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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第四章 Let`s Party
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準備の日々3

謝るべきもう一人

「現実はかくも空しく、幸せな一時はいつも儚い」

 かつて、詩人のようにその言葉を、謳うように口にした人物を久しぶりに思い出し、ユヅルはその一節だけを口に出す。

「へぇ、それは誰のセリフだい、ユヅル様?」

 いつものようにカナミから逃走し、逃げ込んだ図書室で彼に声をかけてきたのは、カズキ。そんな彼女を見て、

「ああ、お前もよく知っているやつだよ」

「うん? 僕も知っている人物?」

「ああ、バイソン。そういえば、いきなりドイツになんか行って悪かったな」

「謝ってもらったら、こっちとしては、いう言葉がないよね」

 ユヅルの謝罪を受け、あっさりとカズキは口にする。彼女が怒っていたのは、突然彼が、昔のようにいなくなってしまったことが深く、関係していたから。

「そうそう、ウインドとレイブンにあったよ」

「へぇ、そいつは珍しい。相変わらず元気だったかい?」

「殺そうとしない限りしなないし、にくったらしいほど元気だった」

 彼の言葉を聴いて、少しだけ声を出してカズキは笑う。

「なら、レイブンの恋心は未だに成就してなかったってことかな?」

「あのおっさんも、いい加減覚悟決めればいいのにな」

 旧知の人間を話題に会話を重ねていく二人。そこには、他の三人が加わることのできない、時間という名の大きな壁が存在している。

「そういえば、ユヅル様、作詞はできたのかい。真田君が探していたみたいだけど?」

「ああ、できてる。見たければご自由にどうぞ」

 そう口にして、ユヅルは制服のブレザーからメモ帳を取り出し、カズキに対して放り投げる。

「これかな、『Can you see me?』と『Summer snow』っで間違ってないよね?」

「ああ」

「ふふっ、いつからこんな言葉を言えるようになったんだい?」

「笑うなよ」

 カズキが微笑しながら、視線を落とす先には、彼が作詞した二曲の歌詞。その曲が両方ともラブソングなのだから、彼女の反応も当然かもしれない。

「あれっ、でも確か、ステージでやるのは五曲だったはずだよね?」

「ああ。内二曲がそれで、後の三曲はこの後、ミーティングで決めることになってる。はぁ、思い出したら腹が減ってきた」

 ユヅルはタバコを吸うことなく、自分の手を腹部に当てる。

「昼食はまだとっていないっと?」

「そりゃ、毎度毎度逃げ回る羽目になれば、食えないときもある」

「食べてあげればいいのに」

「俺は胃薬を常備してない」

 カズキの提案に対し、即答する彼を見て、

「なら、一緒にランチでもとるかい?」

 かばんを開け、その中から弁当箱を取り出して提案する。

「多少なりとも、多めに作ってはいるけど、分けてあげるんだから、少ないとか文句は口にしてはダメだよ?」

 そんな彼女の言葉を聴いて、一瞬だけ、不覚にもユヅルの思考が停止してしまう。

「うん? どうかしたかい?」

「いや、お前、料理できたんだ」

「本当に失礼だな、君は。流石に、引き取ってくれた両親が共働きだから、料理ぐらい人並みにできるようになるよ」

「そいつは失礼」

 彼は、カズキに対して非礼を詫びるように一礼し、

「それじゃ、ご馳走になりますかね」

「うん、そういう態度が最初から取れればいいんだよ」

 二人はほぼ同時のタイミングで笑い出し、奥の部屋で食事を開始することになった。


「それじゃ、ステージではこの構成でいくことに大決定」

 軽音楽部の部室。アキタカが黒板を使って声高々に宣言したので、それに対して、ユヅルとカズキの二人は、乾いた拍手を彼に対して送る。本来であれば、この場には、軽音楽部のメンバーである三人もいるはずなのだが、彼らは未だ補習という名の拘束から、抜け出ることを許されていない。

「いや~、突然ユヅル君がいなくなったときは、どうしようかと思いましたけど、戻ってきてくれて本当によかったです」

「しつこいな、お前も。その件に関しては謝ったろ」

 アキタカの言葉に対し、少し不機嫌になりながら、ユヅルは反論する。

「それにしても、お前、思い切った構成にしたな」

「コレのどこに問題がありますか?」

 アキタカは黒板を叩きながら反論。

 ステージで披露する曲のリストは以下のとおり


 『ミュージックジャンキー』 作詞アキタカ 作曲ユヅル

 『Joker』 作詞カズキ   作曲ユヅル

 『ボトムレスピット』    作詞アキタカ 作曲ユヅル

 『Can you see me?』    作詞作曲ユヅル

 『Summer snow』   作詞作曲ユヅル


「どうしたもこうしたも、俺が加入してからできた曲だけだろ。俺が来る前に作った曲は?」

「成功すれば勝ち組です」

 プライドは成功の邪魔になるなら捨てるべき。それが彼の考えらしい。

さて、ほうって置かれた一人が次回登場

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