縁談バーサス2
まぁ、建前だよね
「さて、何からはじめたらいいものか」
タバコの煙を吐き出し、赤点を取った四人の答案用紙を机に広げ、ユヅルは灰皿を軽くタバコで叩く。
「みんなでお勉強会って、懐かしいわぁ」
そんなところに、飲み物と茶菓子を持って現れるアケノ。ちなみに、この家を訪れたとき、ユヅルとヒサノを除く全員が驚いたことは言うまでもない。
「いいよなぁ、ユヅルは。春日野さんだけじゃなくって、こんな綺麗なお母さんまで。親公認ってどんだけリア充だよ」
「あらあら、お世辞でもおばさん、うれしいわ」
リュウイチの素直な感想を、お世辞と取ったアケノは口元に笑みを浮かべながら、自分の用事は終わりましたと、室内から出て行こうとする。だが、
「ユヅルが女装してこの家にいたら、三人姉妹って勘違いされそうだよね」
「ああ、あるある」
シンゴとリュウイチの軽口を聞き流すことはしなかった。
「ユヅル君が、女装? それは、趣味ってことでいいのかしら? 詳しく聞かせて欲しいのだけれど」
アケノはそう口にして、ユヅルへと迫ろうとするが、その頭を後ろからお盆で軽く叩かれて、振り向くと、
「お母さん、何やってるのかしら?」
般若すら素足で逃げ出しそうなオーラを纏ったヒサノが、立っていた。
「だって、ユヅル君が女装趣味だったら、お母さん、二人の娘を着飾って楽しめるじゃない?」
「ゆ~君の趣味が女装?」
そこで、ヒサノはユヅルのタバコを灰皿に押し付けて消し、彼の隣に腰を下ろすと、
「そうなんですか、ゆ~君?」
彼の瞳をまっすぐに見つめて問いかけてくる。
「黒歴史を掘り返すな。あんな罰ゲーム二度とやるか」
「でも、あの時、以前に一度やったことがあるって」
ユヅルが嫌そうに過去を振り返ると、ヒサノは文化祭のステージ裏のことを思い出し、さらに問い詰めてくる。
「よく覚えてるな。あれは、センザに仕事でフォロー頼まれたときに、やらされたんだよ」
「センザさんですか?」
「ああ、ヒサノはあったことあるだろ。あいつ、目、見えないだろ? そんで、あいつの化粧をなぜかやらされる羽目になって、そのときに化粧のやり方も覚えたんだよ」
彼の言葉に、納得が言ったようにヒサノは矛を収めるが、
「あら、二人ともセンザちゃんと知り合いだったの?」
思わぬところから矛先が伸びてきて、
「レベッカも含めれば、俺とヒサノの三人が知ってるが、何? アケノさんの知り合いだったりするのか?」
「知り合いも何も、年の離れた妹ですもの」
驚愕の事実を目の当たりにする。
「マジで?」
「マジもマジ。おおマジよ。そうね、ユヅル君とレベッカちゃんになら言ってもいいかしら」
そう口にした彼女は、この場にいる二人以外がわからないように、
「私も、元異端審問局の執行官だったのよ。そのときの席次は七。称号は確か『剣舞師』だったかしら。アレグリオ君、元気かしらね?」
英語で、二人が青ざめる事実を口にするのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「なんで、来るたびに俺は泊まることになるんだ?」
「嫌だったんですか?」
「いや、嫌じゃないんだけど」
曖昧な言葉を口にしながら、ユヅルは視線を隣のヒサノから夜空へと移す。
勉強会という名目の座談会を終え、春日野家ご自慢の露天風呂に浸かっているユヅル。そして、背中を流すと言って入ってきたヒサノの二人は、まさに、裸のお付き合いをしていた。
「それにしても、日本だけじゃなく、男女混浴って、いまどきないだろ」
「嫌なんですか?」
「そういうことを言ってるわけじゃなくって。ああ、もう、話が通じねぇ。恥じらいを持てって言ってるんだよ」
彼の顔が赤いのは、湯船に浸かってからだけではなく、テレも多分に含まれている。そんなユヅルに、お構いなしに体を密着させてくるヒサノ。
「私の全部を、あの時、見たはずなのに。どうしてゆ~君は、そんなにテレてるんですか? あのときのゆ~君は、狼さんだったのに」
「おまえ、からかってるだろ?」
「わかります?」
そんな風に二人が話していると、脱衣所へと繋がる扉が開き、一人の人物を招き入れる。それは、当然のように衣服を一切見に纏っていない、アケノ。
「あらあら、お盛んねぇ」
笑顔で、二人を咎めることなく湯船に浸かる彼女だったが、そこで何を思ったのか、いや、思い出したのか、
「そうそう、ヒサノ、あなたに縁談のお話が来てるの」
とんでもないことを口にする。
「えっ、それってどういうこと?」
問い詰めるヒサノだったが、
「よかったわねぇ、ユヅル君に、自分の為に戦ってもらえて」
「いや、言ってる意味がまったくわからんのですが?」
困惑する二人をよそに、
「だからね、愛とは常に勝ち取るものなのよ」
その、豊満な胸を二人の前で張り、笑顔でアケノは告げた。
偉い人が言ってた、サ~ビス、サ~ビス