Happy Birth Day2
風邪には作者も勝てませんでした
「とりあえず、もう一度確認させてくれ。今から、どこに向かうのかを」
「しつこいね、ユヅル様。料理部の屋台だよ。君もいい加減、覚悟を決めなよ」
文化祭のパートナーが、ヒサノからカズキへと交代し、行き先を決めたはいいものの、行き先を聞いてユヅルは行動を渋っている。
「なんで、そんな場所に。お前は自殺志願者だったのか、止めておけ。俺が言うのもなんだが、未来にはきっと、希望って言う素晴らしい存在がいるはずだ」
「どうして君がそこまで嫌がるのか、僕には理解できないけど。まぁ、そこまで君が嫌がるということは、何かしらトラウマでも刷り込まれたんだろうね、きっと」
仕方なく屋上でタバコを吸い始めた二人は、校庭の屋台で何かしら揉め事が起きていることに気づいた。だが、当然のごとく二人は動こうとしない。
「お祭り騒ぎに馬鹿はつき物。日本もそうなんだな」
「フーリガンと一緒にしたら失礼だよ、きっと」
そんなことを口にして、傍観者を決め込んだ二人だったが、次の瞬間、タバコを床へと放り投げ、その場所へと駆け出していた。そう、そこに、本来いるはずの人物がいたから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
場所は校庭の屋台密集地帯。
一人の女性が、飲み物を歩いていた男にかけてしまったことから、争いごとに発展。まぁ、よくあるパターンなのだが、場所が悪かった。男が苛立ち混じりに殴りつけた屋台の柱。それは屋台の重さを支える為に重要な役割があり、それが折れてしまった。そして、密集しているが故に、一つ倒れそうになれば、又一つ、ドミノのように崩れていこうとしてしまう。
そんな状態で、女性が動けるはずもなく、生徒たちの避難も、入場客の避難もままならない中、遂に屋台が一つ倒壊し、女性へと向かって倒れてくる。無論、女性に難癖をつけてきた男はとっくにその場を退散していて、女性に、逃げる術はない。だが、
「おまえ、俺の頼んだコーヒーはまだかよ」
つまらなそうに吐き捨てた言葉。
銀色の短い髪に、特徴的な赤と蒼のオッドアイ。左手の甲から、左の瞳にまで到達する刺青を入れた青年が、タバコの煙を燻らせながら、右手の一本だけで、倒れてきている屋台を支えていた。
「あの、その」
「ああ、考えがまとまってないのに話そうとするな。あと、この状況はあまりに面倒だから、とっとと避難しろ。屋台に残ってるガキ共もだ」
女性に対して一言説教した後、青年は生徒たちが避難を終了するまで屋台を支え続け、避難が完了したことを確認して、右手を離した。
「ったく、お前が妹の晴れ舞台を見に行きたいって言うから。わざわざ付いてきてやってみれば、早速いつものようにトラブルに巻き込まれやがって。いい年した女が、少しは反省って行動を覚えろ。サルでも真似事できるぞ」
タバコの煙を吐き出し、青年はベンチに座らせた女性に対して、マシンガンのように悪態をつき始め、その言葉を聴いている女性は涙目になってきている。
「ううっ、すみません」
両手でスカートを握り締めながら、女性はやっとのことで言葉を搾り出す。そんな中、
「姉さん、来るなら来るで、きちんと連絡をくださいよ」
ヘキルが騒ぎの収集をつけ終えて合流してきた。
「こいつがお前の妹?」
「はい、私の自慢の妹、ヘキルちゃんです」
「姉さん、僕はもう高校生、いい加減ちゃん付けはよしてくれ」
二人が談笑し始め、それに対して一言も口を挟むことなく、青年は黙ってみていたが、
「もう、俺、帰っていいか?」
「だめですよ、シロウさん」
女性に釘を刺され、シロウと呼ばれた青年は苦笑い。
「姉さん、こちらの方は?」
「こっちの人?」
「こいつに他人の紹介を求めるな。妹なら、わかるだろ?」
「ええ、まぁ」
「俺は、魅神楽シロウ。こいつの仕事の同僚で、本日は付き添い、以上だ」
名乗った青年に対して、ヘキルが苦笑いで応えたそのとき、屋上から急いで走ってきた二人が合流し、二人は息を切らしながら、自分の視線の先にいる人物が、本物であるかどうか、確認する。
「バイ・・・ソン?」
「その名前を知ってるってことは、俺が傭兵やってたときのガキ共だな。確か、バリカンと、レイズ」
「「バリスタとレイン」」
「ああ、そんな感じだった」
そう、二人の目の前にいる青年、魅神楽シロウこそ、二人の窮地を何度も救い、技術や知識を教えてくれた兄貴分、バイソン。
「久しぶりだな、ガキ共」
そして彼は、年月を感じさせない笑みを浮かべ、二人の頭を撫でるのだった。
最後のキーパーソン登場