そんな、自分の命を左右する言葉を口にしたんですか?」

 そして、今度は、彼が口を閉じるしかなかった。


「大丈夫です。私は、死にませんし、負ける気もありません」

「はぁ、俺は随分と馬鹿なやつを相棒に選んじまったみたいだな」

「吐いた唾は、飲み込めませんよ?」

 茶化すように口にして、彼女はユヅルに対して背中を向ける。既に、己の言葉を出しつくした彼は、これ以上口にする言葉がない。


「それじゃ、行ってきます」

「ああ、とっとと終わらせて帰って来い。具体的に言えば、俺がこの箱を空にするまでに」

 そう口にして、タバコにマッチで火をつけるユヅル。

「大丈夫です。すぐに終わらせて戻ってきます。だって、女の子には、凄い力が宿ってるんですから」


 そう口にして、レベッカは振り返り、

「恋する乙女は、素敵で無敵なんですから」

 これから死地に向かうはずなのに、遠足にでも出かける子どものような笑みを浮かべていた。



次回からしばらく主人公は登場しません

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