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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第一章 日本到着
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お仕事事情3

この話が終わって、ようやく次へ

 所変わって教皇庁。

 その敷地内でも特に目立つのが、全体を黒に染め上げられた建物。異端審問局本部であり、別名、『黒金の檻』。

 その局長室で、二メートルを超えた筋骨隆々の巨躯を無理やり机に詰め込んだ初老の男性は、手元の資料を見ながら、とても嬉しそうに目を細めていた。

「どうかなさったんですか、局長?」

「いや、やっぱりわかっちまうかい?」

 秘書の持ってきたコーヒーを左手で受け取り、ソーサーは机に置いたまま、カップを傾ける。

 隻腕隻眼、それでいて温和で、豪快な笑顔。彼をこの場所で知らない人間など存在しない。

 アレグリオ・ハイドマン枢機卿。

 教皇に次ぐ地位を持ち、一癖も二癖もある執行官たちが唯一、逆らわない存在。

「日本に行った、馬鹿息子。あいつのことなんだけどな」

「ユヅル執行官ですね」

 アレグリオは、異端審問局に所属するすべての人間を家族だと思い、自分より年下の人物を息子、娘と呼んでしまう癖がある。

 対して秘書の女性は、ユヅルのことを思い浮かべ、気分が沈んでしまう。

 最年少で執行官の資格を得た少年、人として壊れた存在、綱渡りをする馬鹿、様々な風評が飛び交っている中、彼には外せない。むしろ、その一言ですべてを表現してしまえる言葉がある。

 単独破壊者。

 単独で以外、仕事をすることがなく、仕事をすれば必ず死者や、不必要なはずの破壊が生まれてしまう、はた迷惑な執行官。彼のおかげで、何回、彼女が政府に手回ししたのか、既に数えることを彼女は諦めている。

「そうそう、あの馬鹿息子、昨日、日本で初仕事をしたらしい。しかも、自発的に」

「自発的に、ですか」

 若干、信じられないといった感じで、秘書はアレグリオの言葉を反芻する。彼女の知っている中でのユヅルは、完全に受身。与えられた仕事はこなすものの、自分から決して動こうとはしない、面倒くさがりのはず。

「いやぁ、クローデルのやつが、いきなり、ユヅルを日本の学校に通わせる。って、言って来たときにはどうなることかと思ったが、意外といいほうに転んでるみたいだ」

「それで、被害は?」

「ああ、被害。人的、物的あわせると、ふむ。この報告書を見たほうが早い」

 コーヒーカップを置き、代わりに机の上の報告書を掴んで、アレグリオは秘書に渡す。数秒、目だけを動かし、報告書を読んでいた秘書だが、途中で頭が痛くなってきたのか、軽く右手で頭を支えてしまう。

「日本でも、やっていることに変わりはないみたいですね」

 その報告書には、敷地面積は詳しく記載されていないものの、死者数、百二十名。そう記載されている。

「日本政府、主に警察機構は、話の通じる方たちでしょうか」

 ため息をついて、秘書はこれから起こるであろう被害を予想し、大きく肩を落とす。

「こうなるとあれだな、あいつがどんな風に変わってきているのか、見てみたいもんだ」

「だめですよ、局長。日本に行かれている間の仕事はどうするんですか?」

 アレグリオの行動を先読みし、秘書は釘を刺す。案の定、彼は、その巨躯が少しだけ小さく見えるぐらいに落ち込んでいる。

「なら、クローデルでも」

「それもダメです。以前、ユヅル執行官と共に局長代理を向かわせたとき、経費が馬鹿みたいにかかっています。それとも、局長のポケットマネーから、出していただけますか?」

「だめだな」

 ユヅルを日本に置いて帰ってきたクローデルが、経理に見せた経費請求書。それを見たとき、彼女は羞恥で顔が赤くなったのと、その金額で顔が青くなったことを覚えている。しかも、まだそれは記憶に新しいのだ。

「なら、やはり君に行ってもらうしかなくなってもらうぞ、エカテリーナ執行官」

 秘書であり執行官、エカテリーナ・フォルダンは、大きくため息をつくものの、

「了解しました。今回、私が抱えている案件に、めどが立ち次第、日本まで様子を見てきます」

 彼の決定に逆らうことはしない。

「それでは、失礼いたします」

 彼女は、報告書を机の上に戻し、敬礼をした後、室内を出て行く。

「それにしても、あの馬鹿息子が学校生活とは、俺も年を食ったもんだ」

 彼が肩口から右腕を、同時に右目を失った事件は、異端審問局で知らないものはいない。同時に、その原因、奪った相手がユヅルであることも。

「日本、行きたかったなぁ」

 冷めたコーヒーで喉を潤し、アレグリオは一人愚痴るのだった。

第三の執行官登場!!!

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