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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第五章 新しいはじまり
62/106

番外編 日本でのお正月2

前回からの続き

「それで、誘いに来てくれたのは嬉しいんですけど、これからどこに行くつもりなんですか?」

「初詣に」

「初詣に行くのです」

 ユヅルの右腕を取りながら、尋ねてきたヒサノに対してユヅルとレベッカはそれぞれ答え、


「そうなると、一番近いのは、カナミさんのところですね」

「そうなんだが、もう一人ぐらい欲しいところだ」

「どういうことですか?」

「先輩はパーティーを組みたいそうです」

「両手に花な、この状態でですか?」

 少しだけ不満そうにヒサノは頬を膨らませ、


「いや、単純にそれとは別に挨拶をしておきたい人がいるんだよ」

 ユヅルがそう口にした瞬間、


「「誰?」」

 異口同音に、彼に問いかける二人。そんな二人に挟まれながら、


「カズキだよ。正確に言えば、カズキの親御さんになるんだけどな」

 ばつが悪そうに答えるユヅルをみて、二人は納得が言ったように、安堵の息を漏らす。

 学園祭のステージで、彼が告げた彼女への告白は、自身と血縁関係にカズキがあるということ。それならば、彼女が世話になっている両親に対して、挨拶をしておきたいという彼の考えにも納得がいくというもの。


「ただ、あいつの両親。結婚してから二十年ぐらい経つらしいんだが、未だに新婚のノリが続いているらしくってな。会えるかどうか」

「旅行にいってるとか?」

「しょっちゅう行くらしいぞ、あいつを置いて」

「雨竜さん、愛されてないんですか?」

「それはないな。あいつ、門限が未だにあって、それを過ぎると、警報レベルで携帯に連絡が来るらしい」

 少しだけ、彼女が羨ましいと思いながら告げるユヅルだったが、その場で足を止める。


「どうしたんですか、ゆ~君?」

「いきなり止まらないでくださいよ、先輩」

 二人から文句を言われながら、ユヅルが左手で指差した先には、一人の女性が、三人の男性にしつこく言い寄られている姿があって、


「日本にも、ああいうしつこいナンパがあるんですね」

 それを見たレベッカが他人事のように口にするが、


「あれって、カズキさんじゃありませんか?」

 ヒサノは気づいたらしく、ユヅルに確認を求めてくる。


「だよなぁ」

―なんだろう、このデジャヴ。今年も、一年、こんな感じなのかなぁ―

 どこか諦めたような声で、納得してしまうユヅル。


 そう、三人の男性に言い寄られている女性は、ユヅルの姉である女性、雨竜カズキその人。スレンダーなモデル顔負けのスタイルな為、晴れ着が非常に似合っていることは言うまでもない。


「しかたないから、少し待っててくれ」

「えっ、一緒に行きますよ?」

「そうですよ、先輩」

 ユヅルの提案は、なぜか二人同時に却下されてしまう。


「いや、あのな、あいつらはナンパ目的でカズキに迫ってるわけだろ? そこに二人、俺の私的判断だが、美少女が追加されてみろ。あいつらの思う壺だろ? えっと、こう言うの日本語でなんて言えばいいんだっけ?」

 彼が二人をどうやって説き伏せようかと、考えながら口に出した言葉で、二人は少し妄想世界へトリップしてしまっている。彼自身、おせじをいったわけではなく、思っていることをそのまま口にしていただけなのだが、そこは恋する女の子。好きな人から、自分のことを褒められて喜ばずにはいられない。


「まぁ、いいか。そんなわけで、少し待ってろ」

「「はい」」

―大丈夫かな、あいつら―

 返事が聞けて、彼の思い通りに事態は進んでいるものの、一抹の不安を覚えずにはいられないユヅルであった。


◆◆◆◆◆◆◆◆


「いいじゃん、一緒に行こうよ」

「いい店知ってんだよ、俺ら」

「結構、僕は急いでいるんでね」

 しつこく言い寄られ、カズキは辟易していた。容姿をほめられることは悪い気はしないものの、それがあまりにも下心丸見えで、おまけに引き際を知らない。


「そういわずに、さぁ」

 それでもなお食い下がっている男たちの脇を抜け、家路へとむかおうとしたカズキの腕を男の一人が力任せに取り、反射的に彼女が動こうとした瞬間、彼女の視界は意外な人物によってふさがれてしまう。


