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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第三章 執行官の誇り
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天使光臨5

戦闘激化中

「そうそう、がんばっている後輩君に、いい情報を教えてあげるよ。僕は、君のいっているとおり、複数の術式を展開し、尚且つ天使召喚の術式まで展開中。僕から、君達へ攻撃を加えることはできないんだ」

 笑みを浮かべながら、リカコは自身が不利になるであろう情報を惜しみなく口にする。それが、罠であるということを考えないケイオスではない。しかし、事態は深刻。残り時間もすくなってきている。それが、彼に決断を早めさせてしまう。

「随分と親切な先輩だね。心遣い痛み入るよ」

 能力を限界を超えての行使。それにより彼女のいる空間ごと爆破しようとしたケイオスの体が、側面からの衝撃に反応することができず、床にたたきつけられてしまう。

「素直すぎる性格は少し考え物だね。僕はきちんとこういったはずだよ。僕からは、君達へ攻撃を加えることはできないと」

 それは、彼女の協力者がこの場にいるという意味だったらしい。しかし、ケイオスの視線は、攻撃を自身に加えてきたものを見て、不覚にも固定されてしまう。それは、紛れもなくかつての仲間。

 席次の九、称号『処刑人』、シャルロット・オーギュヌス。

 席次の十、称号『墜落者』、ワン・フェイリン。

 この場所で殺されたはずの二人の執行官。

「まさか、死体操想術ネクロマンシアだと」

「ご名答。君は本当に博識だね。君みたいなのが後輩で僕も誇らしいよ」

 死体操想術。

 意味どおり、死者の肉体を行使する、外道と呼ばれる技術。しかし、それは、操るだけであって、個々の持っていた技術や能力までは行使することのできない技術。なのに、死者である二人の肉体は、生きているとき同様、もしくはそれ以上のキレを見せ、ウインドとセンザの二人と戦闘を開始している。

「どんなからくりだよ、これ」

 口の中をきったのだろう、少量の血液を唾と共に吐き捨て、ケイオスは立ち上がる。

「ふふ、君は何か誤解しているみたいだね。僕は一言も、この場所にいるのが僕と君たちだけだとは言っていない。伏兵ぐらいいるに決まっているだろう?」

 そう口にして、左手で彼女が指差した先には、仮面で表情を隠した一人の青年が立ち尽くしている。

「彼のことを君たちは知っているかな。いや、知っていないからといって恥じる必要はどこにもないよ。でも、折角だから教えておくに越したことはない。彼は僕のチームメイトでね、元異端審問局所属の異端殲滅執行官。アンブレラ所属当時の席次は二、称号『人形遣い』、クルーガー・マイソン」

 その言葉を聴いて、ケイオスは頭を抱えたい気持ちでいっぱいになる。

 敵は元を含めて執行官が四人。そのうち一人には攻撃自体が意味を成さず、二人は死人。打開する方法を探すほうが難しい。

「ハイドレンジア、二人がどうやって操られているか、理解できるかい?」

 同じ操作系の能力を持つ彼女に対し、質問を投げかけてみるものの、

「あそこまで正確無比な操作は無理。方法としては、糸による遠隔操作か、生体電流による電極操作の二択」

 こちらが選ぶ選択肢が返ってきてしまう。

「なら、試してみれば、いや、試すしか方法はあらへんやろ」

 ケイオスが命じるよりも先に、彼らの視界を白光が包み込む。原因はフジノの能力である『電力操作』によるもの。彼女はその能力をもってして、地電流を媒介にして、局所的に雷を発現させていたのだ。

「おやおや、折角、全員の能力を把握させずに戦っていた指揮官殿の努力を無駄にしてしまうとは。部下はあまり優秀ではないらしい」

 観察するようにリカコは告げ、その視線の先、二人の死者は、白煙を上げながら、焦げた肉体を修復し始めている。

「肉体再生、いや、時間逆行リバースか」

「そうだよ、彼に操ってもらうんだ。なら、最高の素体に、最高の技術を投入したものを提供するのが礼儀というものじゃないか」

 そして彼女は、十字架の上に立ち、両手を広げ、

「さぁ、ここで僕は君たちの努力を否定しよう。今、術式は完成した。僕は、実験に成功した。だから、君達は人柱になってくれ」

 無慈悲に彼女は言葉を吐き出し、それと同時に、天井を一瞬で消し飛ばし、白い翼を広げた人ならざるものがその場所に君臨する。

「僕はこれから、天使の従僕化に関する術式を展開する。それまで、天使がどこかにいかないように、君達はがんばって、生き延びるといい」

 リカコは楽しげに言葉を告げるが、それは、自身が天使の制御を確立するまで時間稼ぎをしろといっている無常なもの。しかも、この場にいる六人には、その拒否権が与えられていない。

「ようやく隙を見せてくれた」

 その言葉と共に、リカコの胸から突き出てくる刃。

「頭のいい人間、臆病な人間、そういった人種は自分の目的を達成したとき、ようやく隙を見せる。まさか、自身にかけている術式を解除するとは、思ってもいなかったけどね」

 彼女の背後、その旨に刃を突き刺しながらレイブンはつまらなそうに告げる。そう、彼女は、このとき、この瞬間の為だけに、自身の姿や気配さえ消して耐え忍んでいたのだ。

「しかし、隊長、この状況、どう召集つけましょうか」

 レイブンが完全にリカコから注意を切り、ウインドに声をかけた瞬間、その場にいた全員が入り口の壁まで吹き飛ばされ、叩きつけられた。

「やってくれるじゃないか、君達。まさか、ここまでやってくれるとは僕も思っていなかったよ」

 それは、初めてリカコが見せる憎悪という名の表情。

「そんなに自殺がお好みなら、今ここで、君達を終わらせてあげよう」

 そこにどれほどの力が込められているのか、その場にいる人間で理解ができるものはいない。ただ、彼女の両手に集まった力。あれほどの『魔術』を行使できる人間が力を解放したら、予想がつかない。

「天使の光臨に立ち会えたことを光栄に思い、そして逝くがいい」

 彼女の言葉と共に解き放たれる力。それは、世界を蹂躙するように圧倒的で、その場にいた者たちにはなす術もない。そう、この場にいた者たちには。

「まったく、野暮用片付けて駆けつけてみれば、ヒスってるババアと、ボロボロの馬鹿が六匹。これは俺の見間違いか何かか?」

 世界を蹂躙する力は、それを飲み込む発光によって消し去られ、

「まぁいいか」

 タバコの煙を吐き出しながら、ユヅルは倒れたままのケイオスへ聖杯を投げ渡し、

「さて、事情はよくわからんし、現状も中途半端にしか理解できてない。ただ、一つだけ確かなことがある」

 そこで彼は言葉を一度区切り、

「俺の領域ナワバリに踏み込んでただで済むと思うなよ」

 天使と魔術師に対して宣戦布告した。


ヒーローは遅れて、一番いいときにでてくる

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