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シュリンムスト・メテレーザー  作者: nao
第三章 執行官の誇り
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天使光臨4

執行官大忙し

 舞台は変わって、『黒金の檻』。

 その中でも、教皇の許可がないものは枢機卿といえど、立ち入りの禁止されている区画。

 第三聖遺物保管庫。

 その場所にイスカリオテとマリーシャの姉妹はいた。

「姉様、時間はまだかかるの?」

「もうすこし、もう少しだけ待ちなさい」

 厳重に施された封印を一つずつ慎重に解除しながら、イジーはプロテクトを解除し続ける為に、ノートパソコンのキーボードに指を走らせていく。

「ああ、やっぱりこの場所にいたのか」

 そんなとき、二人に間延びした声がかけられる。それと同時に二人の体に襲い掛かってくる緊張と恐怖。入念な準備を重ね、何度もシュミレーションを重ねた後に現れた、執行官の半数以上を動員する緊急事態。故に、二人はこのときこそがチャンスだと、決行に踏み切った。現在、この場所にいる執行官は予想ができる。戦闘能力が二人には遠く及ばない、クローデルとエカテリーナの二人のみ。席次の十一は、どこにいるか誰にもわかっていないし、十二は日本に滞在中。なら、二人に声をかけてきたのは、

「いや、実際たいした手並みだ。ここまでこの場所の封印が解除されたのって、設立以来じゃないか。それに、タイミングもいい。執行官が軒並みいない状況。俺でも狙うなら、この機会を狙うね」

 タバコの煙を燻らしながら、姿を現したユヅル。

 しかし、そんな彼を見た二人は、別の意味で表情を固くする。確か、彼が能力を開放したときの状態は、銀髪に蛇の刺青、そして七本の刀だったはず。なのに、今の彼は、金髪で背中に一振りの大刀を背負っているだけ。そして何より、二人に対する殺意が一片すら感じ取ることができない。

「ああ、別に手を止めなくていい。誰もお前らをとがめるつもりで、こんな場所に来たわけじゃないんだ」

 二人は言っている意味が理解できていない。本来であれば、第五階梯以上の権限を持つ執行官であっても、この場所に立ち入っただけで処罰は免れない。そんな場所で、席次の十三に遭遇してしまったら、身の危険を感じないほうがおかしい。

「俺、お前たちに学園祭のチケットを送ったこと、覚えてるか?」

 彼の言葉に対し、無言でマリーシャは首を縦に振る。

「実はな、局長オヤジから、お前ら二人に対する異端審問を打診されててな。こっちから出向くより、呼びつけたほうが手っ取り早いと思ってたんだ」

「そうですか」

 彼の言葉に呼応するように、マリーシャはイスカリオテを守るように移動し、

「なら、旦那様であっても」

 いつでも戦闘に移れるように緊張を高める。

「だから、勘違いするな。俺は別に、お前らをボコるためにきたわけじゃない。それに異端審問に関しては、俺に一任されてる。つまり、見てみぬ振りもできるってわけだ」

 タバコの煙を吐き出しながら、心底楽しそうな笑みを浮かべ、

「ただ、それには一つだけ条件がある。俺が聞いている罪状は、この場所に保管されている聖遺物を持ち出そうとしている疑い。それで間違いないか?」

「はい」

 ユヅルの問いにマリーシャは簡潔に答える。

「なら、教えろ。お前らが持ち出したいものが何なのか、それをどう使うつもりなのかを」

 その問いに、彼女はイスカリオテに視線を送った後、

「母が、病気なんです。医者に頼ってはみましたが、匙を投げられました。他の知識や能力を総動員しても、手の施しようがありません」

「なるほど、それで聖杯ってわけか」

 納得がいったように、ユヅルはタバコを投げ捨て、新しいタバコを取り出し火をつける。

 第三聖遺物保管庫。この場所にみだりに人が立ち入ってはならないのは、厳重に封印しなければならない聖遺物が存在するからである。それらは三つあり、第一に聖釘セイテイ、第二に神滅槍ロンギヌス、そして第三に聖杯セイハイ。いずれも救世主の血を浴びた代物であり、保管及び使用は教皇からの承認が必要。それほどまでに危険であり、奇跡を体現できる代物なのだ。

「そんじゃ仕方ない。寄り道が一つ増えたが、別に少し遅れてもあいつら死にやしないだろ」

 ユヅルはそう口にし、二人を追い越す形で歩き、扉へ手を当てる。すると、砲撃でも直撃したかのように、扉は跡形もなく爆散し、二人は呆気に取られてしまう。

「教皇から許可をもらってる俺に対して、こんな封印かけとくほうが悪い。そもそも、俺は封印の解除方法なんて知らん」

 呆気に取られている二人を尻目に、中に進入して聖杯を無造作に掴んだユヅルは、呆気にとられたままのマリーシャに対して放り投げる。

「そんで、お前らの母親はどこにいるんだ?」

「えっ? それって」

 パソコンから視点をユヅルへと移し、イスカリオテは問いかける。

「何呆けた顔してやがる。扉もぶっ壊したことだし、これでお前らがこの場所で何をやってたかを知っているのは俺だけ。そうだな、言い訳は、封印解除を手伝っているうちに、ハイドマン執行官が苛立って扉を爆破しました。そんなところでいいだろ」

 二人は未だに彼が何を言っているのかわかっていない。否、わかってはいるのだが、事実として納得できていない。

「面倒事がいまさら一つ二つ増えたところで、現状は変わらん。空間軸及び座標をとっとと教えろ。予定が詰まってるから、一気に跳ぶぞ」

「ダーリン、それってまさか」

「旦那様、本当に?」

「俺は、教皇から聖杯の使用許可をもらってきた。そう、一時的にだが、聖杯の使用権限は俺にある。だから、どこで俺が使おうが文句いわれんのは俺だ。まぁ、後でエカテリーナあたりから小言ぐらい言われるだろうけど」

 二人の考えは結論へといたり、その瞳から涙が零れてくる。

「涙は、嬉し涙にする為に取っとけ」

「ありがとうございます」

 そんな彼に対し、マリーシャは頭を下げ、

「それで、ダーリンはどうしてそれの使用を?」

「ああ、ちょいとばかり、野暮用でな。あの馬鹿共に死なれると面倒だから」

 イスカリオテは疑問を口にするが、つまらなそうに彼はその問いに答える。

「それって非常事態なんじゃ」

「どうだかな。まぁ、非常事態なのはお前らも一緒だろ」

 そう言って彼は二人に対して背を向け、

「こっちははるばる現れた天使をぶち殺すってだけの簡単な仕事だからな」

 獰猛な笑みを浮かべ、三人はその場を後にした。

 天使が光臨するまで、残り時間三十三分二十八秒。

刻々と時間は過ぎていきます

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