表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第五章 新しいはじまり
66/106

Girl`s Talk2

暴露会の続き

 自分の両親が、たとえ自分を捨てた存在だったとしても、殺されていて。その、憎しみをぶつけるべき相手が、自分を救ってくれた存在であったなら、どれほど複雑な心情だろう。それを、軽々しくわかるなど、ヒサノも、自身の父を彼に殺されたレベッカも答えることができない。


「・・・・・・兄様は、今も、憎んでる。でも、それと同じくらい、局長のこと、尊敬して、感謝もしてる」

「だから、ですか」

 ヒサノは、彼の部屋にある唯一の写真を思い出して口にする。その写真に写っているのは、幼きユヅルとアレグリオの二人。両親の写真どころか、他の誰かと取った写真すらない。そして、それを彼は、この日本に唯一、私物で持ち込んでいる。そこに、どんな意味が込められているのかは、本人以外、知る由もない。


「それにしても、随分と変わったみたいやね、ユヅルはん。ドイツの仕事でも、ちょっと思うたけど」

「そうでござるな。こっちにいたときの、ユヅル殿であれば、人とのかかわりなど、道端の石ころぐらいにしか、考えていなかったはずでござる」


 話題を変えようとした二人の言葉を聴いて、重苦しい雰囲気を振り払い、

「こっちにいたときの、ゆ~君って、どんな感じだったんですか?」

「それは、私も知りたいです」

 情報屋から、ある程度の情報を買ってはいるものの、レベッカが知りえているのは、表面的な部分に過ぎない。それ故、彼女も気になってしまう。


「・・・・・・一言で、言えば、素敵な人」

「いや、レン、それ、答えになってへんよ?」

「・・・・・・兄様の本質、すぐには変わらない」

 自分の彼氏が褒められているのだが、ハイドレンジアが抱えているのは、確実に異性としての感情。それがわかっているからこそ、ヒサノの心情は複雑。


「そやね、一言で言うなら、焼けた石やね」

「確かに、その表現は、間違っていないでござるな」

 フジノの表現に納得がいったのだろう、センザはしきりに首を縦に振っている。


「誰一人として、まともに触れることができへん。触れてもうたら、火傷しか得られへん。誰ともかかわらず、誰一人として自分のそばに置かない。そんなお人やったね」

「加えて言うなら、それを自分で自覚しているから、誰とも足並みを揃えなかったのでござる」


 単独破壊者。

 こちらについたとき、エカテリーナからニュアンスだけ、聞かされていたその名の意味を、ようやく二人は知ることができた。


「おまけに、誰もたよらへん。自分にできないことがあるんやったら、できる人、頼ればええのに。できへんかったら、できるようにしてまう。努力の塊みたいな人やね」

「でも、興味がそちらに向かないと、まったくやらないでござるが」

 このことについては、日本に渡ってきたユヅルも、変わっていない。


「あとは、そやねぇ」

「あの、その」

 そこで、悩み始めたフジノに対し、慌てながら、ヒサノは恋する乙女らしい疑問をぶつけてみることに。


「ゆ~君、自分から、私に、触れてくることが、ないんですけど。私、魅力、ないんでしょうか?」

 口にした本人は、湯気でも出そうなぐらい顔を真っ赤にし、自分が口にした言葉を、失敗と勘違いしてしまっている。だが、彼女が俯き、少し経ってから目だけ動かしてみると、そこには目をきょとんとさせているハイドレンジア、口元に手を当てているセンザ、そして、腹を抱えて女性らしくない笑い方をしているフジノの三人が。


「えっと、その、皆さん、魅力的ですし。ゆ~君、私と付き合ってるの、冗談なのかなって」

 確かに、目の前にいる三人は、女性として、彼女にしてみれば魅力的に見えるかもしれない。盲目ではあるものの、凛とした雰囲気があり、物腰の柔らかいセンザ。肉体的に、今の彼女ではどうやっても敵わないフジノ。そして、人形のように容姿が整い、服装を変えれば、異性同性かかわらず、愛されそうなハイドレンジア。その三人を目の前にし、勇気を振り絞ったヒサノなのだが、


「相変わらず、でござるな」

「ほんまに、そこはやっぱり、二、三ヶ月じゃ変わらんみたいやね」

「・・・・・・やっぱり、兄様は、そうじゃないと」

 三者三様に感想を述べ、


「ユヅル殿は、照れているだけでござるよ」

「そやね、嫌われたくなくって、一歩踏み出せないんやろね」

「・・・・・・ずるい」

 笑いをどうにかこうにかかみ殺している。


「あの、こっちは、真剣なんですけど」

 若干、熱も引いてきて、今度は逆のベクトルで熱を得てきたヒサノは、三人を睨みつけてしまう。


「安心していいでござるよ。ユヅル殿は、春日野殿一筋みたいでござるから」

「えっ?」

 思わぬ言葉に、顔が綻びそうになるものの、そこは我慢。


「そやね、昨日みたいに、冷静にブチ切れたの、うちも始めてみたさかい」

「・・・・・・怖かった」

 昨日のことを思い出しているのだろう。先ほどとは一転して、二人の顔色は青ざめてきている。


「言ってることの意味が、よくわからないんですけど?」

「にぶいお人やね、ヒサノはん。秘書官あたりも、いうたとおもうんやけど」

「ユヅル殿は、特定の誰かに対してだけ、感情を動かすことはしないでござる。こちらにいたときは、っでござるが」

 先ほどの焼け石の話を思い出すヒサノ。


「それぐらい、今のユヅル殿にとって、春日野殿の存在は大きいのでござるよ」

「ほんまにねぇ。こんないい女が、ここにいないのも含めて、五人以上おりましたのに、誰一人として、アプローチ受けた人なんて、おりません」

「・・・・・・ううっ」

 三人からの言葉を受けて、今度は赤面させられてしまうヒサノ。


「えっと、でも、女性的な魅力は」

「それは、ユヅルはんが、へたれやからやろね」

「ユヅル殿は、臆病でござるからな」

「・・・・・・変わってない」

「どういうことですか?」

 三人の言っている意味が理解できずに、テーブルに乗り出すように声を上げるヒサノだったが、その行為が恥ずかしいと気づき、すぐに小さくなってしまう。


「ユヅルはんは、臆病なんよ。既に、聞きはったとおもうけど、彼、少年兵やって、戦地を転々としとったんよ」

 フジノの言葉に対して、ヒサノは首を縦に振る。


「そんで、人の死ぬ姿、苦しむ姿、目に焼き付けてもうたんよ。そんで、自分はそうなりたない。幼心に、そうおもうたんやろね」

「ユヅル殿の、冷酷さ、冷静さは臆病であることの裏返しでござる。だからこそ、今の席次についているといっても過言ではないでござる」

「せやから、触れたいけど、嫌われたない。そんな葛藤かかえとるんよ、ユヅルはん。これは、局長から聞いた話やけど、ユヅルはん、甘えることもへたらしいわ」

「自分のこと、知られて、嫌われるのが怖い。受け入れてもらえなかったら、どうしよう。戦場とは打って変わって、優柔不断でござるよ」


「いや、あの、でも」

「そやね、それでも、自分に自身が持てへんのやったら、おねだりしてみたらええとおもうわ」

「そうでござるな。きっとユヅル殿のこと、籍を入れることぐらい、平気でやってのけるでござる」

「不思議と、甲斐性はあるんよね」

 女子の会話は、さらに激しさを増していく。

うわぁ、次も主人公が登場しねぇ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