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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第一章 日本到着
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お仕事事情2

さぁ、哲学の時間?です

「おはようございます」

「「「「「おはようございます」」」」」

 神社の石段を降りたユヅルとカナミの二人は、突然目の前に飛び込んできた光景と、野太い声の挨拶で一瞬、かたまってしまった。

 なぜか、石段を降りてすぐの場所にはリムジンが停まっており、そのリムジンから弧を描くように石段まで、男たちが直立不動の状態で並んでいる。まぁ、最初に二人、主にユヅルに声をかけてきた人物に見覚えがあったので、ユヅルには予想がついていた。彼女、春日野ヒサノがいるのだから、まぁ、当然、その人物もいるわけで。

「おう、おはよ~さん」

 当然といわんばかりに、リムジンから降りてきたのは、秋刀魚組六代目、春日野ヒサト。昨日と違うのは、服装が着流しから黒のスーツに変わっているというだけ。

「ああ、突然の訪問すまんね、学校まで乗せてあげるから、はよ、乗って、乗って」

「学校って、車に乗っていくほど距離ありませんけど」

 ヒサトの提案に、遠慮がちにカナミが言うが、隣にいたはずのユヅルがさっさとリムジンに乗り込んだのを見て、勢いで彼女も乗ってしまう。続いてヒサト、ヒサノの順に乗り、車は走り出す。

「早速で悪いけど、あれ、きみがやったんか?」

「ああ、やっぱりその件で。答えは、肯定」

 敵対組織の壊滅情報を知りえたヒサト。確信はなかったものの、確率が少しでもありそうなところには、今日、出向いていく予定だった。しかし、一軒目、一番確率の低い場所であたりを引いてしまうとは、予想していなかった。

「何でそんなに驚いてんの? そう思ったから、ここまで来たんじゃねぇの?」

「ああ、そうだったんだが」

 すんなりと信じられるような内容ではない。平目組の構成員はおよぞ二百名。多少、出払っていたとしても、屋敷には百名ぐらいの人間はいたはず。それを、たった一人の少年が。否定している自分と、肯定してる自分。そのどちらもいて、ヒサトは判断をつけられずにいる。

 しかし、時間は経過し、四人を乗せた車は学校へついてしまう。

「じゃあ、行ってきます。おとうさん」

「乗せてくれてありがとうございました」

 ヒサノとカナミはそれぞれ口にし、車を降りるが、ユヅルは、二人が降りたことを確認したのと同時に、車のドアを引き、内側からロックをかけてしまう。その行為に対して、カナミは文句を口にするものの、チャイムが鳴ってしまったため、しぶしぶ校舎へと入っていく。


「なぁ、問答ついでに俺の質問にも答えてくれよ、おっさん」

 懐からタバコを取り出し、ヒサトの了承も得ずにタバコを吸い始めるユヅル。

「人が人を殺す理由ってなんだ?」

 言っている意味がわからない。そう、ヒサトは思ったが口には出さない。ユヅルは、冗談ではなく、本当に質問してきていたから。

「相手を憎いと感じる。それによって行動するからだろう」

 妥当だと、考えた答えをヒサトは口にするが、それを聞いたユヅルは、声を上げて笑い始めた。本当におかしそうに。何も、理解できていないと、答えが間違っていると言わんばかりに。

「ああ、悪い、気分を悪くしないでくれよ」

 そう口にしながらも、ユヅルはまだ笑いを堪えている。

「別に、おっさんの答えが間違ってるってわけで笑ったわけじゃない。ちっとばっか、前に同じ答えを聞いたことがあって、そいつの面を思い出してただけだから」

 そう口にし、ユヅルは備え付けの灰皿に、灰を落とす。

「動物は、食うため、守るため、そのために他のものを殺す。植物もしかり。平たく言えば生きる為に殺す。でも、人間は生きるため以外にも人を殺す。けっして、人を殺さなきゃ、自分が死ぬってわけでもない状況で」

 タバコの煙を吐き出したユヅルの瞳は、とても暗い光を宿している。

「俺の中には、決して破らないルールが二つだけ存在している。そのうちの一つ、それを奴らは破った。だから殺した。勿論、本部に確認も取ったから、安心して俺は殺し尽くした」

 その口元は、確かに笑っている。その表情を見て、ヒサトは目の前の人物が、敵対組織を壊滅させたのだと、確信を持ってしまう。そう、不覚にも、目の前の少年が怖い存在だと思ってしまっていた。

「人だけが、感情でも、本能でもなく、計算で、人を殺す。間違っちゃいないさ、戦争やテロ、そういったもんが、俺の言葉を事実だと認めてる。ああ、そうだった、俺の答えを聞かせ忘れてた。俺は、人が人を殺すのに理由なんてないと思ってる。理由なんて後付で、殺した後に考えてる。しいて理由に近いものを挙げるなら、邪魔と感じたからだろ。言いたいことは、そんだけ。乗せてくれてありがとな」

 言いたいことだけ口にしたユヅルは、タバコの火を灰皿に押し付けて消し、車から出て校舎へと向かって歩いていく。

 残されたヒサトは、自分の掌が汗まみれになっていることに気づき、大きく息を吐いた後、上を見上げる。

「あれ、どこまで壊れてる。いや、どうしたら、あそこまで壊れることができる」

まだ、続きます

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