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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第五章 新しいはじまり
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憎しみの連鎖3

チート主人公リターン

 だが、その刃がアデプトの首を切り離すよりも先に、金属同士がぶつかり合う音が響く。

「まったく、先行し過ぎだ」

「ほんとだよねぇ~、おまけに殺されかけてるし」

 ユヅルの刀を、手にした剣で受け止めた男女は、彼を見下ろしながら、口々に侮蔑の言葉を口にしている。


「ふぅ、まったく、次から次へと、ここの警備もなってないな」

 刀を納め、タバコの煙を吐き出したユヅルは毒づき、

「そんで、用件が、そこの三下を連れ戻しに来たなら、とっとと連れ帰ってくれ」

 いつものように、誰に意見を求めるのではなく、自分の思ったことをそのまま言葉にしてしまう。


「逃がさない。っとは、言わないのだな」

「別に。戦力的な計算をしたら、あんたらと構えるよりも、逃がしたほうが、楽できそうだからな」

「へぇ~、アデプトと違って、バカじゃないみたいだね」

 男女も、これ以上戦うつもりはないらしく、それぞれ剣を鞘へと収める。


「そんなっ、僕はまだ」

「目的を果たしていないというなら、論外だ。さきほど、彼も言っていたように、二年ほど待てばいい」

「そうそう、徳川家康も言ってたじゃん」

 まだ、己の目的を遂行しようとするアデプトに対し、冷静に対応する男性と、それに賛同する少女。会話の流れからして、手を出すよりも少し先に潜伏していたのは間違いない。


「話、まとまったか?」

「ああ、時間を取らせてしまってすまない」

「いや、いいよ、別に。そいつ引き取ってくれるなら」

 ユヅルに対して、やたら礼儀正しい青年だったが、その瞳は、彼と同等、もしくはそれ以上に濁っている。


「本当であれば、話だけして、帰るつもりだったのだが、こいつが先行してしまってな。そうだな、これも何かの縁だ、名乗っておこう。私は、ディッセンバー、星の皇に忠誠を誓う、十二の使途、その一人だ」

「同じく、十二の使途、エイプリルだよ」

「こいつはどうも、ご丁寧に。すると、あれか、敵ってことでいいんだよな?」

「ああ、それに関しては、間違いない」

 丁寧な口調で自己紹介をしたものの、敵という言葉を素直に受け取るディッセンバー。


「さっきの話を聞く限りだと、メッセンジャー。ここにきたのは、使い走りってことでいいんだよな?」

「耳が痛いが、そのとおりだ」

「本当に、冷静だよねぇ。どこかのおばかさんとは偉い違い」

 談笑するつもりはないユヅルだが、どうも、この二人を相手にしていると、やる気をそがれてしまうらしい。


「我々は、宣戦布告しにきたんだ。魅神楽シロウ、否、戦神アルジェントに縁のあるものに対して。これより、我々は、君達人間に対して、武力を持って、会話をすると」

「ふふっ、簡単に言うと、私たちが、あんたたちを皆殺しにしちゃうよって、宣言してるの」

「物騒だな」

 宣戦布告を受けながらも、彼の表情は変わらない。


「君は、慌てないのだね」

「まぁ、あらかたの話は聞かされてたからな」

「それなら、話は早い。我々はこれより、一月ごとに一人、十二の使途の内、一人を送り込む。撃退できれば、君たちの勝ち。敗北はイコール、人類の死滅だ」

「随分とシンプルなルールだこと」

 シロウから事情を説明されていたユヅルは、慌てることなく話しに耳を傾けているものの、この場にいる人間は、初耳。


「でもさ、それだと、一年かかるな。それは、星の皇が復活するまでの時間と考えていいのか?」

「鋭いな。君の言っている事は正解だよ」

「なら、さっきの勝敗に関しては、訂正しておけ。お前ら十二の使途、全て退けても、星の皇が復活したら、お前たちの勝ちだろ」

「うん、そのとおり」

「だから、こっちの勝利条件は、お前らを全滅させ、かつ、星の王を復活させないってことだよな?」

「頭のいい人間は嫌いじゃないよ」

「お褒めに預かり光栄だね」

 軽口を叩きながら、彼の頭では高速で思考が展開されている。それすらも、予想の範疇にあるのか、ディッセンバーは、戦闘の意思をみせず、エイプリルにしてみれば、彼を観察するように見つめている。


