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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第六章 牙を剥く者達
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イベントです2

色男はつらいね

―なんで、俺がこんな目に合わされなきゃならないんだ―

 そんなことを考えながら、ユヅルは手を出すことなく、ただ逃げ続ける。


 バレンタインチョコレート争奪戦。

 ルールは至ってシンプルな鬼ごっこ。ただし、逃げるほうは、女子生徒から投票された、人気のある男子生徒十名で、それ以外が全員鬼。逃げる男子生徒を捕まえることができれば、その男子生徒がつけているバッチの番号の書かれたチョコレートを手にすることができる。


 そんなわけで、その十名に不幸にも、選ばれてしまったユヅルはただいま全力で逃走中。制限時間は、部活動が行われる放課後の約三時間。正直に言ってしまえば、物凄い過酷。なにせ、この天禅寺高校、生徒数が八百人を超えている。共学なので、男子生徒の数は、単純に考えて半分の四百前後。その全員に追われているのだから。


「本当に、勘弁してくれ」

 彼のバッチに書かれている番号は、弐。つまり、女子の投票数が二番目に多かったことを指すのだが、

「大切でもないやつから送られた、物だけに何の意味があるって言うんだよ」

 愚痴ってしまう。


 まぁ、彼女もちである彼からしてみればそうなのだが、それは勝ち組の意見。彼女のいないもの、表現が正しくないかもしれないが、大多数の負け組みからしてみれば、ミス天禅寺ランキングのトップテンの作ったチョコレートは、まさに財宝。それを手に入れられるとなれば、必死にもなるというもの。


―捨てちゃダメかな?―

 バッチをどこかに捨ててしまえば、自分の安全が確保できるのではないか。そんな考えが彼の頭をよぎるが、


―でも、作ったやつの気持ちを考えるとな―

 それが果たして、どういった思いを込めて作られたものなのか、彼は知らない。ただ、どんな思いが込められていたとしても、それが、心のこもったものであるのなら、彼が先ほど考えた行為は最低に当たる。そう考えると、捨てるに捨てられない。


「いたぞ、こっちだ」

 そんな考え事をしていたら、見つかってしまったらしく、次々と男子生徒が集まってくる。


「うわぁ、全員殴り飛ばしてぇ」

 心の声を、口に出しながらも、それでもその行為を封印して彼はその場から逃げ出す。鬼側は、武力行為を黙認されているこの鬼ごっこ。逃げる側には、禁止されている。これは、以前、選ばれた男子生徒が、襲ってきた男子生徒を全員病院送りにしてしまったから。


―なんだろう、気持ちが少しわかってきたよ―

 ここにはいない人間に共感しながら、彼は逃げ続ける。


◆◆◆◆◆◆◆◆


「面白そうなことになってるのね、ふふっ」

 ユヅルが逃げ続けているのとほぼ同時刻、校門を潜って一人の女性が学校へと足を踏み入れていた。艶やかな黒髪に、赤を基調とした着物。その佇まいからして、人形をイメージさせる。どこか、人間とは違った印象を抱かせる女性。


「ここから先は、通行止め。お引取り願えますか?」

 そんな女性に対し、声をかけたのは、生徒会の仕事として構内を巡回中のクレハ。ただ、彼女の雰囲気は、学校生活の穏やかなものではなく、戦場に立つ戦士のように刺々しい。


「ただ、人に会いに着ただけというのに、それでもダメなのかしら?」

「生憎、そんな人間に私には見えませんけど?」

 お互い、視線を交差させた後、女性は鉄でできた扇を、クレハは剣を手に鍔迫り合い、数秒にらみ合った後、距離を同時にとる。


「失礼しましたわ、手っきりザコかと」

「過小評価していただいていたなら、光栄ですよ。これから、評価を改めてもらえる」

 互いの力量を認め合う形となり、


「それでは、僭越ながら自己紹介を。私の名前は、観音寺サクラコ。あなたに言っても意味はないでしょうけれど、星の皇に仕える十二の使途の一人です」

 その言葉を聴いて、

「なら、やはりあなたをここから通すわけにいきません」


 クレハは剣を構えて高らかに、

「私は壬生クレハ。あなたがどうしてここに着たかは、私は知らない。でも、ここはあいつにとって、いいえ、私にとっても大切な場所だから」

 真っ向からサクラコへと切っ先を向けて宣言する。


「さっき、あなたは十二の使途の一人と口にした。それは、あいつの敵。なら、これから、あいつと共に歩む私にとっても敵でしょ」

 そんな彼女の言葉を受けて、


「他人の恋路を邪魔すると地獄に落ちますよ?」

「自分の心に従って、その結果がそれなら、上等でしょ」

 乙女たちの戦いの幕が上がる。



恋のバトルが勃発?

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