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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第四章 Let`s Party
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過去と今4

チートタイム終了

その攻防は、正に一方的。カズキが予想していたとおりの結果。ユヅルが攻め、クレハが防ぎ、回避する。その攻防に交代はなく、また、行き着く先も決まっている。彼の攻撃に対して、どうにか反応しているクレハだが、彼女自身、自身の不利を悟っている。彼は、周囲を巻き込みながら戦い、そして、周囲を傷つけた分だけ己の力を増し、傷を癒していく。対して、彼女にそんな力はなく、防戦一方。逃走することは、おそらく可能だろうが、それは彼女のプライドが許さない。

「気に食わない、あんたはやっぱり最高に気に食わない」

 過去、確かに彼女はユヅルに勝利している。しかし、それは単純な実力勝負ではなく、彼の弱さを突いた戦略によるもの。実力や能力、彼女自身、彼に及ばないことも、負けていることも理解している。それでも、納得できるかといわれればそうではない。そのことが許せず、敢えて彼の大切なものを奪い、動揺させ、敗北させた。自分が感じた無力さを、虚脱感を味あわせる為に。それなのに、彼は自分を殺す刃を握らなかった。コレほどまでの屈辱は彼女に存在しない。だからこそ、

「僕は、君だけには負けない。負けられないんだよ、ユヅル」

 彼女は刃を手に立ち向かう。それが勝てない相手であっても、彼女は自分のスタイルを変えない。

「くだらねぇよ、クレハ」

 それは、完全に彼女の虚を突いた。故に、彼女は防ぐことができずに、自分の刃を完全に砕かれてしまう。

「そんな、理性を完全に捨てていたはずじゃ」

「ああ、捨ててたよ。ついさっきまでな」

 対してユヅルは、タバコに火をつけ、赤い刃を二振りとも鞘へと戻し、完全に敵意を消失させている。それと共に、彼の背の翼は消え、星装具である赤い刃は崩れ落ち、その姿を消し、彼女の白い刃が再生される。

「ったく、めんどくさいまねしてくれて、ありがとうよ」

 その声を受け、カズキは笑みを浮かべ、

「お礼はもっと、きちんと誠意を込めて口にするべきだと思うよ、僕は」

 二人の前へと再び姿を現す。

「はぁ、赤の担い手と、黄の担い手がこの場にいればもっと簡単に事態は収束できたと思うんだが、これから面倒だぞ、カズキ」

「そうだね、君が赤から解放されてしまったからね」

 その二人の会話をまったく理解できず、クレハは会話の内容についていけない。

「どういうことだ、コレは」

 それと同時に、彼女が今まで感じていた力をまったく感じない。そして、彼女の体に刻まれていた魔天数字が消失してしまっている。

「まったく、いくら蒼の担い手だからって、下手したら、お前が消滅してたぞ」

「まぁ、勝算はあったからね」

 お互いにタバコの煙を燻らせながら、苦笑いを浮かべるユヅルとカズキ。

「どういうことだ、コレは」

 再び、彼女は同じ言葉を口にし、

「僕が、星装具アストラルの力を使って事実を改変したんだよ。君たち二人の記憶に介入して」

「そのおかげで、俺もお前も、こいつも、星装具に溜め込まれていた六百六十六の魂を開放。殆どゼロからやり直しってことだ」

 驚愕の事実を知らされる。それもそのはず、到達者アデプトとしての力を失い、今までの罪もないがしろにされ、消されてしまったのだから。

「さて、コレでお互い互角。お前が殺した人間も死んだという事実を改変されて、死んでいない。憎しみもない。それでも、俺とやりあいたいっていうんなら、受けてやるよ」

 彼女が過去殺した人間、アンネ・リーベデルタも、テレジアもシムカも生き返っている。それこそが、カズキの所持していた星装具のみが一度限り使える、究極の奇跡。ただ、それ故にユヅルは自分の持っていた星装具を失い、彼女たち到達者は、今まで従えた魂を開放して、力がゼロの状態に戻ってしまっている。

「どうやら、俺は一人で背負いすぎてたみたいで、背負ってやるって奴の存在に気づいてやれてなかった。まぁ、人間なんてみんなそんなもんだろ」

 それなのに、力を殆ど失った彼はあっさりとしている。

「覇王の魂もなく、星装具もない。そんな状態で、僕に勝てるとでも?」

 対する彼女は、星装具が健在。

「勝てるに決まってる」

 そして、戦いは再開される。

 クレハの持つ白い刃は、輝きを増しユヅルへと傷を刻みこんでいく。対して、彼は回避行動だけを取り、笑みを崩さない。絶対的な不利であり、現状を打破する術も限りなくゼロに近いというのに、彼には絶望した様子は微塵もない。

「何がおかしい」

「おかしい? 違うよ、嬉しいんだよ」

 挑発とも取れる言葉を彼は口にし、

「考えてみろよ、王様気取りだった俺らが、平民からスタート。これから、何回上に昇っていけるんだ?」

 そして、

「俺の感じていた世界がどんだけちっぽけだったか、教えてもらえたんだ。これほど、楽しめることが他にあるか?」

 好奇心を、向上心を、昂りを抑えられない少年相応の笑みを浮かべている。

「馬鹿にするなっ」

 それに激昂したクレハは、必殺の一撃を放つ為、敢えて間合いを取り、

「星装具、真白新生ホワイト・ユニバースの担い手、壬生クレハの名を持って命ずる。敵を討ち滅ぼし、我に勝利をもたらせ」

 白銀の輝きを伴った刃を振り下ろす。

「それがお前の全力か。なら、まずはそいつを超えることから創めることにしよう」

 必殺の一撃が迫る中、タバコをその場で放り投げ、

「乗り越えるべきは常に己。なら、奮い立つときは今。故に目覚めろ。俺は俺でしかなく、他の誰でもない」

 紡ぐ言葉は歌うように、自分の意思を確認するように、

「今こそ輝くとき。永遠よりも刹那を、憎悪よりも愛を、狂気よりも歓喜を、そして、悲しみよりも大切な何かを、俺は掴み取る」

 その場で右手を天へと掲げ、

「さぁ、共に創めよう。ここが俺とお前の出発地点だ」

 金色の光を掴み取り、白銀の輝きを粉砕する。

 彼の右手に握られているのは、金色に光り輝く刃を持った大刀。

「俺は、英雄になんてなれない。そして、完全なる罪人にも。俺は俺だ、ユヅル・ハイドマンだ。今日、やり直せたんだ。だから、ここで俺は誓う。俺は、己の大切なものを二度と失わない。取りこぼさない。その為に、歌え、舞え、勝利の凱歌を共に謳う為に」

 構えを始めて見せるユヅル。それに対して迎え撃つクレハ。そこには、憎しみも怒りもなく、ただ闘争があるだけ。

「行くぞ、獅子凱歌レオルヴィート

 その一撃が勝敗を決め、敗者は倒れ、勝者は去ることなく背中をみせ、

「クレハ、お前も、やり直し方を見つけて、もう一度俺に会いに来い」

 優しげな言葉をかつての相棒に捧げるのだった。



過去の清算ができれば、どれほどの人間が救われることか

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