「だ~れだ」

 その声の主を彼女は、すぐに理解できたのだが、どうしてこういった行動に出たのか、彼の真意をつかめずにいる。


「おいおい、わかんねぇのかよ」

「ユヅル、だよね」

 だからこそ、彼女の声は若干震えていた。喜びではなく、怒りによって。


「正解。って、やっぱりカズキだったな」

「僕じゃなかったら、どうするつもりだったのかな?」

「素直に謝る」

 彼女の視界を塞いでいた手をどけたユヅルは、あっさりと口にして、タバコに火をつけて煙を深々と吸い込んでいる。そして、そんな突然現れた男に対して、驚きを隠せない三人。


「ちなみに、どうして、あんなことをしたのかな?」

「一度やってみたかったから」

「まったく本当に君って奴は」


 怒りをため息と共に吐き出し、呆れてしまうカズキだったが、

「それでは、待ち人が着たので、失礼させてもらうよ」

 彼の登場を脱出の格好の言い訳にして、その場で彼の腕を取り、歩き出す。だが、そこで諦めるほど男たちは、頭がよくなかったらしく、


「彼氏の登場? でもさぁ、俺たちのほうが先約だよね?」

 下卑た笑みを浮かべ、カズキの腕を掴んでいる手に力を込めてくる。


「彼氏じゃねぇよ、弟だよ」

 とりあえず男たちの間違いを口に出し、


「そんで、お前はいつまで、人の姉の手を握ってんだ?」

 男の腕を掴んで、にっこりと笑みを浮かべる。それと同時に青ざめていく男の顔。それもそのはず、ユヅルの握力は軽く百キロを超えており、徐々に力を加えていくという万力じみた方法を取っている。


「ちなみに、あっちにいるのは俺の連れだ。手を出したら、わかるよな?」

 腕を掴まれている男のあまりの痛がりように、異常を感じたのだろう。他の二人はその言葉を聴いただけで、その場から走り去っていく。


 そして、最後に残った男に対し、

「まだ、そう、もっと力入れてもいいんだが、そうすると、お前の腕、さよならしちゃうかもしれないな。すぐに、この場から消えてくれるなら、離してやってもいいけど、どうする?」


 耳元にささやくように口にし、男が首を縦に振ったことを確認して手を離す。すると、恐怖と痛みに耐え切れなくなった男は、そのまま振り返ることなく去っていく。


「手を握っただけで大げさだよな」

「そこで、僕に同意を求める理由がわからないよ」

 タバコの煙を吐き出しながら問いかけてくるユヅル。そんな彼に答えながら、噴出すように彼女は笑ってしまう。


「それで、僕に何かようかな?」

「そうだな、とりあえず、あけましておめでとう。これで、新年の挨拶はあってるよな?」

「あってるよ。こちらこそ、あけましておめでとう」

 挨拶を口にした彼に対して、つられるように頭を下げるカズキ。


「そうそう、初詣に行く途中なんだよ、俺」

「うん、それで?」

「そんで、ついでにお前の両親に挨拶もしておこうと思ったんだけど、家にいる?」

「残念ながら、初日の出は飛行機で。そう口にして、二人とも旅行に行ってしまっているよ」

「だとおもったんだ」

 そこで、彼は地面にタバコを捨て、ブーツのそこで踏み消し、


「おまえはもう行ったのか、初詣」

「いや、これからだよ」

「そっか、なら、同伴決定だな」


 そう口にして、ヒサノとレベッカを呼び寄せるユヅル。そんな彼を見ながら、

「姉って、大変かも」

 ぼやいてしまうカズキであった。

後二話ぐらいで番外編を終わらせる予定

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