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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第五章 新しいはじまり
59/106

紹介します3

到着しました

「なぁ、コレはどういうことだ?」

 四人が到着したのは、異端審問局の本部である『黒金の檻』。しかし、なぜかこの場所に本来いるはずの人間が誰一人としていない。むしろ、もぬけの殻。


「なんか、聞いてたりしないのか?」

「いえ、流石に私も何の連絡を受けていません」

 事情を知っているだろうエカテリーナすら困惑している。


「どうしますか、先輩?」

「ふむ、そうだな。本来なら許可が必要なんだけど、まぁ、しょうがないか。悪いな、ヒサノ、今日はレベッカの部屋に泊まってくれ」

「えっ?」

「まぁ、妥当な判断ですよね」

「客室使いたいけど、マスターキーどこにあるかわからんし」

 本人をよそに勝手に話を進めてしまうユヅルとレベッカ。しかし、この場所に始めてきたヒサノとしては、二人に従うほかない。


「っで、誰か連絡取れないのかよ?」

「今、片っ端から連絡を取っているんですが、誰一人として出ません。ですが、おかしいんです」

「おかしいって何が?」

「執行官すべての光点が一箇所に集中しています」

「それって、席次の十一も含めてですか?」

「はい」


 執行官は、基本的に世界中に散らばって仕事をしている。そのため、彼らの位置が把握できるように、その体には発信機がインプラントとして埋め込まれている。そう、ユヅルにレベッカ、ヘキルといった三名が同じ国に滞在していることは、例外中の例外といっていいだろう。


「なんか、大規模な仕事でもあるのか?」

「わかりません」

「まぁ、仕事だとしたら、今回、俺はパス。今回の俺の目的は、お姫様のエスコートなんで」

「先輩、何気に自分勝手ですよね?」

「そういうけど、大人数で行動する仕事なら、俺は参加しないほうがいいはずなんだが?」

「どうしてですか?」


 戦力として計算するなら、彼の参入は非常に大きなプラスになるはずなのだが、

「彼の場合、周囲への被害が非常に大きい。ですから、それに味方が巻き込まれる可能性が、非常に高いのです」

「ああ、確かに」

 そう、今まで彼は、強引に拉致されたドイツでの任務以外、複数名での仕事には一切参加していない。もっとも、参加する意思は毛頭ないのだが。周囲へ被害が無駄に拡大してしまうことを防ぐ為という建前もあったりする。


「まぁ、とりあえず、荷物だけ各自の部屋に置いたら、この場所に行ってみましょう」

 半ばエカテリーナに仕切られながらも、特に逆らうことなく、行動した三人は、およそ五分程度で彼女の元へと戻ってきた。



「さて、皆さん、覚悟はいいですね?」

「何に対する覚悟だよ」

 思わせぶりな言葉を口にするエカテリーナを、殆ど無視する形で、全員が集合している場所のドアを蹴破るユヅル。その行動を、本来、いや、いつもであれば非常時であっても取り締まるエカテリーナなのだが。ドアの向こうの景色を見て、言葉が出てこなくなっている。


 そう、四人の視界の先、庭園で異端審問局に所属するすべての人間が、酒盛りをしていたから。

「これは、どういったことでしょうか?」

 正気に一番戻るのが早かったレベッカは、隣にいるユヅルに対して問いかけるが、当の本人は、物凄く嫌悪感を露にした表情を浮かべている。


「めちゃくちゃ、酒臭い」

 レベッカとヒサノからしてみれば、ここまで嫌悪感を露にしている彼を見るのは初めて。そう、苛立った表情はよく見せるものの、ここまで嫌そうな顔はあまり見せたことがない。


「おお、帰ってきたか」

 そんな四人に気づいた大柄な隻眼にして隻腕の男性。酒瓶を片手にユヅルへと、体を預けてきて、


「酒臭いって、言ってんだろっ」

 物凄い勢いで繰り出された左の裏拳を鼻の下、人体急所の一箇所である人中に叩き込まれ、その場で大の字に倒れる。


「酔っ払い以外はいねぇのか?」

「いないみたいですね」

 ユヅルの懇願するような問いに対し、エカテリーナはため息混じりに、彼にしては絶望以外ありあえない答えを口にする。


「おいこら、局長オヤジ。コレは嫌がらせか何かか?」

「何を言う。日本では、祝うことがあれば、皆で酒盛りをするのだろう?」

「誰だ、そんな間違った常識を植えつけたのは?」

 先ほど叩きのめした、アレグリオを力任せに起き上がらせ、問いかけると不可思議な答えが返ってきて、

「あいつしかいないか」

 その瞬間、左手に作り出した刀を投擲。銃弾すら凌駕する速度で放たれた刃は、目的の人物の酒瓶を砕き、

「こら、ユヅル、おねぇちゃんが怪我したらどうしてくれるのよっ」

「黙れっ。この元凶が」

 気温よりもさらに低い殺気を浴びせるものの、酔っ払いには効果がまったくない。


「えっと、ゆ~君?」

「ああ、悪い」

 肩で息をしながら、ヒサノへと振り返るユヅル。だが、そんな彼女にアレグリオが抱きつくように体を寄せていることを見た瞬間、彼の顔色が変わる。


「死ぬ覚悟はあるんだろうな?」

 その言葉は、風が吹けば、消えてしまいそうなほど小さな声。しかし、それを聴いた瞬間、

「総員、最終防御体制を取れっ」

 エカテリーナの訴えかけるような、声を大にした号令が響く。それを受け、その場にいた全員が酒の力に抗い、体勢を整えるが、既に遅い。


 次の瞬間には、無数の刀が地面へと降り注ぎ、庭園の地面を埋めている。そして、その中でヒサノを右手で抱きしめ、刀の上に立っているユヅル。その瞳は苛立ちを通り超え、呆れも通り超え、純然たる殺意が宿っている。


「他人の女に手、出してんじゃねぇよ、酔っ払い。テメェら全員、墓場送りにしてやんぞ」

「うん? 何を言ってるんだ?」


 酔いながら、若干正気を取り戻し始めてきたアレグリオは、近くにいたエカテリーナへと問いかけ、

「ハイドマン執行官の彼女ですよ、先ほどあなたが抱きついていたのは」

 それを聞いて、彼の血の気は一瞬で引いてしまう。


「待て、ユヅル。ゆっくりと話し合おう」

「こっちには話し合う気なんて、毛頭ねぇよ」

 レベッカの隣にヒサノを下ろし、両手に一振りずつ刀を握り締めるユヅル。そこには、情などなく、純粋に殺意のみが存在している。


「えっと、コレって?」

「そうですね、簡潔に説明すれば、彼は、独占欲が非常に強いのですよ」

「言っている意味はわかるんですけど」

「おまけに、彼は酔っ払いとお酒が大嫌いです」

「えっと、止めなくていいんですか?」

「私がですか? 嫌ですよ、それに、私、いえ、この場にいる人間で、ユヅル・ハイドマンを止められる人間がいるとしたら、一人しかいません」


 そう口にして、エカテリーナは微笑し、

「彼は、ユヅルは、紹介する前に、あなたに触れたことを、怒っているんですよ。むしろ、紹介した後であっても、同性ではなく、異性が触れようとしたら、警戒するでしょうね」

「えっと、その」

「愛されてますね、ヒサノさん」

 彼女の言葉に、顔を赤面させるヒサノであった。

意外と精神的にはお子さまな主人公

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