Happy Birth Day3
驚きの連続
「積もる話なんて俺にはないんだが、お前らはあったりするのか?」
品川姉妹が気を使い、三人だけにしてくれたというのに、開口一番、シロウはつまらなそうにそう口にした。
「確かにあるといえば嘘になるけど」
「面と向かっていわれると、少し悲しい気分になるね」
ユヅルとカズキの二人は、思い返しながら、ため息をつく。
「そういえば、シロウ、そんな目の色してたっけ?」
ユヅルの記憶の中にある彼の瞳の色は緑。だが、今の彼の瞳は赤と蒼のオッドアイ。瞳の色が年月で変化するなど、聞いたことがない。
「ああ、こいつは、可哀想なガキ共にくれてやった。それぞれ色が違うのは、くれてやった奴らが違うからだ」
あっさりととんでもないことを口にするシロウ。それを聞いて二人はさらにため息をついてしまう。
彼は昔からそうだった。
共にすごしたのは、一年という短い期間でしかなかったが、とんでもないお人よしで、誰彼かまわず救おうとしてしまう。そこにリスクがあろうと、ためらうこともせず。
「それで、お前ら、本当に何もないのか?」
シロウはタバコの煙を吐き出しながら、何気なく聞いてくるが、二人はそれに答えようとしない。
「たとえば、星装具のことだったり。星座神具のことだったり。聞かれたことに関しては、きちんと答えてやるよ」
その言葉は、二人の動揺を誘うには十分すぎるもの。
「やっぱりな、お前ら、又トラブルに巻き込まれてんじゃねぇか」
タバコを床へと落とし、ため息交じりにシロウは、はき捨てると、二人の額にでこピンをお見舞いしてくる。
「ガキが、大人ぶって悩んでんじゃねぇよ。テメェらの特権は、甘えることと、我侭を言えるってことだ。巻き込んだっていいんだよ、ガキの面倒を一緒に片付けてやんのが、大人の特権だ」
二人はこの言葉に反論することができない。
自分たちが子ども扱いされているという事実もあるが、純粋に心配してくれる好意に対して、あまりにも不慣れだから。
「まぁ、ガキって言っても、おまえらは一人の人間だから、プライバシーってやつがあるし。話したくなったら、話してくれりゃいいや」
コートのポケットから二枚の紙切れを取り出し、二人に握らせると、
「そこに俺の連絡先がかいてある。なんかあったら、連絡よこせ。まぁ、俺にも俺の日常があるから、いつでもどこでもってわけには行かないが、できる限り協力してやるよ」
「ありがとう、兄さん」
「なんか、悪いな、兄貴」
「最初っから、そうやって素直になればいいんだよ」
そう口にして、彼は新しいタバコに火をつけた。
「それにしても、俺は、俺よりも器用な人を始めてみた」
「そうだね、流石に器用すぎるよね、兄さんは」
シロウと別れた二人は、彼の置き土産、もとい、誕生日プレゼントとして受け取った、二人が少年兵だったときのドックタグを加工しなおして作られたピアスをつけながら、生徒会室へとむかっていた。
「へぇ、あの二人にそんな過去があるなんてね、初めて知ったよ」
「そりゃそうだ。誰かに話した覚え、俺にはないからな」
生徒会室から聞きなれた声がして、ユヅルは鍵を完全にぶち壊して室内へと侵入する。
「人がいない間に、暴露話か、あぁ?」
シロウの襟を掴んで、怒鳴りつけ、
「別に聞かれて困ることじゃないだろ。今のお前は、アレグリオの養子ってことになってるし」
対して怒鳴られた側は非常に落ち着き、
「ちょっと待ってほしい。その話、僕もユヅル様も兄さんに話してないはずだよね?」
カズキ一人が会話のおかしい箇所に気づいた。
そう、二人は自分が名前をもらい、今の生活がどんなものなのか、大まかな説明だけはしておいた。だが、その会話の中に、ユヅルの親について触れたことは一度もなかったはず。
「何で知ってる?」
「アレグリオ本人に確認取ったからな」
当然のように口にするシロウ。だが、それでこの場にいる人間は誰一人として納得していない。
「ねぇ、シロウさん。きちんと説明してあげたら?」
「説明べたのお前がそれを言うか?」
ヘキルの姉、アイリに言われ、窓辺に背中を預けたシロウは、
「俺は、元異端殲滅執行官、いや、異端審問局設立者だ。だから、アレグリオやお前らはものすごく年月の離れた後輩ってことになる」
驚くべきことを口にし、
「加えて言うなら、お前らの持ってる星装具や星座神具も俺が作ったものだ。後、何か言ってないことってあったかな?」
「兄貴、あんたいったい何者なんだよ」
そう、今まで口にしたことのない言葉をユヅルは口にする。彼の正体が、いったいどんな存在であっても、ユヅルにとっての彼という存在は変わらない。だが、疑問だけは拭い去っておきたい。
「ああ、肝心なことを言ってなかったみたいだな」
そこで一度言葉を区切り、
「俺という存在を一言で言うなら、神。この星を作った原初の存在。無限書庫の管理人。そんなところかな」
散歩にでも出かけるような気軽さで、彼は途方もないことを口にした。
ヒロイン一人が登場しないまま2ヶ月