「そんじゃ、大まかに、そちら側の戦力は、十二人程度。ちなみに、そいつは含まれてるのか?」

「ああ、残念なことにね」

「ああ、本当に残念だな」

 その瞬間、鮮やかな血の花が一輪、咲いた。その光景を見て、驚いたのは、何も教皇庁側の人間だけではない。星の皇側の二人も少なからず、動揺していた。それはまさに、一瞬の出来事。予備動作もなく、作り上げられた刀をユヅルが投擲。見事、その刀はアデプトの胸へと深々と突き刺さっている。


「これで、一ヶ月、猶予ができたわけだな」

 まるで、何事もなかったようにタバコの煙を吐き出すユヅル。その姿が、この場にいた全員の心を大きく揺さぶる。


「さっきの話、聞いてたよな。隙だらけだ」

 そして、その言葉とほぼ同時、ディッセンバーの胸にも、背後から突き出された刀の刀身が、心臓を突き破って出現している。


「うそっ、なんで」

 動揺を隠せないエイプリル。それも当然のこと、自身の仲間が立て続けに二人も、目の前で殺されているのだから。

「メッセンジャーで送られてる人間の力量は大抵決まってる。捨て駒って奴だ、大抵のやつは、自分の腹心を乗り込ませたりしない。戦力の低下が激しいからな」

「馬鹿にしてっ」


 それと同時に、エイプリルは行動を起こそうとするが、彼女の動きよりも、ユヅルの動きのほうが圧倒的に早い。作り出した刀で、両足の甲を貫き、その場所に固定。そして、足に彼女の視線が移動した一瞬の隙を突いて、両腕を肩口から錐飛ばす。かかった時間は一秒に満たないほどの、早業。


「お前らの大まかな力量はわかったよ。それに、こうは考えなかったのか? 何の考えももたずに、相手と会話するほど、相手が愚かだと。裏があるのではないかと。その顔を見る限りだと、たかが知れるな」

 相手を完全に戦闘不能状態にし、ユヅルは瞳に狂気を宿らせる。


「相手が約束を守る保障なんて、何処にもない。なら、つぶせるときにつぶせる奴を潰していく。それが、戦場で生き残る為の、第一条件」

「くそっ」

「姿なんて見せずに、バカを見捨てて逃げればよかったんだよ。俺なら、迷わずそうする。だが、こんな俺にも、良心って奴がある」

「じゃあ」

「お前が、殺してくれって懇願するような、手厚い歓迎をしてやるよ。ああ、発情期の動物の飼育小屋に叩き込むって奴もありだな。安心しろ、お前が途中で死んでも、脳みそから、情報を引き出すことはできるから」

 どちらが悪であるか、疑うような言葉を口にする。


「貴様っ、本当に人間か?」

「そんな三下みたいなセリフを口にするなよ。人間に決まってるだろ。人間だから、冷酷にも残虐にもなれる。こんな、恐ろしい感情を、神は持ってないだろうからな」

 タバコを床へ放り投げ、彼は彼女に対して背中を向ける。そして、


「俺の優しさって奴は、大切な奴にだけ注ぐものだ。だからこそ、それ以外の奴には、慈悲も、容赦もしてやらない。するつもりもない。『死神』の称号は、伊達じゃないんだよ」

 彼の口にする、称号のシンボルともいえる言葉を、相手の首へと後ろから、そっと突きつける。



ドSという言葉が、ここまで似合う人物も、そうはいないはず

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