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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第四章 Let`s Party
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第十五話 Happy Birth Day1

学園祭は続きます

「ありがとうございましたぁ」

 感謝の声と共にぬいぐるみを手渡すヒサノ。そんな彼女を見つめながら、ユヅルは黙々とぬいぐるみの追加を作成していた。

 学園祭二日目。

 一般参加のある今日、手芸部では作成したぬいぐるみの販売をしており、ユヅルが作ったぬいぐるみは飛ぶように売れている。もっとも、あんなことが昨日あったので、気を紛らわせるために忙しいというのが、彼には非常に助かっている。

「ゆ~君、お疲れ様」

 そんな彼が意識を彼女からはなしてすぐ、ヒサノはユヅルに缶コーヒーのプレゼントを贈る。

「まぁ、とりあえず明日の分がもうすぐ終わる」

「それはほんとうにご苦労様です」

 自身も彼の横に座り、ジュースを口にするヒサノ。本来であれば、この時間、ユヅルはヒサノと一緒に学園祭を回っているはずなのだが、手芸部が予想以上に忙しくなり、彼が作ったぬいぐるみが底を突くという事態が発生。その為、二人して手芸部に戻ってくることになってしまったのだ。

「打ち上げは豪華そうだな」

「そうだねぇ」

 二人して、売り上げを抱えて声たからかに笑っている岬を見て、若干ひいている。

「それにしても、何もお前まで戻ってくる必要はなかったんじゃないか?」

「一人で回って何が楽しいんですか?」

 疑問を投げかけるものの、ヒサノに質問を質問で返され、ユヅルは閉口。彼女にしてみれば、学園祭を楽しむというよりは、彼と一緒に学園祭に参加するという目的のほうが大きい。そして、それがかなわないのなら、せめて一緒にいたいと思う乙女心。もっとも、人付き合いの希薄なユヅルはそんな心の機微に気づくことはない。

「そういえば、ダンスパーティーって何やるんだ?」

「えっ?」

 ぬいぐるみを完成させ、缶コーヒーを開けたユヅルの質問に対し、ヒサノは一瞬固まってしまう。

「いや、あっちにいたとき、何回か参加したことはあるけど、主だった目的は踊ることじゃなかったし、正直、なんでそんなことをするのかわからん」

「う~ん、そうですね、みんなで達成感を味わう為に、踊る。そんな感じだと思います」

「そういうもんか?」

「そういうものです。楽しければ、楽しんだ者勝ちなんですよ、お祭りは」

 膝にひじを立て、そこにあごを乗せながら、ユヅルは少し悩んで視線を移動させ、

「じゃあ、あれっていったい誰が着るんだ?」

 そこにあるのは、彼が準備期間に作成し、完成させたチャイナドレス。今はマネキンに着せられ展示されているが、彼は、それがダンスパーティーで誰かが着るものだと思っていた。

「それは、ちょっと、まだ言えません」

 苦笑いをしながら答えをはぐらかすヒサノ。そんな彼女に対し、立ち上がったユヅルは、

「まぁ、いっか。それで、楽しむんだろ?」

 彼女に対して右手を差し出す。

「はいっ」

 そんな彼の手を握り返し、ヒサノは満面の笑みを浮かべる。

「本来、エスコートって奴は、男性側がやるはずなんだが。お祭りって奴が俺は始めてだ。悪いが頼めるか?」

「勿論です。今日一日で、ゆ~君をお祭り好きにしちゃいます」

「お手柔らかに」

 彼の右腕に抱きつく様に体を密着され、二人は手芸部を後にした。


「それじゃ、まずはコレです」

 そう口にして、ヒサノが手渡してきたのは小さなわっかが五本。俗に言う輪投げなのだが、ユヅルはそんなことを知らない。

「これは、輪投げといって、このわっかをあっちにある商品に潜らせたら、商品がもらえるゲームです」

「ほうほう」

「ちなみに参加賞というものはありません」

「世の中、どこもかしこもせち辛いな」

 そんなことを口にしながら、ユヅルは商品へと目を向ける。ただ、そこは私立校。駄菓子などではなく、ゲーム機やブランド品が並んでいる。ただ、それに伴い、ゲームの難易度も高いのだが。

「なんか、欲しいのあるか?」

「取ってくれるんですか?」

「まぁ、取れるかどうかは保障しないけどな」

 しかし、その言葉を聴いた瞬間、ヒサノの視点は一点に集中している。その先にあるのは、ブランド物のペアリング。誰が見ても、彼女が欲しいものは明白である。

「五回中、一回ぐらいなら、何とかなるだろ」

 そう言って、彼は右手の指でわっかを回転させて、あっという間に五本のわっかを投げきってしまう。そして、人付き合いは不器用なくせに、その他のことに関しては超がつくほど器用なユヅル。その全てが商品を手に入れている。その中には、当然、先ほどヒサノが欲しがっていたペアリングもあり、係りの生徒の顔は若干青ざめている。

「ほれ、欲しかったんだろ?」

 商品を受け取り、ペアリングをヒサノへと手渡すが、彼女はなかなか受け取ろうとはしない。

「あのですね、ゆ~君、片方は、ゆ~君がつけてくれませんか?」

「別にいいけど?」

 そう口にして、男性用を右手の中指にはめるユヅル。しかし、それでもヒサノはまだ指輪をつけようとしない。

「もう一個お願いです。指輪、つけてくれませんか?」

 それは、精一杯の勇気を振り絞った彼女の行動。当の本人は理解していないだろうが、ユヅルは指輪を彼女の右手の薬指にはめてあげる。そして、当然、その行為にどういう意味があるのか、彼は理解していない。

「それじゃ、次に行くとするか?」

「はいっ」

 そうして、ヒサノにとって大切な思い出が一つ刻まれたのであった。



鈍感、極めし者、その名はユヅル

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