紹介します4
執行官同士で戦闘開始
「ほう、俺ら全員に対して、啖呵切るって。オモシレェぞ」
真っ先にユヅルの挑発に乗ってきたのは、席次の九にして、彼に戦い方を教えた男性、ウインド。
「世界の広さを教えてあげる必要が、ありますよねぇ」
そんな彼に便乗するように立ち上がったのは、席次の十にして、ウインドの相棒を勤める女性、レイブン。
「声を出して、相手に位置を悟らせるなんて、愚の骨頂だ」
しかし、そんな二人よりも彼の動きのほうが早く、鋭い。対象を、沈黙させるという、純粋すぎる目的で動く彼を、単純な戦闘力で止められるものは、
「拙者が、お相手するでござるよ」
長刀で、ユヅルの刀を受け止めたのは、席次の一にして、盲目の女性、鳳センザ。そして、その横で爆発が起き、彼は瞬時に自分の周囲を再確認する。
「いやはや、こういう歓迎をするつもりはないんだけどね」
「しょうがないどすなぁ、ほんまに」
そんな彼に追撃のように放たれた、雷の槍。それを刀を投擲し、避雷針代わりにして逸らした彼は、
「ケイオスにフジノ、か」
ただ、確認するように二人の名をつぶやく。
コレで戦況は、五対一。
圧倒的不利な状況でありながらも、彼の表情には一切の変化がない。
「兄様、私もいます」
「ああ、だろうな」
彼の周囲を取り囲むように疾走し続ける水の糸。その一本一本が加速し続けている為、触れれば、ダイヤモンドですら切断することが可能だろう。しかし、
「甘いんだよ、覚悟がな」
彼は、それを気にすることなく通過しようとする。そして、その行為はハイドレンジアの脳裏に、結果だけを連想させる。よって、解かれる包囲網。
「相手を殺すことを躊躇うな、そう、言ったはずだ」
その言葉と共に振り下ろされた刀。しかしそれは、遠距離から放たれた矢によって逸らされ、死角から繰り出された槍の一撃で、彼は後退を余儀なくされる。
「イジーにマリー」
「そうよ、ダーリン」
「だんな様が相手でも、容赦はしません」
戦況は変化し、八対一。
っというよりも、レベッカを除き、荒事専門の執行官全員の戦闘である。下手をしたら、この場所が焦土となってもおかしくない。
「あの、秘書官、この場合、どうすればいいのでしょうか?」
「そうですね」
そこで一度、エカテリーナは言葉を区切り、首をひねった後、
「あそこまで冷静にブチキレているハイドマン執行官をみるのは、私も久しぶりです。ですから、どうしましょう」
「いや、どうしましょうって、先輩は力の大半を失っているんですよ?」
「ええ、それは私も聞いています」
先日の一件で、ユヅルの力はかつて程、脅威ではなくなっている。今なら、執行官同士の戦闘でも、敗北するかもしれない。
「ですが、力の大半を失っていようと、私には止められません」
「冷静に言いますね」
エカテリーナの戦闘能力は執行官の中でもクローデルと一、二を争うほど低い。だが、
「むしろ、この状況でも、彼の敗北はないでしょう」
続く言葉を聴いて、レベッカは首をひねってしまう。
「それ、どういうことですか?」
「ああ、そうでした。あなたは、彼と単独で戦闘して敗北していましたよね、確か」
「はい」
彼とはじめてであった時のことを、思い出し、レベッカは居心地悪く答える。
「ですが、恥じることはありません。席次の九と十は別として。他の執行官は、彼の強さを嫌というほど体で理解しているはずです」
「まさかっ?」
そこで、レベッカはある結論へと考えが至り、
「そうです、あなたの考えどおり、彼らは一度、ハイドマン執行官に敗北しています。それも、彼が星装具を使う前に」
その言葉を聴いてしまう。
「単純な戦闘能力で言えば、席次の一、速度で言えば、席次の九、連携で行けば、席次の三と六。彼を打倒することは、不可能とは言いません。それぞれ、勝っている部分で、押し切ればいいのですから」
そして、彼女はヒサノへと耳打ちし、
「でも、それって、成功するんですか?」
「おそらく、あなただけしかできない方法です」
疑問符を浮かべたまま、ヒサノは戦闘が行われている場所へと足を踏み入れていく。
「いま、何を言ったんですか?」
「秘密です。それよりも、急ぎたまえサウザード執行官。彼女を傷つけたら、矛は君のほうへ向く可能性もあるんだよ?」
「この、鬼っ」
罵倒しながら、レベッカはヒサノの後を追って戦場へと足を踏み入れる。
「面白そうだな、エカテリーナ?」
「変な言いがかりはよしてください、局長。むしろ、あなたが軽率に動かなければ、このような事態に発展しなかったんですから」
復活したアレグリオだったが、エカテリーナに厭味を言われ、その巨躯を若干小さくさせる。
「さて、上手くいけばいいのですが」
◆◆◆◆◆◆◆◆
戦況は、八人の執行官を相手取りながらも、彼の優位的状況で展開されていた。それもそのはず、ユヅルは彼らと戦い、勝った経験があり、彼らの攻撃方法や心理、そういった戦場において有利に動く要因を知り尽くしている。
「テメェら、残念すぎるぞ」
それは、この戦いを終わらせる一言に他ならない。だが、その彼の右側から放たれた攻撃により、彼は若干、声のトーンを下げる。
「お前も、混ざるつもりか、レベッカ」
「流石に、コレは洒落になりませんから」
彼に襲い掛かってきたのは、レベッカの魔弾。それでも、ユヅルにしてみれば、殺すべき、殲滅する対象が一人増えただけのこと。
だが、レベッカにしてみれば、彼の動きを一瞬でも止める。それが目的であり、終着点。
「ゆ~君、ダメですよ。私を紹介してくれるんじゃ、なかったんですか?」
後ろから、彼に抱き着いてきたヒサノ。
どうして、この場に一般人がいるのか。その思考は、戦闘をしている執行官全員に、困惑を植え付けるには十分すぎる。しかし、
「ああ、そういえば、そうだったな」
彼ら全員の予想を裏切り、あっさりと、ユヅルは殺気を収めてしまう。これは、その場にいる全員が、自分の目を疑ってしまう。
「こいつは、春日野ヒサノ。俺の女だ」
乱暴すぎる口調で、ヒサノのことを紹介するユヅル。この状況下でも、彼女が全員の死角になっているのは、流石というべきだろう。
「彼女?」
最初にその言葉を聴いて、疑問符を口にしたのは、冷静さを欠いていないケイオス。そして、
「「「「「「「彼女ぉ」」」」」」」
その言葉は、全員の思考を戦闘から、驚愕へと塗り替えるには十分すぎるほどだった。
最強を覆すのは、いつだって最愛