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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第四章 Let`s Party
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過去と今2

過去と向き合う

 月さえ雲に隠れ、一切の光が遮断され、街灯の明かりすら、蛍の光に満たない。

 そんな時刻、午前一時。

 指定された時刻に少し遅れ、ユヅルはその場所へとやってきた。

「まったく、女性を待たせるなんて、どういった教育を受けてきたんだよ、君は」

「お前と同じ教育だよ、クレハ」

 問いかける声、答える声。共に、人としての感情が欠落した無機質なもの。声を発した二人の表情は、片方は嬉々とし、もう片方は鬱屈。

「ふふっ、僕としては着てくれないほうが楽しめたんだけどなぁ」

「テメェの趣味に付き合うつもりはねぇよ」

「そうかい? あの時はあんなに楽しそうに、人間というラベルを貼られた肉の塊を、動けないようにして、拷問して、糾弾して、命乞いをさせてから殺していったのに」

「ああ、そうだな」

 嬉々として話すクレハに対して、ユヅルの回答はあまりにもそっけない。

「ああ、ひょっとして、まだあのことを根に持っているのかな?」

「お前、五月蝿いよ」

「いいねぇ、そういう表情が見たいんだよ、僕は。人間という、くだらないラベルを剥がした、ユヅルという名の本質を」

 それは一瞬の交錯。互いが互いに位置を入れ替えたとき、二人の左頬が少量の血液を流し、

「俺の本質だと、お前にわかるわけがないだろ」

「ああ、わからないから、知りたいから。僕はあの場所で、アンネ・リーベデルタを殺し、君に敗北を体験させて姿を消したんだ」

 クレハは謳うように、両手を広げ、

「初めての敗北はどうだった? 初めて大切な人を失った感想は? 信じていた相棒に裏切られた気分は? 知りたいことだらけなんだ、教えてくれよ、ユヅル。その為に、君は今まで生かしておいて上げたんだからさ」

「本当に、お前は性格悪いよな、むかしっから」

 二度目の接触。今度はクレハの髪が数本千切れ飛び、ユヅルの銜えていたタバコが地面へと落下する。

「ふふっ、いいねぇ。でも、もっとだよ。それじゃ足りない。理性を手に入れた獣は手ごわいが、その絶対的恐怖を忘れてしまう。そうだな、まずは、その理性を破壊することからはじめようか」

 クレハが口にした瞬間、彼女の周囲に二本の十字架が突き刺さり、そこに磔にされている人物が、彼の瞳に映った瞬間、彼の心を射抜く。

「お前も世話になったはずだろ、二人には」

「うん、だいぶ世話になったよ。おかげで簡単に捕らえさせてもらった。ああ、まだ殺してはいないよ? だって、君の目の前で殺さないと」

「本当に悪趣味だよ、お前」

 十字架に磔にされているのは、テレジアとシムカの二人。

「っで、それぐらいで、俺が怯むと?」

「そうだね、それぐらいで動揺されていたら、拍子抜けもいいところだよ。だからさ、追加のお品物も用意しました」

 楽しみながら、彼女が指を鳴らすと、振ってきた十字架は五本。そしてそこには、ヘキル、カナミ、レベッカ、カズキ、ヒサノの五人が磔にされている。

「いやね、数日ほど君を観察していて、彼女たちが君の日常たいせつなひとに見えたから。コレ幸いと、ね」

 悪魔めいた笑みを浮かべ、

「うん、だが、まだ足りないよね。そんなわけで、追加オプションも用意してあるんだ。ほら、僕って親切だろ?」

 彼女自身に力を完全に解放する。

「そうだねぇ、僕だけじゃなく、君も力を解放したら、彼女たちの命は、もって三百秒って所かな。ほら、はじめようよ。ここに、君が殺したがっている、元異端審問局所属の執行官見習いにして、君の昔の相棒。そして、執行官殺しの罪を犯した人間。加えて、君に対を成す、到達者アデプト。六百六十六の、完全なる調和の数字を得た人間、壬生クレハが目の前にいるんだからさぁ」

 しかし、ユヅルはすぐに自分の力を解放しようとはしない。

 柄にもなく、彼は迷ってしまっている。

―大切なのは己自身。それ以外は、守れるときに守れ―

 そう教わったはずなのに。

「うん、そうだね。じゃぁ、ここで一つサプライズをしようか。ほら、一つ目」

 彼女の声が彼の耳に届くまで、長い時間がかかった。それは、彼の目の前で、一人の女性、シムカの首がゆっくりと地面に落ちるよりも長い時間。そう、つい先ほどまで生きていて、本当なら、今日の学園祭に来るはずだったのに。それは二度と帰ってこない未来。

「どうかしたかい? 僕たちはこうして今まで奪ってきたんだ。奪われることだって想定してきているはずだろ? それとも、生贄は一つじゃ足りないかな?」

 そう言って、テレジアの心臓に剣が突き刺さり、次の瞬間、彼女の姿が見えなくなるほどの量の刃が、彼女の体を十字架に一体化させる。

「…………」

 それは、果たして言葉だったのだろうか。テレジアの唇が動いたようにも見え、それが一層、クレハの笑みを濃くする。

「彼女たちも災難だったよねぇ。僕たちみたいなのに、出会わなければ、死なずにすんだのに」

 それは、死者を嘲笑する笑み。

「何か言ったらどうだい、ユヅル。それとも、この程度でショックを受けて、言葉が口から出ないなんて言わないよね?」

 クレハは問いかけるが、その言葉は彼に届いていない。

―どこでいったい、俺は間違った?―

 奪われたのは、母親のように慕っていた二人の命。奪った相手は笑い、二人の死を嘲っている。しかし、それは結果であって、原因ではない。原因は他ならぬユヅル自身。彼が、過去彼女に敗北し、一人の女性を守ることができなかったが故。そのせいで、今回は二人の命が奪われた。無論、これからその数は増えるかもしれない。

「はぁ、拍子抜けもいいところだなぁ」

 そう口にして、次に誰の命を奪うか。いっそ、全員生贄として捧げてしまうかを悩んだクレハ。そんな彼女の耳に響いてきたのは、乾いた笑い声。発しているのは、ユヅル。そして、彼女は楽しげに彼へと視線を送る。

「どうかしたかい、ユヅル?」

 彼はその問いかけに答えない。ただ、乾いた声が響くだけ。だが、それは彼女の想定の範囲をはるかに超えた、声。


無限書庫アーカイバへの接続を開始

 防御プログラムの発動を確認、排除

 厳重封印の開放を承認、了承

 深奥室への接続を開始

 防御プログラムの起動を確認、排除

 封殺封印の開放を承認、了承 』

 

「封殺封印だと?」

 そんな言葉、彼女は聴いたこともない。同じ、到達者であるにもかかわらず。


『 全魂の閲覧及び召喚を開始

  悪魔、天使、聖獣、邪龍、各六百六十六、

  計二千六百六十四の魂の選別を開始 』


「いったい、何をしている」

 そんな言葉は、今の彼にはきっと届かない


『 領域固定開始

  並びに封殺結界の座標固定承認

  魂の選別を終了

  開放対象の選択を承認 』


『 開放 覇王セフィロト 』



言葉は必要ない

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