紹介します2
果てさて反応は?
外国に行く為に必要なものは何でしょう?
この問いを投げかれられたのなら、真っ先に誰もがパスポートと答えることだろう。
だが、彼の場合は少し違う。
「タバコ、自分の吸ってる銘柄がないと、困るだろ」
ユヅルは迷うことなく、そう答える。
そんなこんなで、ユヅルにヒサノ、レベッカの三人は、待ち合わせの場所に旅行用の着替えをつめたキャリーバッグだけを持って、待ち人が来るのを待っていた。
「うう、緊張します」
「そうか? もしかして、外国に行くの初めてか?」
緊張しているヒサノに対し、見当違いな声を投げかけるユヅル。彼女にしてみれば、付き合い始めた彼氏の親、そんな人物に会いに行くのだから、緊張しても無理はない。しかも、言語圏が違うので、挨拶がまともにできるかも怪しい。それで、彼女はこの日が訪れるまでの二日間で、申し訳程度の外国語を勉強していた。
「うう、おなか痛くなってきました」
「いや、なんでお前まで緊張してるのか、俺にはわからんぞ?」
そして、別の意味で緊張しているレベッカ。彼女は彼女で別の意味で緊張していた。それというのも、先日、彼から相棒として正式に認めてもらったわけで、これからの仕事は、当然のようにユヅルと組むことが多くなるはず。しかし、彼女は執行官として新米であり、他の執行官と面識もほとんどない。だからこそ、他の執行官に、彼の相棒として認めてもらえるかどうか、心配でしょうがないのである。
「そうこういってるうちに着たぞ」
彼が指差してから少し経って、輸送用のヘリがその場に着地してくる。
そして、中から現れたのは、レベッカも少なからず面識のある執行官、エカテリーナ・フォルダン秘書官。
「少し遅れてしまいまして、申し訳ありません」
「ああ、別にそこまで時間、気にしてないから。それよりも、英語じゃなくて、日本語で頼む」
エカテリーナは、彼の言葉を疑問に思い、そして、そこでようやくヒサノの存在に気づき、
「はじめまして、二人の保護者をさせてもらっています。エカテリーナ・フォルダンです」
「えっと、春日野ヒサノです」
日本語での挨拶を受け、緊張しながらも自己紹介を済ませるヒサノ。
「それで、失礼ですが、彼らとの関係は?」
「えっと、聞いてないんですか?」
「はい」
―ううっ、ゆ~君の意地悪―
エカテリーナからの問いを受け、事前に説明してもらえていると思っていたヒサノは、どう答えていいものか、悩んでしまうが、
「俺の女だ。説明はそれ以上必要か?」
ユヅルに断言され、気持ちが楽になった彼女は、手招きに答えるように荷物を持って、彼と共にヘリへと乗り込んでしまう。
「そうですか、彼女ですか」
「ええ、先輩の彼女です」
エカテリーナの確認するつぶやきに、相槌を打ってヘリに乗り込むレベッカ。だが、
「彼女? えっ、彼女って、あの彼女ですか?」
信じられないといった具合に、エカテリーナは自問自答を開始してしまう。
「そこまで驚くことか?」
ヘリに乗り込み、目の前の席で頭を抱え込んでしまっているエカテリーナ。そんな彼女を見るに見かねて、ユヅルは問いかける。
「だって、ハイドマン執行官ですよ? 単独破壊者にして、異端審問局一の問題児、エトセトラ。数え切れないぐらい悪名が轟くあなたに彼女? 多分、誰一人としてあなたの言葉を信用しませんよ、普通」
「酷い言われようだ」
流石のユヅルもため息をつき、タバコを懐から取り出したものの、何を思ったのか、そのまま吸うことなく元の位置へと戻す。
「どうかしましたか?」
「いや、流石に密室でタバコを吸うのはどうかと思って」
「嘘でしょ、嘘って言ってくださいよ。そんな、一般人みたいなセリフをあなたの口から聞くなんて。私はきっと夢を見ているんでしょうね」
「現実を直視しろ。ついでに、いい加減にしないと、暴力に訴えるぞ」
苛立ち混じりに答えるユヅルだが、コレは他の二人にとっても意外なこと。そう、ユヅル=タバコ。ヘビースモーカーにしてチェインスモーカーのイメージが二人にも定着してしまっている。
「でも、先輩、どうしたんですか?」
「あん? だって、密室だろ。お前やエカテリーナだけならともかく、今はヒサノも乗ってるんだ。流石に考えるだろ、普通」
「ゆ~君」
「すみません、空調下げてもらっていいですか?」
二人の掛け合いに、付き合いきれないといった具合に注文を口にするレベッカ。
「コレは、喜ぶべきなのですよね、きっと」
そんななか、一人自問自答をし続けるエカテリーナだった。
まぁ、彼の行動と人となりを考えれば当然の反応です