Girl`s Talk2
暴露会の続き
自分の両親が、たとえ自分を捨てた存在だったとしても、殺されていて。その、憎しみをぶつけるべき相手が、自分を救ってくれた存在であったなら、どれほど複雑な心情だろう。それを、軽々しくわかるなど、ヒサノも、自身の父を彼に殺されたレベッカも答えることができない。
「・・・・・・兄様は、今も、憎んでる。でも、それと同じくらい、局長のこと、尊敬して、感謝もしてる」
「だから、ですか」
ヒサノは、彼の部屋にある唯一の写真を思い出して口にする。その写真に写っているのは、幼きユヅルとアレグリオの二人。両親の写真どころか、他の誰かと取った写真すらない。そして、それを彼は、この日本に唯一、私物で持ち込んでいる。そこに、どんな意味が込められているのかは、本人以外、知る由もない。
「それにしても、随分と変わったみたいやね、ユヅルはん。ドイツの仕事でも、ちょっと思うたけど」
「そうでござるな。こっちにいたときの、ユヅル殿であれば、人とのかかわりなど、道端の石ころぐらいにしか、考えていなかったはずでござる」
話題を変えようとした二人の言葉を聴いて、重苦しい雰囲気を振り払い、
「こっちにいたときの、ゆ~君って、どんな感じだったんですか?」
「それは、私も知りたいです」
情報屋から、ある程度の情報を買ってはいるものの、レベッカが知りえているのは、表面的な部分に過ぎない。それ故、彼女も気になってしまう。
「・・・・・・一言で、言えば、素敵な人」
「いや、レン、それ、答えになってへんよ?」
「・・・・・・兄様の本質、すぐには変わらない」
自分の彼氏が褒められているのだが、ハイドレンジアが抱えているのは、確実に異性としての感情。それがわかっているからこそ、ヒサノの心情は複雑。
「そやね、一言で言うなら、焼けた石やね」
「確かに、その表現は、間違っていないでござるな」
フジノの表現に納得がいったのだろう、センザはしきりに首を縦に振っている。
「誰一人として、まともに触れることができへん。触れてもうたら、火傷しか得られへん。誰ともかかわらず、誰一人として自分のそばに置かない。そんなお人やったね」
「加えて言うなら、それを自分で自覚しているから、誰とも足並みを揃えなかったのでござる」
単独破壊者。
こちらについたとき、エカテリーナからニュアンスだけ、聞かされていたその名の意味を、ようやく二人は知ることができた。
「おまけに、誰もたよらへん。自分にできないことがあるんやったら、できる人、頼ればええのに。できへんかったら、できるようにしてまう。努力の塊みたいな人やね」
「でも、興味がそちらに向かないと、まったくやらないでござるが」
このことについては、日本に渡ってきたユヅルも、変わっていない。
「あとは、そやねぇ」
「あの、その」
そこで、悩み始めたフジノに対し、慌てながら、ヒサノは恋する乙女らしい疑問をぶつけてみることに。
「ゆ~君、自分から、私に、触れてくることが、ないんですけど。私、魅力、ないんでしょうか?」
口にした本人は、湯気でも出そうなぐらい顔を真っ赤にし、自分が口にした言葉を、失敗と勘違いしてしまっている。だが、彼女が俯き、少し経ってから目だけ動かしてみると、そこには目をきょとんとさせているハイドレンジア、口元に手を当てているセンザ、そして、腹を抱えて女性らしくない笑い方をしているフジノの三人が。
「えっと、その、皆さん、魅力的ですし。ゆ~君、私と付き合ってるの、冗談なのかなって」
確かに、目の前にいる三人は、女性として、彼女にしてみれば魅力的に見えるかもしれない。盲目ではあるものの、凛とした雰囲気があり、物腰の柔らかいセンザ。肉体的に、今の彼女ではどうやっても敵わないフジノ。そして、人形のように容姿が整い、服装を変えれば、異性同性かかわらず、愛されそうなハイドレンジア。その三人を目の前にし、勇気を振り絞ったヒサノなのだが、
「相変わらず、でござるな」
「ほんまに、そこはやっぱり、二、三ヶ月じゃ変わらんみたいやね」
「・・・・・・やっぱり、兄様は、そうじゃないと」
三者三様に感想を述べ、
「ユヅル殿は、照れているだけでござるよ」
「そやね、嫌われたくなくって、一歩踏み出せないんやろね」
「・・・・・・ずるい」
笑いをどうにかこうにかかみ殺している。
「あの、こっちは、真剣なんですけど」
若干、熱も引いてきて、今度は逆のベクトルで熱を得てきたヒサノは、三人を睨みつけてしまう。
「安心していいでござるよ。ユヅル殿は、春日野殿一筋みたいでござるから」
「えっ?」
思わぬ言葉に、顔が綻びそうになるものの、そこは我慢。
「そやね、昨日みたいに、冷静にブチ切れたの、うちも始めてみたさかい」
「・・・・・・怖かった」
昨日のことを思い出しているのだろう。先ほどとは一転して、二人の顔色は青ざめてきている。
「言ってることの意味が、よくわからないんですけど?」
「にぶいお人やね、ヒサノはん。秘書官あたりも、いうたとおもうんやけど」
「ユヅル殿は、特定の誰かに対してだけ、感情を動かすことはしないでござる。こちらにいたときは、っでござるが」
先ほどの焼け石の話を思い出すヒサノ。
「それぐらい、今のユヅル殿にとって、春日野殿の存在は大きいのでござるよ」
「ほんまにねぇ。こんないい女が、ここにいないのも含めて、五人以上おりましたのに、誰一人として、アプローチ受けた人なんて、おりません」
「・・・・・・ううっ」
三人からの言葉を受けて、今度は赤面させられてしまうヒサノ。
「えっと、でも、女性的な魅力は」
「それは、ユヅルはんが、へたれやからやろね」
「ユヅル殿は、臆病でござるからな」
「・・・・・・変わってない」
「どういうことですか?」
三人の言っている意味が理解できずに、テーブルに乗り出すように声を上げるヒサノだったが、その行為が恥ずかしいと気づき、すぐに小さくなってしまう。
「ユヅルはんは、臆病なんよ。既に、聞きはったとおもうけど、彼、少年兵やって、戦地を転々としとったんよ」
フジノの言葉に対して、ヒサノは首を縦に振る。
「そんで、人の死ぬ姿、苦しむ姿、目に焼き付けてもうたんよ。そんで、自分はそうなりたない。幼心に、そうおもうたんやろね」
「ユヅル殿の、冷酷さ、冷静さは臆病であることの裏返しでござる。だからこそ、今の席次についているといっても過言ではないでござる」
「せやから、触れたいけど、嫌われたない。そんな葛藤かかえとるんよ、ユヅルはん。これは、局長から聞いた話やけど、ユヅルはん、甘えることもへたらしいわ」
「自分のこと、知られて、嫌われるのが怖い。受け入れてもらえなかったら、どうしよう。戦場とは打って変わって、優柔不断でござるよ」
「いや、あの、でも」
「そやね、それでも、自分に自身が持てへんのやったら、おねだりしてみたらええとおもうわ」
「そうでござるな。きっとユヅル殿のこと、籍を入れることぐらい、平気でやってのけるでござる」
「不思議と、甲斐性はあるんよね」
女子の会話は、さらに激しさを増していく。
うわぁ、次も主人公が登場しねぇ